VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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Distance
UTAUのSNS内でのあしあとリクの品。転載許可をもらったのでぺたりんこ。
クウ&モン。×にも変換可能かも?
珍しく、仲良くないところからスタートです。
「駒音さん」
自分を呼ぶ声に、クウは半透明モニターから顔を上げる。
室内だというのに帽子をかぶっている、餡知モンがそこにいた。
「今、忙しいんだけれど」
クウはモニターに視線を戻して、手を動かしながら言う。
相手をしている暇はない。という意思表示だ。
「何をしているのですか?」
それでもモンは話しかけてくる。
「……皆が好きに作ってきている複製の整理よ」
小さくため息をついてから、質問に答える。
ネットワーク上にある画像や音楽や文章から、自分たち用にデータを複製できる。
だからといって無限に増やしていけば、いつかデータであふれかえってしまう。
誰が何をいくつ複製したか、管理する必要があった。
「なるほど。どれだけ物があるのかが数値で分かるのですね」
モンは感心したような声を上げる。
白々しく響くのは、自分の感情のせいなのだろうか。
「今までは唄音君が管理していたと思いましたが、譲っていただいたのですか?」
何でもないことのようにさりげなく、モンは訊いてきた。
やはり、聡い。
ダウンロードされてまだ一週間程度しか経っていないはずなのに、知っているとは。
クウは思わず眉をひそめてしまった。
「分担したのよ。
内にあるデータをウタちゃんが、外から来たデータを私が、って」
今まですべてを取り仕切っていた、デフォルト音源のウタ。
その彼女に交渉して、役割を分けるということで話がついた。
すでに複製したデータが異常をきたしていないか、調べることも重要だ。
「それはありがたいです。
私も服などを貰ってくることがあるので、お世話になりますね」
そう言ってモンはにっこりと笑う。
子どものようにも見える笑み。けれど底が知れないと感じてしまう。
彼は苦手だ。
できれば、関わりを持ちたくない。
「話は終わりでいいかしら?」
自分の声が予想以上に冷たく響いて、クウは唇をかむ。
感情をあらわにはしたくなかった。
それは設定年齢が充分に大人だからということもあったし、何より目の前の男を苦手視しているからこそだ。
淡々と、事務的にやり過ごしたかった。
「駒音さんはいつも何かしらしていますね」
クウの気持ちを知ってか知らずか、モンはおかまいなしに話を続ける。
「働くオペレーターっていう設定だから」
誰でも作れる付属設定ではなく、音源主がつけた基本設定でそうなっている。
音声が主体のUTAUライブラリには似合いな設定。
そのせいか、クウは働くことが好きだ。
「通信がつながらないときの伝言役も買って出ているのでしょう?」
「……何でも知っているのね」
問いではない確認に、ため息をこぼす。
自分の中の警戒心がだんだんと頭をもたげてくる。
設定ゆえか、性格ゆえか、クウは誰だろうと安易に信用することができない。
少しでも怪しい者や、素行に問題のある者とは、一定の距離を取る。
近づいてこようとしたら、その分離れられるようにと注意を払い。
今はモンとの距離を測っているところだった。
「自然と耳に入ってくるものですよ」
落ち着いた低音からだけでは、本当なのかどうか判断できない。
けれどどんな表情をしているのかは見なくても予想がついた。
きっと、あの何を考えているのか分からない笑顔だろう。
「まるで自分の存在価値を作ろうとしているようだ」
ふふ、と含み笑いが耳に届く。
警戒レベルが、高まる。
彼女の眉間のしわも、自然と深くなっていく。
「そんなんじゃないわ。
何かしていないと、落ち着かないだけ」
それだけだとは言い切れないが、間違いでもなかった。
人間ならば、社会に出て働いている設定年齢。
音源として決められたものが“役割”なら、自分で選べるものが“仕事”。
人の真似事にしかすぎなくても、何か皆に貢献できることをしたい。
だからクウは働くのだ。
「私はどちらでもかまいませんが」
モンの言葉に、クウは文字入力を間違えてしまった。
本当に、つかめない。
まるでクラゲのようだ。
海の色に溶け込み、存在が確認できず。捕まえようとしても、するりと手から滑り落ちる。
彼は、毒を持っているだろうか?
危険性が分からなければ対処のしようがない。
けれど確かめるためには、一定の距離より近づかなければならない。
一歩を踏み出す勇気は、彼女にはなかった。
「……あまり、気を張らない方がいいですよ」
優しい声がした。
低い穏やかな声が、クウを包み込むかのように響く。
「え?」
言葉の意味をすぐには理解できずに、クウは男の方を振り返る。
優しげな褐色の瞳と出会って、鼓動が大きく跳ねた。
こんな彼は知らない。
「嫌われている私が言っても、意味はないのでしょうが」
帽子の縁をつまみ、モンは自嘲の笑みを浮かべる。
やはり気づかれていた。
クウが、モンを避けていたことを。
聡い男だ。当然のことだろう。
「そ、そんなこと……」
あわてて口をはさもうとするが、
「ないのですか?」
鋭い問いに、声が出てこなくなってしまう。
それでも何か言わなくてはという思いが、彼女をあせらせる。
「大丈夫ですよ。
気にしていないというと嘘になりますが、好き嫌いは個人の自由です」
モンは落ち着かせるように、穏やかな声で言う。
責めてもいいはずなのに、瞳はどこまでも優しく温かで。
本当は、分かっていたはずだ。
音声データに人格を付加されたUTAUライブラリに、悪人はいないと。
かたくなな心が認められなかっただけで。
始めから、知っていたはずだ。
「少なくとも、嫌いじゃないわ」
素直になれないクウは、それだけしか答えられなかった。
誤解をしていたことを謝ることも、これからは普通に接しようという心構えも。
言葉にすることはできなかった。
「それは良かった」
なのに、モンは心から嬉しそうに笑うから。
また、理由も分からず胸が高鳴った。
どんなに内にこもっても、どんなに他人を否定しようとしても。
それでも、開いていた距離を一気にうめて、親しみを向けてくれる人はいて。
分からない、つかめないと思っていた本心だって。
いつか知ることができる日が、来るのだろう。
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