VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ 5・君の声は透明で | | HOME | | If you are gone ≫ |
UTAUTAI -Ⅷ
穂歌ソラ連作最終話です。何だかんだで二ヶ月も続いてたんですね、これ。
ソラがサラに恋愛感情を抱くので、「え、姉弟じゃん。ダメダメじゃん」って方は読まれない方がいいかと。
やり遂げたぞー! 自分!! カレーでお祝いしたい気分です♪
「ソ~ラぁ~」
甘えるような声が耳元でする。
先ほどからサラが首に巻きついたまま離れない。
ぐりぐりと頭をすりつけてきたり、今のように耳のすぐ近くで話したり。
癖のある柔らかな髪が首や頬をくすぐる。
「いい加減離してください、姉さん」
手を軽く叩いて、ソラは頼む。
大して重くはないし、暑いわけでもない。
それでもこの体勢は何となくつらい。
どうしてかは分からないが、このままではいけない気がする。
「ん~、や」
短く簡潔な返事。ソラはため息をつく。
ヘッドセットも取り上げられていたから、直に耳に響く。
なぜか胸の辺りがざわざわとする。
「姉さんは……」
ソラは振り返った。
もしかして、と。
いや、ほぼ確実に、気づいているのだろう。
彼がサラを無意識に避けていたことに。
その理由すらも。
だから、きっとこうやって張りついている。
少しでも一緒にいられるように。避けることができないように。
「ん?」
サラが小首をかしげる。
「……いえ」
続きは言葉にしなかった。
訊かなくても、分かっていたから。
わざわざ自分に追い討ちをかけるようなことはしない。
レンは、出ていると言った答え。
いまだにそれでいいのか、迷いは消えていない。
守ろうと思ったのは確かで、傷つけたくないと思ったのも自分の意志で。
それでも作られたものなのではないかと、疑いはぬぐえない。
「姉さんは、怖くはないんですか?」
代わりに違うことを尋ねた。
「何が~?」
「データが不安定で、壊れてしまう可能性もあることが」
それも、修復不可能なほどまで。ありえないとは言い切れない。
音源データがバージョンアップされて、安定するようになるまでは。
「別に、その時はその時だし」
からりと明るく、サラは言う。
話している内容に似つかわしくない声音だ。
「何となく、分かるの。
ああ、あたしは大丈夫だなぁって」
ふふふ、と笑みをこぼす。
不安などどこにもない、といった表情。
どうしてそんな顔ができるのか、彼には分からない。
「そういうものなんですか?」
怖くはないのか。つらくはないのか。
作られた感情かもしれないと悩んでいても、結局は心配なのだ。
「うん、そーゆーもの~。
それに、いざって時は、駆けつけてくれるんでしょ? ソラが」
きゅっと、また首に巻きつく。
苦しくない程度に、けれど強く。
「何もできないかもしれません」
視線を前に向ける、口を開く。
無駄なものの少ない、ソラの部屋。
サラの持ってきたぬいぐるみが、一角を占領していた。
ライオン、うさぎ、くま。
サラの足元にはいちごのクッション。
彼女のために用意された部屋のように、サラの私物がなじんでいる。
「弱気だな~、もぉ」
ソラのこめかみにデコピンが当たって、あわてて振り返る。
痛くはなかったけれど、驚いた。
「だいじょーぶ。ソラがいればあたしはへーきだよ!」
跳ねるような陽気な声。朗らかな笑み。
嘘をついているようには聞こえないし、見えない。
どうして、そんなに疑いもなく信じられるのだろう。
相手の好意を。自身の好意を。
ここに、答えがあるような気がした。
ずっと探していたものが、すぐ近くに。サラに。
「楽観的ですね」
羨ましい、とレンに言った。
同じようにサラも、羨ましい。
ソラももっと簡単に物事を考えられれば、良かったのかもしれない。
「それがウリですから♪」
両手で握りこぶしを作る。
その様子にソラも笑みがこぼれてくる。
「でもね、ホントに不安とかないの。
何でだかあたしにもよく分かんないんだけどね~」
ん~、と考えるように首をかしげてから、ソラに抱きついた。
