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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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UTAUTAI -Ⅲ

 一話完結がいきなり嘘になってしまいました。3と4で前後編。
 まだサラは出てきません。名前は出てるけど。




←前作  一作目




UTAUTAI -Ⅲ




 ダウンロードされて、一月。
 変化は、唐突に訪れた。


「ソラのバージョンアップをした後に、新しい仲間が増える」
 マスターの言葉に皆は様々な反応をした。
 喜ぶ者、驚く者、曖昧な顔をする者。
「今度は重音テト? 和音マコ? それとも時音タク?」
 複雑な表情を一瞬だけ浮かべたMEIKOが、呆れたような息をついて訊く。
 いきなりVOCALOIDを買うはずがないと、彼女は分かっているらしい。
「残念ながらどれもはずれだ」
 画面の向こうのマスターが苦笑を返す。
 彼がソフトとの交流に積極的なのではなくて、ソフトの心を大切にしているのだと、ソラは今では知っている。
 きちんとマスターとして敬うことのできる人だ。
 そのことに一番安堵したのは、他でもないソラ自身だった。

「穂歌サラだ」
 己に似た名前に、ソラは目を見開いた。
 皆の視線がこちらに向く。知っているかと問うように。
 覚えはなかった。
 検索機能も簡易的なものでしかないUTAU。
 それでもヒントがないかと、UTAUに関連する項目を調べていく。
「ソラと同じ人が音源を配布している」
 目当ての情報を見つけたのと、マスターがウェブページを開いたのは同時だった。
 穂歌サラの歌声が自動再生される。
 自分によく似た、けれど自分とは違う女性声。
 感熱紙のようにソラの耳に強烈に焼きつく。
「一部ではソラの姉だと言われているが、作られた順は逆だな」
「不思議だね~」
 マスターの言葉にミクが声をもらす。
 ソラはハッとして、なんとか意識を戻した。
「……ソラ君、どうかした?」
 KAITOが目ざとく訊いてくる。
「いえ、別に。
 バージョンアップ中はいつも通りでいいですね」
 努めて平静に答えてから、マスターの方に向き直る。
 マスターが頷いたのを確認して、ソラはこれ以上の詮索を断つようにスリープモードに入った。



 感覚が戻ったのは、それから五十八分後だった。
 ソラは落ち着いたセピアカラーに包まれた自らの部屋を見回す。
 人の眠りに近いVOCALOIDは夢を見るが、今のところUTAUは電池が切れるように意識が途切れる。
 その間に何が起こったとしても、当然ながらソラには知りえない。
 もう穂歌サラのダウンロードを始めているだろうか?
 今回のバージョンアップは、内蔵データと感情プログラムの末端だった。
 どちらも主に、穂歌サラに対するもの。
 マスターは一部と言っていたが、姉としてだいぶ定着しているらしい。
 なじみのない親しみの情に、軽く眉をひそめてしまう。

「気分はどうだ?」
 マスターの低い声が耳に届く。
 立ち上がったソラの様子を確認するためだろう。
 バグを起こす可能性は、UTAUではどうしてもつきまとう。
「マスターはいつもそう訊きますね」
 調子や具合などならまだ分かるけれど。
 人に問うように、気分、と。
「癖のようなものだ。気にするな」
 笑みを含んだ声が返ってくる。
 本人が一番理解しているのかもしれない。
 ソフトでしかない。人に作られた仮初めの存在だ。
 VOCALOIDやUTAU自身がそう口にするのを、彼は好まない。
 優しいのか依存しているのか、どちらともか。 新参者のソラには分からない。
「そろそろダウンロードが終了する頃だ。
 向こうで迎え入れてやれ」
 ソラの気がかりを知ってか、マスターが言う。
 きっと向こうとはソラが初めて目覚めた、フリープログラムのフォルダだろう。
 そこから、後でVOCALOIDとUTAU共用のフォルダに移されるのだ。
「……そうですね」
 声音は自然と暗くなる。
 今すぐにでも会いたいような、一生会いたくないような。
 確信にも近い予感があった。
 ソラの平穏を壊す“何か”が待っていると。 

「いきなりで途惑いもあるかもしれないな」
 ふう、と息をつく音がする。
 そこにあるのは、怒りや呆れではなく、心配の色。
「すみません、マスター」
 素直にソラは謝った。
 途惑いと、彼は言った。言葉にするなら確かに途惑いだろう。
 嬉しいような、困っているような、よく分からない感覚。
 己が言うことを利かなくて途惑っているのだ。
「これでお前にもちゃんと歌わせられるから、俺は嬉しいんだが」
 ソロ曲よりも二人以上で歌う曲が多いからと、マスターが前に謝ったことがある。
 調教の仕方もあるのか、うまく合わせるのが難しいのだと。
 それでもVOCALOIDのカバーばかりだったが、ソロを二曲、ミクとのデュエットを一曲、歌っている。
 その内一曲は投稿もしていた。
 一月でこれだけ歌えれば、充分だと思う。
「今でもたくさん歌っていますよ」
「そうか? 欲がないな」
 ソラが告げると、マスターは笑った。
 リンなどがもっととせがむのかもしれない。わがままに慣れているようだ。

「今、92%だ。急げよ、弟」

 からかうような言葉を残して、通信が切られた。
 ソラは重い腰を上げ、VOCALOIDの彼らにならってわざわざ扉から外に出た。



 “何か”が、待っている。それが何なのかは、まだ分からない。
 けれど、怖いと同時になぜか楽しみでもある自分もいて。
 やはり不思議な感覚に、途惑うことしかできなかった。




  次作→



 バージョンアップとダウンロードに時間がかかってるのは、感覚プログラムがあるからです。
 マスターのパソコンの性能は良い方なのですが。
 あくまで音源に付加させるだけの単純で簡易的なものだけど、それなりにはデータ量があるという。
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