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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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UTAUTAI -Ⅳ

 年をまたぎましたね、穂歌連載後編。一部完、とか言ってみる。
 ほんの少しではありますが、ソラ×サラのカプ要素が出てきます。




←前作  一作目




UTAUTAI -Ⅳ




 その人は、空から降ってきた。
 慌てて駆け出し、なんとか受けとめた少年は、安堵のため息をつく。
 自分と同じ色をした髪がさらりと流れ、まぶたがそっと開かれる。
 琥珀のような瞳と出会い――時間が止まった。



「ソラぁ~♪」
 陽気な高い声が己の名を呼ぶ。
 この一週間、少年の平穏を壊し続ける存在。
 振り返り、データのひずみなどないところで転びそうになるサラを、なんなく抱きとめる。
 すっかり日常とかした行為だった。
「姉さんはまだデータが不安定なんですから、気をつけてくださいって何度も言いましたよね」
 支えて立たせながら、答えを知りつつ確認する。
 “仮”として作られたサラの音源は、ソラよりも感覚プログラムが定着しづらいらしい。
 初対面の時、出現座標がずれたのもそれが理由なのだそうだ。
「聞いたよぉ、ちゃんと覚えてる~!」
 そのわりに感情はソラよりよほど豊かに見えるのだから、不思議だ。
 マスターは『相性があるんだろう』と笑っていたけれど。
「なら行動にも反映させてください」
 うんざりしたようにソラが言うが、
「それはムリ~♪」
「姉さん!」
 とりつく島もなく即答され、思わず声を荒げる。
 何度繰り返しただろう、こんなやり取りを。
 細かなものまで数え上げたらきりがないほど、姉を注意し、退けられてきた。
 いい加減に馬鹿馬鹿しくなってくるが、それでも彼は懸命に言い募る。
 心配なのだ。詰まるところは。
 そんな弟の思いをもてあそぶように、サラはのらりくらりとあしらっていた。

「大体ぃ、何度言っても聞かないのはソラも一緒でしょ~」
 不安定なデータのせいか、個性なのか。間延びした声がソラを責める。
 何を言うつもりなのかそれだけで分かってしまう。
「“姉さん”じゃなくて“サラ”、なの~」
 つん、と鼻の先をつつかれ、眉をひそめる。
 これも何度も言われていたことだ。
 ソラには姉としてインプットされているのだから、仕方がないではないか。
 いつまで同じ会話を繰り返すのだろう?
 強情なサラに、気が遠くなる。
「僕にとってはこんなのでも姉さんです。
 変更はできません」
 自然と口調も刺々しくなる。
 子どもじみた執着かもしれないが、彼にとってはたった一人の“姉さん”なのだ。
 他の呼び方なんて、ましてや呼び捨てなんて、できるはずがない。
「なによぅ、こんなのって~」
 ぶぅ、と頬をふくらませ、サラが文句をこぼす。
「言葉にしないと分かりませんか?
 強情っぱりとお子様とどっちがいいでしょう?」
 ソラはわざと頭に来るような、綺麗な笑顔を浮かべた。
 八つ当たりにも似た行為だ。
 いつも困らせられているのはこちらなのだから、正当なやり返しとも言えるかもしれない。

「おバカと呼びなさい!」
「もっと悪くしてどうするんですか……」
 真剣な顔で怒るサラに、彼は毒気を抜かれた。
 計算なのか、天然なのか。
 間違いなく後者だろうけれど。
 自画自賛なら分かるが、卑下するとは彼女らしくない。
「おバカは褒め言葉だよ~。
 ちゃんと愛がこもってるじゃない!」
 力説する姉にソラは頭を抱えた。
「姉さんの考えは理解できません」
 本人が真剣なのは分かる。真剣であればあるほど、少年は困窮してしまう。
 ソラにとってサラはびっくり箱だ。
 何が出てくるか分からず、驚かされてばかりで。
 本当に自分と同じUTAUなのかと、いつも疑いたくなる。
 簡易的なプログラムしか搭載されていないはずなのに、豊かな感情表現。
 喜び。怒り。楽しい。悲しい。
 サラはどれも人のように自然と表し、口にする。
 VOCALOIDの彼らとも、ソラより打ち解けているかもしれない。

「姉さんは……」
 不思議、と。
 口にしようとして、はたと気づく。
 サラに付き合わされ、何だかんだと忙しい日々の中で。
 ミクのことを考えていた時間がないのだ。
 どんなときでも頭を離れることのなかった緑の髪の少女。
 それが強烈な印象を持つサラによって、薄れさせられていっていた。
「なぁに?」
 サラは首をかしげる。
「あ、いえ……」
 うまく表すことができずに、彼は口ごもった。
 ソラの恋心を知らない彼女に、ありのままを話すわけにもいかない。
「はっきり言いなさいよ~、怒らないであげるから」
 ニコリと笑みを浮かべ、
 偉そうな口調がどこか面白い。
 ソラの中で緊張の糸が緩んだ気がした。

「不思議、ですね」

 初めに口にしようとした言葉を音にする。
 前にKAITOに言われ、自身も思っていた感覚。
 今はそれよりもサラの方が不思議だった。
 びっくり箱のような、驚きと困惑と喜びを抱いた彼女。
 付きまとわれる形で巻き込まれているというのに、なぜか憎めない。
 そんな気持ちにさせるのも、不思議の一つだった。
「どういう意味ぃ?」
 また、首をかしげるサラ。
 琥珀の瞳がソラを覗き込む。
 己と同じ色だろうに、樹液の結晶にたとえたくなるのはなぜなのか。
 本当に、不思議だ。

「好きなように取ってください」
 と微笑んで言えば、
「そーする!」
 サラは文字通り破顔した。



 不思議で仕方がなくて、目が離せない。
 それも少年がよく知っている感情の一つの形だと、この時は思いもしていなかった。




  次作→



 やっと登場のサラ姉さん。のくせにすっ飛ばしの刑(笑)
 サラが不安定だって言うのは、付加プログラム(管理人が勝手に考えたUTAU用の感情や感覚をつかさどるプログラムらしきもの)の方の不具合かなんかです。原音者さまの責任とかじゃまったくないです。
 そもそもオリジナル設定満載だからそんな心配する必要ありませんかね。
 ちなみに、ソラはKAITO兄さんがミクの瞳を『翡翠』ってたとえることを知りません♪
 (どうでもいいかもだけど一段落目の名前隠しに気づいた人はいるのだろうか)
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