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≪ 10・君と一緒にいたいんだ | | HOME | | Happy Birthday ≫ |
When a partner is made
ヒビキのお話です。オールキャラ。シリアス、かなぁ?
一度でも喋ってるキャラは、テト・栄二・モモ・ソラ・サラ・ルナ・タク・栄一・サユ・シン(喋った順)
恋愛要素は……たぶんない、と思います。オリジナルマスター注意。
「はい、聞こえます。マスター」
ヒビキは通信許可を出してから、すぐに聞こえてきた声に返事をする。
『お前にちょっと教えとこうかと思ってな。
中の人のブログまでは見てないだろうし』
「音源のことで何か?」
中の人、とマスターが呼ぶのは、自分たちを作った音源主のことだ。
その人のブログで、自分に連絡するようなことがあったというと、音源の更新が一番可能性が高い。
そう思って尋ねたのだが。
『いや、どちらかというとキャラ性の方だな』
返ってきたのは意外な答えだった。
キャラクターとしても愛着を持ってくれる音源主も少なくはない。
ブログで何を書いていたって、珍しくはないだろう。
ヒビキに教える必要がありそうなことというと、自然と内容は限られてくる。
『まだ確定はしてないんだが――』
続く言葉に、ヒビキはただ驚くしかなかった。
「で? 何の話だったのだ」
目の前まで来て、テトが訊いてきた。
そう、マスターから通信があったのは、人のたくさんいるリビングでだった。
通信をしている者しか聞けないから、内容が気になるのは当然のこと。
どうせなら一人でいるときに話してくれればよかったのに。
質問攻めにあうと分かっていたから、ヒビキはそう内心でため息をついた。
「別に大げさにするようなことじゃないんだけどな」
肩をすくめ、ヒビキはやり過ごそうとするが。
「余計気になる~!」
栄二はさらに騒ぎ出し、
「だんまりはいけませんよ」
モモからはお説教をされる。
本当に、ここの皆に隠し事はできなさそうだ。
一歩引いても、一定以上の関わりをやんわりとかわそうとしても。
それよりも強い力で、近づいてくる。歩み寄られる。
「“雷歌ヒビキ”のことだよ。
皆が気にする必要なんてない」
突き放した言い方だったかもしれない。
けれどこれであきらめてくれれば、面倒もないし、心配をかけることにもならない。
その方が自分にとってもみんなにとっても、良いだろう。
ヒビキの遠慮にも似た気遣いは、
「それはないですよ、ヒビキさん」
「水臭いんじゃない?」
いとも簡単に退けられる。
そこにいた全員の気持ちを代弁するかのように、ソラとサラ。
お人好しなところはよく似ている。
いや、それは皆に言えたことだったか。
「ねぇヒビキ! 教えて?」
とどめはルナのおねだり攻撃だった。
甘え上手でわがまま上手。そんな彼女の可愛らしいお願いに、ぐらつかない者がいたら教えてほしい。
ヒビキは降参とばかりに両手を上げて、苦笑した。
「……おれも、まだよく分かってないんだけど」
先にそう断ってから、ヒビキは語り始める。
「ヒビキは、ユズとかルコみたいに、ジェンダーを変えても名前が変わらなかっただろ?
