VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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UTAUTAI -Ⅱ
最近UTAU漬けな勢いで書いたり描いたりしてます。ちょっと異常なくらいに。
そんなんで、一話完結型の予定で続いてないような続いてるようなお話。
視点は穂歌ソラでとりあえず固定。サラはまだ出てきません。
不思議な心地。
それが、ソラがこの想いに気づいて、第一に感じたことだ。
少しずつ自己が固まってくると、自然と見えてくるものがある。
恋心が、その一つだった。
緑の髪を揺らし、陽だまりのような笑顔を見せる、あどけない少女。
初音ミクに、ソラは友愛以上の感情を抱いていた。
彼女を慕う青年のことも、彼女も青年を好きだということも知っている。
始めから、終わっている恋だ。
それでもあまり悔しくも、悲しくもない。
どこか納得しながら、しかしまだ消えない想い。
だから、不思議だった。
歌声が、聞こえる。
偶然訪れたVOCALOIDとUTAU共用のリラクゼーション地区。一面の草原。
澄んだ高音がソラの心を揺さぶった。
彼女だ。
どんな緑にも同化しない特別な色を、ソラは見つける。
楽しそうに、心地良さそうに歌っていた。
マスターの過去の自作曲だろうか。有名なアーティストの曲で該当するものはない。
しばらく歌うと、満足したように息をつく。
気づいたときには拍手を贈っていた。
「ソラさん!?」
驚いたようにミクは振り返る。
「素敵でしたよ。
今のは何の曲ですか?」
その慌てように苦笑しながら褒め、それから気になったので訊いてみた。
ソラの知らない外国語か造語だったのか、全く聞き取ることができなかった。
それでも綺麗だったと、良かったと贔屓目なしに思える。
透明感がある、儚げだけれどどこか力強い歌声だった。
「この間マスターが作ったのだよ。
造語だけどちゃんと意味があって、旅に出るときの歌なんだって」
にこにことした嬉しそうな笑みに、弾んだ声。
歌が好きなのだと、全身で語っていた。
自然と少年の表情も和む。
「だからですね。
風のようにつかみ所がないのに、木々の根のようにしっかりしている。
ミクさんの歌い方からそう感じました」
心からの感想を言う。
少年は何かに例えて話をすることが多かった。
伝わりやすいから。というだけでなく、関連付けをしておいた方が自分でも分かりやすくなり、また語彙も増えるきっかけになるのだ。
VOCALOIDよりも簡易化される記録の中で、自分で編み出した知恵だった。
「ソラさんは詩人さんだね」
ミクもそれを分かっているのか、いないのか、新発見とばかりに目を瞬かせる。
「そういった感想の方がミクさんも面白いでしょう?」
肯定が返ってくると分かっていて、問う。
「うん、好き」
さらっと、何気ない答えだった。
込められた以上のものを一瞬、感知してしまう。
人間で言うところの錯覚だ。
言葉から連想される感情を、一度すべて捉えてしまうための。
VOCALOIDと近い感情表現をするためには必要なことだが、こういうときは不便だ。
「……そうです、よね」
口ごもったソラを不思議そうにミクは見てくる。
居心地が悪い、と感じているのは自分だけだろう。
草原を風が渡る。
なびく緑色の髪に触れてみたいと、ソラが思ったとき。
「ミク」
KAITOの穏やかな声が響いた。
「お兄ちゃん」
ぱっと顔を上げ、ミクは駆けていく。
VOCALOID同士は内部回線でつながっているから、近くにいたと知っていたのだろう。
KAITOがここを分かったのも同じような理由なはずだ。
彼らと異なるUTAUであるソラとは、外部回線でつなげるしかない。
だがそれに疎外感を覚えることはなかった。
UTAUとVOCALOID。
違いは違いとして、事実があるのみだ。
不満を持つということは、己の存在を否定することにもなりかねない。
少なくともソラはそんな馬鹿なことはしなかった。
「姉さんが用事があるみたいだったよ」
傍まで走ってきたミクをKAITOは優しげに見つめる。
「本当!? じゃあ、早く行かなきゃ!
ソラさん、ごめんなさい」
慌てながらもミクは頭を下げる。
その礼儀正しさに思わず少年は苦笑を浮かべた。
「いえ、気にせず行ってきてください」
「うん! お兄ちゃんも、またね!」
言いながらすでにミクは走り出していた。
「楽しそうに話してたね」
足音が聞こえなくなってから、KAITOは口を開いた。
声に込められているのは、敵意ではなく、不安。
悲観的になりやすい青年の思いを、ソラは敏感に読み取る。
「ご心配には及びませんよ。
貴方の邪魔をする気はありませんから」
正確には『貴方たち』だけれど、そこまで言う気はなかった。
二人の恋情を、ソラは知っている。ミクなどは自分でも気づいていないだろう想い。
どう育ってきたのか、どれほど深いのか、同じ時間を過ごしていないソラには知らない。
けれど少年の想いが報われないことは、分かりきっていた。
間に割り込むつもりは、まったくもって無い。
「別に僕はなにもしないよ」
自分自身に言い聞かせるように、語る。
悔しくはない代わりに、ずるい、と少し思った。
少女の好意を一心に受けていながら、彼は逃げ腰でいる。
気づいていないのだろうけれど、あまりにも無責任だ。
ソラは自然と仏頂面になった。
「ここは風の区だから、音の伝達が不安定なんだよね」
唐突にKAITOが話を変える。
リラクゼーション地区はいくつかの区域に分かれていて、それにより特徴があった。
花の区は花びらが舞い水の区は絶えず水音がする。
室内でなければどこでも風は吹いているけれど、届く音にまで影響があるのは風の区だけだ。
今さら何の話を始めたのかと、訝しげに眉をひそめる。
「二人の会話も少し聞いてたけど……」
そういえば彼は風下にいたなと、ソラは思い出す。
こちらが気づく前に声をかけられたのはそのためだ。
「楽しい時間の邪魔をしたようなものなのに、君は不満な顔一つしなかった。
ただ、僕が来たことを、認識しただけだったよね」
KAITOを振り返った時の表情が気になったらしい。
嫌だったなどの、マイナスの感情はないように見えるが。
何が言いたいのかいまいち分からない。
KAITO自身も困惑したように、
「僕は君が不思議だ」
そう、言われてしまった。
誰より自分が一番、思っていたことだ。
不思議で、奇妙で仕方がない。
ミクを想いミクに想われている青年を、嫌いにはなれない。
仲間として迎え入れてくれた恩が、皆にはあったから。
叶わぬ恋と、悲しみに胸を痛めることもしない。
そうする必要がないよいに、思えたから。
「そうですね」
少し考えた後、結局は肯定するだけに留めた。
ソラ自身、途惑っていることなのだ。
はっきりしない、納得のいかない思いに。
KAITOが首をかしげるのを、視界の端で認めた。
分からない感覚。つかめない感情。
今日も考え、そして答えは出ずに終わるのだった。
次作→
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