VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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Last moment
ちょっとナーバスなんで、そんなお話。
めちゃくちゃカイミクでキスとかしちゃってるんだけど、明るく暗いです。
後ろ向きで前向いてる感じ。
消失ネタのくせして歌は関係なしという……。
寿命のないVOCALOIDは、半永久的に存在していることも可能なのかもしれない。
それでも最終的にはソフトウェアで、プログラムで、データで。
だからこそ人よりも壊れやすく、脆く儚いものなのだろう。
けれど、何よりも愛しい存在とその瞬間を迎えられるのなら、こんな終わり方も幸せだろうと思う。
「オ兄ちゃん、だイ好き」
アクセントのおかしいミクの声が、KAITOの耳をくすぐる。
どちらともなくこぼす笑みもどこかおかしくて。
それも気にならないくらい、直接のデータのやり取りを繰り返している。
「うン、僕も」
幸せそうに見上げてくるミクを抱き寄せながら、あと何回キスできるか演算しようとして……やめた。
そんなことに処理能力を割くよりも、一秒でも長く彼女を感じていたい。
ぬくもりを、ぬくもりとして知覚できている間に。
「星ノ雨をヒろい集めテ」
ミクが口を開く。音を出す。歌を、奏でる。
VOCALOIDにとっての存在意義であるそれは当たり前ながら、一番に被害を受けるところで。
ただの雑音としか思えないようなものだったけれど、不思議と、いつもの澄んだ声だと認識できた。
――星の雨を 拾い集めて
願い事を 空に放とう――
これは確か……メモリが不調をきたしていなければ、二人で始めて一緒に歌った曲だ。
青年は散り散りになりそうな言葉の欠片を必死で繋ぎ留める。
――君と二人 同じ願いを
『ずっとずっと 一緒にいたい』――
重なる声。重ねる唇。
まだこの想いに気づいていなかった、あの時。
それでもKAITOは密かに、歌声に詩の通りの願いを込めた。
星の雨は拾い集められないけれど、隣で歌う少女とずっと一緒にいたい、と。
今、それが叶おうとしていた。
きゅっと、弱く袖をつかまれる感触。
彼女の人差し指だけが動いていないのを見て、KAITOは己の手を重ねる。
まだ、柔らかい。まだ、温かい。まだ……愛しい。
「オ、にぃ、ちャん」
ミクが、声と共に涙をこぼす。
怖いのだろうか?
自身のマフラーで拭ってやると、少女は綺麗な笑みを浮かべた。
「ダイ、す、キ」
安心しきった表情で、絶対の信頼を映した瞳で。
どうしようもなく愛おしくて、彼は強く強く抱きしめる。
「僕、モ、ミくが、だいスキ、ダよ」
途切れ途切れの告白を、もう何度繰り返しただろう。
歌で、言葉で、口づけで。
伝えきれない想いごとすべて、いずれ消えてなくなってしまうのに。
それでも……だからこそ、最期の時まで忘れないように。
数えられないほどの愛をささやく。
すでに感情プログラムも正常ではないのだろう。
現に、次々と消えていくデータに、段々と狂っていく回路に、恐れを覚えない。
時間の感覚もとうの昔になくなっており、二人はその瞬間をただ静かに、幸せに待っていた。
音が、出なくなった。
ちょうど歌を歌いきったところで、唐突に。
一番の感情伝達の手段を失った二人は、まだ感じる熱を求めて寄り添い合っていた。
木漏れ日を受けながらまどろむのはこんな心地好さなのだろうか。
身体を休めるスリープモードしかないVOCALOIDは、眠気というものがない。
けれどもしかしたら、本当に最後の最後で得ることができるものだったのかもしれない。
そう、少女の長く柔らかい髪を梳きながら、青年は何となく思った。
【だ・い・す・き】
ミクの口がそう動いたのだと、回りが遅くなった頭で理解する。
データを包む外殻すらあやふやな今では、触れているだけで伝わるのに。
わざわざ見える声で告げてくれる少女が愛しかった。
だから。
KAITOも見える声で、ミクとは違う五文字の言葉を紡ぐのだ。
最後まで音にしなかった、想いを。
【あ・い・し・て・る】
その瞬間に見た彼女の笑顔は、真昼の太陽のように温かく眩しかった。
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