VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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UTAUTAI -Ⅴ
UTAU連作の五作目。ソラサラです。
ソラサラって書くとキキ○ラみたい。ソソササ……ごろ悪い(笑)
声が、聞こえた。
今にも消え入りそうな、小さな声だった。
それがソラの耳に届いたのは、偶然でも聴覚が優れているからでもない。
UTAUだからだ。
VOCALOID同士がつながっているように、UTAUにも内部回線がある。
そしてここにいるUTAUは、少年ともう一人だけ。
「姉さん……?」
ソラは無意識に呟く。
初めは聞き間違いかと思った。
雑音混じりのか細い声が、姉のものであると認識できなくて。
けれど耳に、頭に直接響く音は、確かに自身とよく似た波長で。
気づいてからの行動は早かった。
普段は人の真似事をしている彼らだけれど、その本質は歌。
データ量があるので光とまではいかないが、体感的には音の早さで転送できる。
声の出所を感知すると共に、彼の姿はかすみ、意識は飛んだ。
再び体が形成されたのは、薄暗い空間だった。
視覚は一部の区域を除き明暗の影響を受けないので、ソラはしっかりとした足取りで進む。
声がより強くする、さらに暗い方へと――。
声が聞こえなくなってから、およそ三十秒後。
まず目に飛び込んできたのは、小さな数多の光だった。
闇を照らすには弱すぎる、ほのかな灯火。
個によって違う色を帯びていなければ、蛍だと思ったことだろう。
リラクゼーション地区で見たことのある生物に似ていて、瞬きを繰り返している。
異なる点と言えば、浮遊したまま動かないところもだ。
目で一つ一つを眺めながら、ふと飛び込んできた光景に息をのむ。
サラが力なく壁に背を預けていた。
「姉さん……!」
駆け出し、その肩をつかむ。
のろのろと顔を上げた彼女は、焦点が合っていなかった。
「姉さん!?」
肩を何度も揺らす。頬を叩く。
衝撃に少しずつ光を取り戻す瞳。
必死に、呼んだ。
あきらめたら最後、姉が帰ってこなくなりそうで。
「姉さんじゃなくて……サラぁ」
小さくとも返ってきた声に、安堵の息をはく。
とりあえずは大丈夫らしい。
「呼んでほしかったらちゃんと意識を保ってください」
震えて、泣きそうな声をしていたかもしれない。
呼ぶだけでサラが無事でいられるなら、いくらだって呼んでやる。
ソラには分かっていたのだ。
同じUTAUだから。
彼女の不安定なプログラムが、どこか異常をきたしたのだということを。
「それは了承と取るからねぇ」
だんだんと力を取り戻す声に、双眸。
まだ本調子ではないのだろうが、体も少しは動くようだ。
サラの肩から一度手を離し、隣に座る。
「お好きなように」
言って、当たり前のように寄りかかってきた彼女の肩をそっと支えた。
全体重をかけてくれる信頼感が心地良い。
「りょーかい♪」
明るくはずんだ声。
もう、心配はいらなさそうだ。
張りつめていた緊張が切れ、遅れて気疲れがどっと襲ってきた。
「これ、何だか分かる~?」
うなだれたソラのひざがちょんちょんとつつかれる。
顔を上げれば、あるのは蛍のような輝き。
サラのことでいっぱいになっていて、頭の片隅に追いやられていた。
先ほどは緩慢すぎて気づかなかったけれど、動いていないわけではないらしい。
「これですか?」
手近にある光を指差して問う。
「そ、これ~」
すぐに肯定が返ってくる。
試しに光に触れて干渉しようとして、できなかった。
一瞬だけ輝きを増し、はじかれる。
「データの一部だとは思いますが……」
呟くが、それ以上は続かなかった。
テキストや音データなら、たとえ開けなくても干渉できる。
ロックをかけられていればそう反応があるし、干渉できない形式なら無反応だ。
どれでもないということは、元は干渉できる形式だったデータの一部だったのではと、ソラは考えた。
正しいのかは、分からない。
「一部じゃなくって、破片」
ささやくように、穏やかな声が告げる。
サラらしくない響きに少年は姉の顔を覗き込む。
包み込むような、慈しむような、優しい瞳をしていた。
「破片?」
聞き返してから、また光に目をやった。
一部と破片と、違いは何だろうか?
