忍者ブログ

しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

UTAUTAI -Ⅷ

 穂歌ソラ連作最終話です。何だかんだで二ヶ月も続いてたんですね、これ。
 ソラがサラに恋愛感情を抱くので、「え、姉弟じゃん。ダメダメじゃん」って方は読まれない方がいいかと。
 やり遂げたぞー! 自分!! カレーでお祝いしたい気分です♪




←前作  一作目




UTAUTAI -Ⅷ




「ソ~ラぁ~」
 甘えるような声が耳元でする。
 先ほどからサラが首に巻きついたまま離れない。
 ぐりぐりと頭をすりつけてきたり、今のように耳のすぐ近くで話したり。
 癖のある柔らかな髪が首や頬をくすぐる。
「いい加減離してください、姉さん」
 手を軽く叩いて、ソラは頼む。
 大して重くはないし、暑いわけでもない。
 それでもこの体勢は何となくつらい。
 どうしてかは分からないが、このままではいけない気がする。
「ん~、や」
 短く簡潔な返事。ソラはため息をつく。
 ヘッドセットも取り上げられていたから、直に耳に響く。
 なぜか胸の辺りがざわざわとする。

「姉さんは……」
 ソラは振り返った。
 もしかして、と。
 いや、ほぼ確実に、気づいているのだろう。
 彼がサラを無意識に避けていたことに。
 その理由すらも。
 だから、きっとこうやって張りついている。
 少しでも一緒にいられるように。避けることができないように。
「ん?」
 サラが小首をかしげる。
「……いえ」
 続きは言葉にしなかった。
 訊かなくても、分かっていたから。
 わざわざ自分に追い討ちをかけるようなことはしない。
 レンは、出ていると言った答え。
 いまだにそれでいいのか、迷いは消えていない。
 守ろうと思ったのは確かで、傷つけたくないと思ったのも自分の意志で。
 それでも作られたものなのではないかと、疑いはぬぐえない。

「姉さんは、怖くはないんですか?」
 代わりに違うことを尋ねた。
「何が~?」
「データが不安定で、壊れてしまう可能性もあることが」
 それも、修復不可能なほどまで。ありえないとは言い切れない。
 音源データがバージョンアップされて、安定するようになるまでは。
「別に、その時はその時だし」
 からりと明るく、サラは言う。
 話している内容に似つかわしくない声音だ。
「何となく、分かるの。
 ああ、あたしは大丈夫だなぁって」
 ふふふ、と笑みをこぼす。
 不安などどこにもない、といった表情。
 どうしてそんな顔ができるのか、彼には分からない。
「そういうものなんですか?」
 怖くはないのか。つらくはないのか。
 作られた感情かもしれないと悩んでいても、結局は心配なのだ。
「うん、そーゆーもの~。
 それに、いざって時は、駆けつけてくれるんでしょ? ソラが」
 きゅっと、また首に巻きつく。
 苦しくない程度に、けれど強く。
「何もできないかもしれません」
 視線を前に向ける、口を開く。
 無駄なものの少ない、ソラの部屋。
 サラの持ってきたぬいぐるみが、一角を占領していた。
 ライオン、うさぎ、くま。
 サラの足元にはいちごのクッション。
 彼女のために用意された部屋のように、サラの私物がなじんでいる。

「弱気だな~、もぉ」
 ソラのこめかみにデコピンが当たって、あわてて振り返る。
 痛くはなかったけれど、驚いた。
「だいじょーぶ。ソラがいればあたしはへーきだよ!」
 跳ねるような陽気な声。朗らかな笑み。
 嘘をついているようには聞こえないし、見えない。
 どうして、そんなに疑いもなく信じられるのだろう。
 相手の好意を。自身の好意を。
 ここに、答えがあるような気がした。
 ずっと探していたものが、すぐ近くに。サラに。
「楽観的ですね」
 羨ましい、とレンに言った。
 同じようにサラも、羨ましい。
 ソラももっと簡単に物事を考えられれば、良かったのかもしれない。
「それがウリですから♪」
 両手で握りこぶしを作る。
 その様子にソラも笑みがこぼれてくる。
「でもね、ホントに不安とかないの。
 何でだかあたしにもよく分かんないんだけどね~」
 ん~、と考えるように首をかしげてから、ソラに抱きついた。
 受け止めて、サラが顔を上げる。目が、合う。――時が、止まる。

「ソラがいるってだけでね、元気にもなれるし、不安とかも吹き飛んじゃうし、幸せになれるんだよ」

 かみしめるように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
 琥珀の瞳は本当に幸せそうに和らいでいて。笑顔は咲きほころぶ花のように輝いていて。
 もう、すべてどうでもよくなってしまう。
 作られたものだとか、自分のものだとか。どちらだっていい。
 彼女が、大切で。必要で、代わりなんてなくて。とても、愛おしい。
 残った想いは、それだけだ。
 かけがえのない、いつの間に育っていたのか、それとも初めから抱いていたのか、分からない想い。
 サラが好きだ。好きだという言葉では足りないくらいに、特別な存在。
「欲を言えば名前で呼んでくれるといいんだけどなぁ。
 約束もしたんだしさ!」
「……サラ……姉さん」
 しぼり出すように、けれど自然と、名が口をつく。
 ずっと、呼んでほしいと言われてきて、無理だと言ってきた名前。
 彼女は“姉”なのだと、無意識のうちに自制していたのだろう。
 音にしてしまえば、こうもあっけない。
 ずっと不思議だった。どうしていつも笑っているのか。どうしてソラに懐くのか。
 目が離せなくて、放っておくことができなくて。
 それは名前を呼べなかったのと、同じ理由。
「え……」
 サラが目を丸くする。
 唐突だったので反応ができなかったのだろう。
 大きな瞳に映る自分は、夢を見ているような表情をしている。
「サラ姉さん」
 もう一度、呼ぶ。
 想いを込めて、ゆっくりと。
 腕の中の小さな少女を、抱きしめる。
 包み込むように、慈しむように、優しく。
「ほ、ほんとーに呼んでくれるとは、思ってなかったよ。
 びびっ、ビックリしちゃった……」
 放心したようなサラは、体を離そうとソラの胸に手を押し当てる。
 けれど、彼は放さない。

