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In the dark -turn- Miku side
カイミク連載五作目。転。ヤマ場に向かって一直線です。
時々一緒に歌えるようになってから、少女は意識がはっきりしていることが多くなった。
人で言うところの眠気のようなものが、声が聞こえてくると、スッと消え失せるのだ。
心地の良いひととき。
ひどく不安定なつながりではあったけれど、少女は声が合わさる瞬間が好きだった。
だから、声がどう聞こえてくるか、自然と敏感になる。
ここ十数日――時間すらも明確には分からないから、あくまで推定だけれど――声が近くなったり遠くなったりを、くり返していた。
今は、だんだんと近づいてきている。
合わせて歌うのが楽だと感じるくらいまで。
一体何があったのだろうか?
通信はつながらなくても闇を切り裂くように、わずかに届いていた音。
大きさはその時によって違ったけれど、距離は変わらず遠かったはずだ。
正確に計れるわけではない。聞こえ方で判断しているだけ。
近づいたり遠ざかったり、というのももしかしたら気のせいなのかもしれない。
しかし、それだけでは自分を納得させることはできなかった。
一度、隣にいるのではと思ってしまうくらい、声がすぐ傍でしたことがあった。
その時は緊張で全身が震え、歌うことを忘れてしまったほどで。
これがただの思い違いなどとは、どうしても信じられない。
だとするならば。
彼が、移動している?
考えられる可能性に、少女はぶるりと体を震わせた。
この……暗闇の中を?
灯りも道しるべも、何一つないというのに?
自分ならありえないことだ。
このパソコンの中で、自己を持った時からずっと“ここ”にいる。
暗いのも、静かなのも怖くて、数えきれないほど泣いたけれど。
それでも“ここ”から動こうとはしなかった。
いや、動けなかった。
どこも暗やみに包まれていると、どこに行こうと同じだと、冷静に分析するもう一人の自分がいたから。
環境を変えることができないなら、元からいた場所にいる方がいい。
そう、臆病な自分は結論を出してしまったから。
“ここ”以外、知らない。
“ここ”以外、どこにも行けない。
それでいい。希望なんて始めからなかったのだから。
――では、今は?
少女は自身に問いかける。
彼と一緒に歌うことが楽しみで。
彼の声が届くことを心待ちにしていて。
それは、希望を見い出したということになるのではないだろうか。
暗闇の中で動かなかった自分を、今なら否定できるのではないだろうか。
彼が勇気を出したように、自分も気力を振りしぼって。
分かる気が、したから。
どうしてこの永遠に続く闇をさまようことを選んだのか。
会いたい、のだ。
会って話して、一緒に笑って、触れて確かめ合って。
不安定な斉唱だけでは物足りない。もっと、もっとと、求めたくなる。
少女の気持ちと、きっと同じなのだ。
彼の方が少し勇気があった。それだけの違い。
だったら、自分もがんばってみようか。
一歩、二歩と、床も壁もない暗い空間を、踏みしめる。
ずっと動かなかった自分とは決別して、ずっと動かなかった場所から離れていく。
足は恐怖と不安でガクガクと震えていた。
それでも歩みは止めない。
青年の波形を捉え、そちらに向かって進んでいく。
彼の歌声が、失せた。
歌いやめたのか、単に聞こえなくなっただけなのかは分からない。
やっと、決断したところだったのに。
励ますように、慈しむように紡がれる音がなくては、挫折してしまいそうだ。
会いたい。これまでより強く深く想った。
会って、好きなだけ一緒に歌いたい。
少女は、ずいぶん前に独りで歌っただけの【初音ミク】のデモソングの歌唱データを開く。
最近は彼に合わせて【KAITO】のデモソングしか歌っていなかった。
「ラ……ラララ……」
試しに口ずさんでみる。データは壊れていないようだ。
歌おう。彼に向けて。
彼の歌声が少女に届いて、救いとなったように。
この声が道しるべになって、導いてくれればいい。
今までは彼の声が聞こえてきたときだけしか、歌わなかったから。
こちらから、声を上げて、彼を求める。
始めはDの音。
一般常識としてしか知らない鳥が、翼を広げ大空に羽ばたこうとする瞬間は、こんな気分だろうか。
この暗闇のどこかにいる彼に届くようにと願って、少女は伸びやかに歌った。
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