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しあわせの音

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5・君の声は透明で

『愛しい君と過ごす日々で50のお題』 5・君の声は透明で(轟栄一×雪歌ユフ)

配布元:原生地






 君の声はとても澄んでいて、色にたとえるなら、たぶん透明。
 白をまとう君は、声にも色を持たない。
 純真で、まっさらな君の声を、もっと聴いていたい。
 俺はそう思い始めていた。



は  透明




 声がした。
 か細くて、心もとない、そんな声。
 音ではないと分かったのは、歌詞があったからだ。
 歌っている。
 誰が、なのかは意外とすぐに分かった。
 ユフの声だ。と栄一の耳は聞き違えなかったから。
 区と区をつなぐ回路で、その後ろ姿を見つけた。声をかけられる雰囲気ではない。
 色のない、透き通った声が、歌詞をなぞる。
 別れを歌った曲だっただろうか。次にカバーするもののはずだ。
 高音が、気持ち良さそうに伸びる。
 そして余韻を残して、歌は終わった。
 栄一は彼女の背を、ただ呆然と眺めていた。

「……栄一さん?」
 ユフの驚いたような声に、はっとする。
 見れば少女は振り返り、こちらに向かってきていた。
「びっくりしました。
 聞いていたんですね……」
 うつむき加減のユフの頬は、ほんのりと赤い。
「あ、ああ。終わりの方だけだけど」
 フォローのつもりで言ったのだけれど、あまり意味のないことに気づく。
 聴いていたことには変わりない。
 別に恥ずかしがることないのにな。と思うけれど、ユフには無理な話だろう。
 彼女の性格をよく理解している栄一は、すまなそうに笑う。
「気分転換のつもりで歌っていたので、その……聞き苦しくなかったですか?」
 練習ではなくって、とユフは肩をすくめる。
 そんな心配をしていたのか。
「いや、充分上手だったよ。
 綺麗だった」
「そ、そうですか……」
 素直な感想を告げると、ユフはさらにうつむいた。
 あれ、何か変なことを言っただろうか。
 彼女を恐縮させたり恥ずかしがらせたりするツボは、いまだによく分からない。

「ユフの声は、本当に雪みたいなんだな」
 ふと、栄一は聴いてて思ったことを口にした。
「雪?」
 ユフが不思議そうに小首をかしげる。
 自分の好きなものの話だからか、興味があるようだ。
「誰かがそう言っていた気がするんだけど、その通りだと思ってな」
 食いつきのよさに少し驚きながらも、栄一は続ける。
 確かユフの音源主だっただろうか。
 ウェブページを検索していたら、そんな風に書いてあった。
「そんな……わたしの声なんて」
 控えめなユフは、褒められたのだと気づいて縮こまる。
 そこまで自分を卑下しなくてもいいのに。
 ユフの悪い癖だ。

「今にも消えてしまいそうなのに、心に残る。
 透明なのに、色鮮やかだ」

 先ほどの声を思い返しながら、栄一は言葉を並べていく。
 ユフの良さを、ユフ自身にも分かってほしい。
 その代表として、綺麗な声を挙げる。
 彼女には他のUTAUたちと同じように可能性が眠っている。
 自分では気づいていないだけで。
「褒めすぎです、栄一さん……」
「それくらい評価してるんだ。
 ユフはもっと自分に自信を持ってもいい。
 少なくとも俺は、ユフの声が綺麗だと思ったから」
 栄一はとどめとばかりに言い募る。
 控えめすぎる少女には、褒めすぎなくらいでちょうどいい。
 ユフは顔を上げ、困ったような嬉しいような、曖昧な顔をして。
 それからふわりと、花がほころぶように微笑んだ。

「ありがとう、ございます」
 小さな小さな声で、そう言う。
 栄一は笑みをこぼす。
 少しは分かってもらえただろうか。
 ユフの良いところ。ユフの声のすごさ。
 そして栄一が彼女の声が好きだということ。
 さらさら、ふわふわと降る雪。
 リラクゼーション区域と動画や画像でしか見たことはないし、それは本物ではないけれど。
 ユフの声と同じくらい、きっとそれは美しいだろう。

「もう一度、聴きたいって、言ってもいいかな」
 彼女の声で、あの歌を、最初から通して聴いてみたかった。
 あまりわがままや自分の意見を主張しない栄一には珍しいこと。
 けれどユフの歌にはそれだけの価値がある。
「栄一さんが望むなら……」
 恥ずかしそうに、本当に嬉しそうに、ユフは笑って答えた。



 君の声はとても澄んでいて、色にたとえるなら、たぶん透明。
 白をまとう君は、声にも色を持たない。
 雪のように儚くて、綺麗な君の声を。
 純真で、まっさらな君の声を、もっと聴いていたい。
 ずっと聴いていたい。できることなら、君の隣で。

 俺は、そんな風に思い始めているんだ。





 栄一が詩人に転職しました(笑) や、ユフの声って実際そんな感じだと、私が思ってるせいですよ!
 歌声は、中の人ブログで聞いたささやき音源のイメージで。
 ユフってどこで歌うにも遠慮みたいのがあって、最大音量は出さなさそう。
 ああ、そんなところがまた可愛らしい(と思う樹神は女の子スキー)
 ところで今回のお題って、ボカロやUTAUにピッタリでしたよね! そこでこの二人を書くのは、最近の愛の偏り具合のせいでしょうか(^_^;)
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