VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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You come if I read poetry
確実にSNS内での影響で、ツキコヨにはまりましたです。×でも&でも可愛い♪
そういうわけなので、ツキコヨ創作。&に変換は……できるのでしょうか。
一つ注意を。ここのコヨーテは“UTAU音源”としてのコヨーテです。
共有ルームで、コヨーテが詩を口ずさんでいたとき。
「よぉ」
聞き慣れた声がして、少女は硬直した。
今日も、だ。
自分が詩を詠んでいると、彼はどこからともなくやってくる。
センサーでもついているのだろうかというくらい、頻繁に。
雲之ツキ。配布時期の近いUTAUライブラリの一人。
「なぁ、お前、歌なら歌えるのか?」
ツキは何の前触れもなく、そう訊いてきた。
「え?」
コヨーテは意味が分からず小首をかしげる。
歌なら歌えて当然だ。自分たちは歌うための音源なのだから。
「オレがいちゃ、詩は詠めないんだろ。
だったら歌は?」
もう一度言われて、やっと理解する。
いつも、コヨーテはツキが来ると詩を詠むのをやめてしまっていた。
適当にごまかしていたが、ツキなりに理由を解釈したのだろう。
「分かんないよ、そんなの」
耳と尻尾が元気を失ってたれていく。
ツキにそのつもりはないのだろうけれど、強い口調で話されるのが彼女は苦手だった。
だからだ、きっと。
緊張して詩も詠めなくなってしまうのは。
「試しに歌ってみりゃいーじゃん」
人の気持ちも知らないで、ツキは軽く提案する。
「そう言われたって……」
簡単に試そうという気にはなれなかった。
詩の詠み方を忘れてしまう瞬間を思い出して、コヨーテは泣きそうになる。
大好きな詩が詠めなくなることは、とてもとても、悲しいことだ。
歌まで歌えなかったら、今度こそ泣いてしまうかもしれない。
「あ~もうっ、ハッキリしねーヤツ!」
ツキは毛先だけ水色の青い髪をぐしゃぐしゃとかく。
怒られるのが怖くて身を縮めていると、いきなり手首をつかまれた。
困惑するコヨーテを引っ張って、ツキはずんずんと歩いていく。
「ちょ、ちょっと待って!
どこに行くの?」
ツキの速い足取りに小走りでついていきながら、コヨーテは問う。
手首から熱が広がっていくようで、途惑いを隠せない。
どこか詩が詠めなくなるときの緊張と似た感覚だ。
胸がドキドキしていて、落ち着かない。
「練習室!」
ツキは簡潔に、場所だけを荒々しく答える。
UTAU用の感覚・感情プログラムは、VOCALOIDのように実際の歌唱には栄影響がない。
それでも歌が好きな彼らのために用意された、共有ルームからつながっている防音部屋が、練習室と呼ばれている。
「わたし、歌わないよ!?」
コヨーテはツキの意図を察して、青ざめる。
歌えるかどうかも分からないのに試す勇気なんて、これっぽっちもなかった。
「なんでだよ」
「だ、だって……そんなに上手じゃないし……」
ツキの責めるような鋭い視線に、コヨーテはしどろもどろになりながらも話す。
万が一歌えたとしても、それが人に聞かせられるものとは限らない。
音源を使う人によって綺麗に歌うコヨーテもいるけれど、人格を持った個体として、上手だとは思えなかった。
UTAUライブラリとしては失格かもしれないが、歌より詩の方が好きだったから。
コヨーテは元は、詩を詠むデスクトップマスコットだ。
それには感情もなかったし、記憶もないけれど、音源主の作った基本設定が優先順位を詩にかたむけさせる。
「上手い下手なんて関係ねーだろ。
楽しんで歌えりゃいいんだ」
ツキが振り返って、真剣な顔で言った。
珍しく正論だ。
誰かからの受け売りだろうか。
「でもツキくんに聞かせるなんて……」
ただでさえ、誰かの前で歌ったことなんてUTAU起動時以外では数えるほどしかないのに。
口の悪い少年のことだから、遠慮なくこきくだされそうで怖い。
「気にすんな。カボチャとかだとでも思っとけよ」
無茶なことを言う。
手も足もあって、表情も豊かな彼を、どうやったらカボチャと混合できるというのか。
「できません~!」
涙目になりながら必死に訴えてみたところで。
手を引く力がゆるまることもなく、目的地へと向かう速度が落ちることもないのだった。
******
練習室についてしまってから、コヨーテはずっと後悔していた。
部屋の隅の方で体育座りをし、体を小さく丸めて。
もっと力一杯抵抗すればよかった。
強引なツキにどうすれば敵うかなんて、コヨーテには分からなかったけれど。
「ほら、この曲。
聞いたことくらいあんだろ」
楽譜が置いてある一角をあさっていたツキが、こちらに向かって歩いてくる。
その手にはコヨーテに見せるように楽譜が掲げられていた。
題名だけで何の曲だか分かる。VOCALOIDの有名曲。
「ううぅ……」
たしか、神曲だとか神調教だとか言われていた曲だった。
歌唱力の見合わなさに、コヨーテはうなだれる。
「まだ迷ってんの?