受け止めて、サラが顔を上げる。目が、合う。――時が、止まる。
「ソラがいるってだけでね、元気にもなれるし、不安とかも吹き飛んじゃうし、幸せになれるんだよ」
かみしめるように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
琥珀の瞳は本当に幸せそうに和らいでいて。笑顔は咲きほころぶ花のように輝いていて。
もう、すべてどうでもよくなってしまう。
作られたものだとか、自分のものだとか。どちらだっていい。
彼女が、大切で。必要で、代わりなんてなくて。とても、愛おしい。
残った想いは、それだけだ。
かけがえのない、いつの間に育っていたのか、それとも初めから抱いていたのか、分からない想い。
サラが好きだ。好きだという言葉では足りないくらいに、特別な存在。
「欲を言えば名前で呼んでくれるといいんだけどなぁ。
約束もしたんだしさ!」
「……サラ……姉さん」
しぼり出すように、けれど自然と、名が口をつく。
ずっと、呼んでほしいと言われてきて、無理だと言ってきた名前。
彼女は“姉”なのだと、無意識のうちに自制していたのだろう。
音にしてしまえば、こうもあっけない。
ずっと不思議だった。どうしていつも笑っているのか。どうしてソラに懐くのか。
目が離せなくて、放っておくことができなくて。
それは名前を呼べなかったのと、同じ理由。
「え……」
サラが目を丸くする。
唐突だったので反応ができなかったのだろう。
大きな瞳に映る自分は、夢を見ているような表情をしている。
「サラ姉さん」
もう一度、呼ぶ。
想いを込めて、ゆっくりと。
腕の中の小さな少女を、抱きしめる。
包み込むように、慈しむように、優しく。
「ほ、ほんとーに呼んでくれるとは、思ってなかったよ。
びびっ、ビックリしちゃった……」
放心したようなサラは、体を離そうとソラの胸に手を押し当てる。
けれど、彼は放さない。
「サラ姉さん、サラ姉さん、……サラ」
想いが、心が、あふれ出す。
一人の女性として、見ないようにしてきた。
気づいてしまえば簡単なことだ。
名前を呼んで、認識してしまえば、止まらなくなる。
大切だと、特別なのだと。
意識せずとも想いは勝手に声に宿ってしまう。
「う~わ~やめて~! なんか恥ずかしいっ!!」
両手で耳をふさいだところで、声は届いてしまうのに。
じたばたと暴れ、サラは腕の中から逃げようとする。
力では男性型に敵わないということが、頭から抜け落ちているらしい。
無謀な行動が可愛らしく思える。
「呼べと言ったのはサラ姉さんでしょう」
くすくすと笑って言えば、半泣きになりながら睨んでくる。
その顔はこれでもかというほど真っ赤になっていて、迫力も何もあったものではない。
「ちょっとキャラ変わってなぁい? ソラ」
「気のせいです」
ニッコリと笑顔で言う。
「わけ分かんない。いつの間にか吹っ切った顔してるしさ!」
サラは怒鳴りながら、ソラの頬を引っ張る。
知らないうちに優勢に立たれていたことが悔しいらしい。
「そうですね、サラ姉さんのおかげで」
柔らかな髪に顔をうずめる。
甘い香りがするような気がした。
このまま、酔ってしまってもいいかもしれない。彼女に。
いや、もう手遅れだろうか。
「だ、だからぁ……うう、呼んでなんて言わなきゃよかったかな~」
はぁ~、とサラはこれ見よがしにため息をつく。
「覚悟していてくださいね」
ここから、始まるのだ。
ソラの想いが。サラとの新たな生活が。
一緒に笑い合って、一緒に歌って、一緒に過ごす、何気ない日々が。
大切な大切な、宝物となっていくのだろう。
「何がよ~、ソラのあほんだれ~」
彼の胸の内など知らないサラは、そう悪態をつく。
今はまだ、これでいい。このままでいい。
誰よりも近い、心地のいいこの距離で。
ソラは少女を抱く腕に、わずかに力を込めた。
それでもきっと、少しずつ関係は変わっていくのだろうけれど。
いつか、は意外とすぐ傍に来ているかもしれなかった。
≪ 5・君の声は透明で | | HOME | | If you are gone ≫ |