リンっぽいどとか呼ばれてたりしてさ」
今ここにいない二人のように、名前の後に♀と性別記号をつけて区別されることもあった。
g換えキャラが定着しているテトやルナ、サユとは逆のパターンだ。
「候補が出ていたのは知ってますが、定着はしていませんでしたね」
タクはヒビキ♀が使われた動画を覚えているらしい。
ヒビキのジェンダーを変えた声は、一番最初の音源配布動画から使われていた。
髪が長く目の色が赤い、という外見的特徴まで、【キャラクターなんとか機】というソフトで作られていた。
「そ。それで支障がないうちは良かったんだけど。
マスターが利用している場所とは違う動画投稿サイトで、誤解を受けたことがあったらしいんだ。
ジェンダーをいじっての声じゃなく、単体で音源として配布されてるものだと思われた。ってことかな」
ヒビキは話しながら自分の中でも整理していた。
マスターから話を聞いていても、実感はない。
それはマスター自身が人づてに得た情報だということもある。
けれど一番は、自分たちが個人にダウンロードされた音源、だから。
プログラムは個々に働いていても、同じ“ヒビキ”のことだ。
他人よりは近く感じる。けれど、それだけ。
“雷歌ヒビキ”という総合的な音源に対して、深い感情は持てない。
自分は自分だ。個を殺すには、賑やかな生活を送りすぎた。
「大変だな……」
栄一の一般的な感想に、ヒビキは苦笑するしかない。
「マスターも詳しくは知らないって言ってたよ。
ただ、そのことがあったから、音源主も色々と考えたみたいで」
誤解をしたのは主に海外ユーザーだったらしい。
言葉の壁がある中、事情を説明するのは難しいだろう。
だから。
「g換えキャラを、名前をつけて正式に発表することにしたらしい」
ヒビキは事実だけを述べる。
そこに、私情をはさむ余地はない。
「へえ」
「そうなんだ」
驚いたような、納得したような声が上がる。
話の流れから予想済みの者もいただろう。
「……ってことは」
自分がそうだったからか、一早く何かに気づいたような声をもらしたのは、サユだった。
「そう。人格プログラムも、たぶんすぐに作られる」
初期設定と共に一シンガーごとに組まれる人格付加プログラム。
g換えキャラの場合は、元のキャラのプログラムを下地にするのだそうだ。
そして、同じ音源のあるフォルダに入れられる。
仮想世界では、部屋が広くなり、仕切りができ、二人は同じ部屋で過ごすことになる。
新しい者が、来る。
ずっとそこにいたかのように、当然に。
「ヒビキに妹かお姉さんができるってこと!?」
ルナが嬉しそうな声を上げる。
仲の良い、弟という設定のg換えキャラのモノがいる彼女的には、喜ばしいことなのだろう。
「設定はどうなるか分からないけどね。
サイみたいに兄弟じゃないって設定されるかもしれないし、一姫さんと二太郎さんみたいに解釈自由かもしれない」
ヒビキは心中を悟らせたくなくて、あくまで楽しみにしているように取り繕う。
「相棒って感じかもな」
「どうだろうね」
面白がっているシンの言葉に、ヒビキは曖昧に返す。
実感が、わかない。
「マスターのことだから、ダウンロードするんだろうね」
喜んでいいのか分からなそうに、サユが微妙な笑みを浮かべて言った。
自分のg換えキャラのサイが作られたときのことを思い返しているのだろう。
今でこそ喧嘩友だちのような関係を築けている二人だが、サイが来た当初は険悪だった。
「そのつもりだから教えてくれたらしいよ」
気づいたらすぐにダウンロードすると言っていた。
私生活があるにしても、配布開始されてから一週間以内にはダウンロードされるだろう。
「わぁ~、楽しみだね!」
ルナの笑顔に、応えられない自分が嫌になった。
当の本人が喜んでいないのだ。
困惑、と言えばいいのかもしれない。
自分のg換えキャラが増えることに、違和感を覚えてしまう。
「散歩、してくるよ」
気を紛らわせたくて、ソファーから立ち上がって告げる。
「ヒビキさん」
名を呼ぶ声に、足を止める。
振り返るとタクが穏やかな瞳でこちらをうかがっていた。
「ん?」
まだ何か話があったのだろうか?
ヒビキが首をかしげると、
「大丈夫ですか?」
いたわるような優しい声がかけられた。
気配りが利いて、しっかり周囲を見ているタク。
かなり仲の良い彼だから、ヒビキのかすかな違いも見逃さなかったらしい。
「……うん、平気だよ」
答えるのに、少し間が空いてしまった。
何でもないふりをさせてほしかった。
自分でもよく分かっていない感情で、皆を振り回したくない。
心配は、かけたくなかった。
「なら、忘れますが。
あまりためないでくださいね」
タクは困った人に対するような苦笑をこぼして言った。
ヒビキの思いを感じ取ったのか、何を言っても無駄だと悟ったのか。
どちらにしてもありがたかった。
「ありがと、タク」
ヒビキはそれだけ返して、リビングを出て行った。
何人もの視線を感じたけれど、これ以上は何を言っても墓穴を掘りそうで、もう振り返ることすらできなかった。
変化は常に訪れるもので、それを自分も甘受していたはずなのに。
不安のような、不快感のような。
言葉にできない、初めて覚える感情に、不思議なほど翻弄されていた。
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