気持ちの問題にも思えたが、ソラは考える。
「ゴミ箱に送られる前の、データたち。
マスターは慎重な人なんだねぇ」
くすくすと笑い声がする。
馬鹿にしているのではなく、面白がっている。
不安定なプログラムを憂うことなく、今を楽しんでいる。
それが、分かった。
「危険はないんですか?」
「あったら、最初から入れないよ」
屈託のない笑みで予想通りの答えを口にする。
危ないデータがあるような場所に、VOCALOIDやUTAUが入れる可能性はかなり低い。
あのマスターがそんなものを野放しにしておくはずがないから。
駆除するか、どうしても必要なものならフォルダにロックをかけて、注意を促しておくはずだ。
そもそもUTAUにしろVOCALOIDにしろ、本体は別の場所に保存されており、姿は仮のものでしかない。
触れたり近くにいるだけで外見データが傷ついたとしても、簡単に直せてしまう。
「ここ、お気に入りの場所なんだぁ」
サラが話を変える。
「今日も遊びに来たんだけど、急に体の力が抜けてね~。
気づいたら座ってて、歌ってた」
言ってから、蛍光を見つめ何かを口ずさむ。
あの時に聞こえた声が歌声であったのだと、初めて気づいた。
アヴェ・マリア。浄化の聖歌。
一般的な方ではなくて、どこか物悲しげな、旋律。
外国語の発音の練習にと、マスターに教えてもらったものの一つだ。
まだ完全にプログラムが安定していないのか、調子がどこかおかしい。
歌になりそこねた音が、灯りに沁み入るように響く。
データになれない、データとして存在できない破片には、似合いの曲かもしれない。
救いがもたらされる。
いつか消えるその瞬間まで、清浄な空気に包まれて。
呼応するようにキラキラと輝きを増す光たち。
ただサラの声だけがその場を支配していた。
はあ。息をはく音。
「ソラが来て、嬉しかった~」
言葉にそぐう満ち足りた表情を向けられる。
今は嬉しくないのかと、過去形に疑問を持った。
実際、その瞬間ほどではないのだろう。
喜べばいいのか、悲しめばいいのか。判断できずに困ってしまう。
「呼べばもっと早く来ましたよ」
結局、それだけしか言えなかった。
けれど不満に思っていたことでもある。
一歩間違えれば、修復不可能なほどまでデータが壊れてしまっていたかもしれない状況で。
彼女は呼ばなかったのだ。ソラを。
内部回線で直接送信できるのに、怠った。
少年の耳に自然と声が届くまで。
「聞こえたんでしょ? それだけで、いいの」
サラらしくない控えめな笑み。
理由が分かって、ソラは口をつぐんだ。
姉なのだ。サラは。
たとえソラの方が先に作られていても。どんなに姉の威厳がなくても。
遠慮しているのではない。
彼女なりの、矜持なのだろう。
「なら」
ソラは一つため息をついてから、口を開く。
決意を、固めた。
「もっと歌ってください。
メモリーに記録しておけば、次はもう少し早く駆けつけられます」
サラを守ろうと。
今までぼんやりと思っていたものが、意志となる。
ただ一人の姉なのだ。自分が守らずに誰が守るのか。
わがままで、強くて、迷惑はかけるくせに頼ってはくれない、どうしようもない彼女だけれど。
放っておけないのだから、仕方がない。
「ソラは生真面目さんだねぇ」
そうサラは楽しそうに言う。
光が笑い声に合わせて瞬いたような気がした。
その光と、先ほどの歌声が、ソラの頭を離れなかった。
守ろう。支えていこう。ずっと。
小さな誓いが、いずれ名のつく感情の、始まりだった。
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