いい加減、覚悟決めちゃえよ」
ツキはあくまで歌わせたいらしく、楽譜をコヨーテに押しつける。
思わず受け取ってしまってから、このままだと流される、と気づいた。
「無理ですよ~」
立ち上がって、楽譜を少年に返そうとする。
ツキは受け取らずに、顔をしかめた。
「んだよ。オレがいじめでるみたいじゃん」
不機嫌丸出しの声。事実、いじめられてるのと同じような心境だとは言えない。
そんなにコヨーテに歌ってほしいのだろうか。
少しくらいなら歌ってもいいかもしれない。と思い始める。
けれど、声が出なかった。
口の中がからからで、とてもじゃないが歌えそうにはない。
顔に熱が集まっていく。
また、だ。
詩が詠めなくなるときと同じ現象。
極度の緊張に、コヨーテは体が震えるのを感じる。
やっぱり、無理だった。
歌まで歌えなくなってしまうなんて。
涙がこぼれ落ちる一拍前に。
「だったら、オレは勝手に歌うかんな」
ツキがそう言ってから、口笛を吹き出した。
歌うと宣言したのに、口笛?
コヨーテは驚いたが、すぐにそれが前奏だと気づく。
まもなく歌が始まって、少女は言葉をなくした。
力強い声が原曲の一オクターブ下を高らかと歌う。
ゆるやかな曲調に伸びのいい声が合っていて、コヨーテは感嘆のため息をもらす。
「綺麗……」
思わずそうこぼしてしまう。
聞こえたらしいツキは、こちらに目をやりウインクをした。
「……っ!!」
それがあまりに格好がつきすぎていて、コヨーテは固まる。
顔が、熱い。胸の鼓動が、鳴りやまない。
二種類のドキドキが、コヨーテの中にあった。
ツキの歌声に聞き惚れて。一緒に歌ってみたいと思い始めて。
心行くまま歌ってみたら、気持ち良いだろうか?
コヨーテは口を開く。一音、二音、試しに出してみる。
今なら歌えそうな気がした。
ツキの言うとおり、上手か下手かは関係ない。
ただ、歌いたいという気持ちがそこにある。
曲は間奏に入っていて、ツキはまた口笛で適当にアレンジを利かせながら吹いていた。
間奏が、終わる。
コヨーテは大きく息を吸って、歌い出した。
「なんだ、歌えんじゃん」
歌い終わって、ツキの第一声がそれだった。
嬉しそうな笑顔に、落ち着いてきていたはずの鼓動が跳ねる。
理由は分からないけれど、歌う気になったときのドキドキとは違う気がした。
「それは……」
ツキが上手くリードしてくれたから、とは素直に言えなかった。
楽しげに歌うツキと一緒に歌ってみたいと思った。
一人だったらあんなに心地良く歌えなかっただろう。
「なら練習すれば、詩も詠めるようになるかもな」
機嫌良さそうにツキは言う。
結局そこに話が戻るのか。
「えっ!? 無理だよ!」
あわててコヨーテは言い返すが、
「歌が平気で、詩が駄目なんてことはねーだろ」
「うっ……」
反論できずに、声を詰まらせる。
確かに彼女の場合は歌より詩に慣れ親しんでいるのだから、無理だとは言えなかった。
と、そこでふとある可能性に気がつく。
「……もしかして、初めから……?」
それが狙いだったのだろうか。
コヨーテの問いに、ツキはニヤリと意地の悪い笑みを見せて。
絶対に聞かせてなんかやらない。と心に決めた。
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