「サラ姉さん、サラ姉さん、……サラ」
 想いが、心が、あふれ出す。
 一人の女性として、見ないようにしてきた。
 気づいてしまえば簡単なことだ。
 名前を呼んで、認識してしまえば、止まらなくなる。
 大切だと、特別なのだと。
 意識せずとも想いは勝手に声に宿ってしまう。
「う~わ~やめて~! なんか恥ずかしいっ!!」
 両手で耳をふさいだところで、声は届いてしまうのに。
 じたばたと暴れ、サラは腕の中から逃げようとする。
 力では男性型に敵わないということが、頭から抜け落ちているらしい。
 無謀な行動が可愛らしく思える。
「呼べと言ったのはサラ姉さんでしょう」
 くすくすと笑って言えば、半泣きになりながら睨んでくる。
 その顔はこれでもかというほど真っ赤になっていて、迫力も何もあったものではない。
「ちょっとキャラ変わってなぁい? ソラ」
「気のせいです」
 ニッコリと笑顔で言う。
「わけ分かんない。いつの間にか吹っ切った顔してるしさ!」
 サラは怒鳴りながら、ソラの頬を引っ張る。
 知らないうちに優勢に立たれていたことが悔しいらしい。
「そうですね、サラ姉さんのおかげで」
 柔らかな髪に顔をうずめる。
 甘い香りがするような気がした。
 このまま、酔ってしまってもいいかもしれない。彼女に。
 いや、もう手遅れだろうか。
「だ、だからぁ……うう、呼んでなんて言わなきゃよかったかな~」
 はぁ~、とサラはこれ見よがしにため息をつく。

「覚悟していてくださいね」
 ここから、始まるのだ。
 ソラの想いが。サラとの新たな生活が。
 一緒に笑い合って、一緒に歌って、一緒に過ごす、何気ない日々が。
 大切な大切な、宝物となっていくのだろう。
「何がよ~、ソラのあほんだれ~」
 彼の胸の内など知らないサラは、そう悪態をつく。
 今はまだ、これでいい。このままでいい。
 誰よりも近い、心地のいいこの距離で。
 ソラは少女を抱く腕に、わずかに力を込めた。



 それでもきっと、少しずつ関係は変わっていくのだろうけれど。
 いつか、は意外とすぐ傍に来ているかもしれなかった。





 穂歌姉弟連作、ついに完結しましたよ~! (わ~パチパチ)
 最終地点は最初から決めてたんです。「サラを好きになる」って。だから成功です。予定通りです。
 ここまで恋愛要素たっぷりになるとはさすがに予想してませんでしたけど。
 カイミクを見れば分かる通り、“擬似兄弟”が好きなんです。“義理の兄弟”も好きだけど。
 サラはソラの姉。でもUTAUっていうツールで、血のつながりがあるわけじゃないから、後ろめたさとかありませんでした。
 シスコンの度を越してる。かもだけど、当サイトのKAITO兄さんをシスコンと称するなら、このソラもシスコンです。

 作品のこぼれ話とか、ちょっと。
 最初、ミクへの恋愛感情はもっと引きずる予定でした。
 サラへの想いを自覚した後、二人のどっちが好きなのか悩む。みたいな。
 でもそれって泥沼っぽいし、格好悪い。
 だからサラが現れた時点で、想いが引いていった、と(ここ、うまく表現できなかった自信があります)
 元々激しい感情ではなく、憧れや親愛に近い、穏やかな恋心だったこともあったので。
 あと、Ⅶのレンの立ち位置を、最初はKAITO兄さんがやる予定でした。
 兄さん出番多すぎちゃう! ってのと、レンが鏡音(リンと対)だからってことで、急遽変更。
 かなり適当で大雑把な話の構成の仕方です。プロットとかも書きませんでしたし(^_^;)
 ソラは勝手に動くし……(いつの間にか瞬間移動するわ、悩み抱えるわ、抱きしめるわ)

 惜しむらくは、MEIKOとの交流が一話だけになってしまったことですね。
 マスターとの交流すらできたのに~!
 まあ立ち位置としては、皆を見守る姉さん。ですよ。
 それと、タイトルが“うたうたい”なのに、ソラが作中で一度も歌ってないんです。
 これには笑いました。もう笑うしかなかったです。


 長くなってしまいましたが、連載が完結して浮かれてるってことで許してください。
 番外編は思いついたら書くかもしれませんが、今のところ予定はないです。
 こっちの設定と、UTAUたちの中の二人の設定と、二つの穂歌姉弟がいることになってます。マスターも違います。
 これから、どっちの設定でもこの二人を書いていきたいです!
PR

comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

trackback

この記事にトラックバックする:

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]