VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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Dream night
VOCALOIDでの眠りというものの扱いを明確にしようかと、書いてみました。
でもまだ分かってません(笑) スリープモードって言うだけなら簡単なんですけどね……。
カイミク。というかカイ→ミクです。シリアス風味。
リアルで言うところの夜。
各々が好きなように、就寝までの時間を使っているころ。
青年は共有スペースの隅っこで丸まっている影を見つけた。
「……ミク!」
KAITOはあわてて駆け寄る。
リビングのソファーで横になっていたりしたなら、まだそこまでは驚かない。
クッションも何もない、練習室とリビングをつなぐ部屋。
冷たい床の上で、猫のように丸くなって寝ている少女。
驚くなと言う方が無理な話だ。
「ミク、ミク?
こんなところで寝たら、風邪引くよ」
ミクの肩を揺すりながら、KAITOは声をかける。
けれど寝息は途切れることなく、起きる気配はない。
もうすでにスリープモードに入ってしまったのか、波長を確認しても判別できない。
見ると、ミクの手元には数枚の楽譜が散らばっていた。
歌の練習をしていて、疲れてしまったのだろう。
「まったく、しょうがないな」
がんばり屋なミクに、思わず苦笑をこぼす。
どんな理由があろうと、こんなところで寝かせておくわけにはいかない。
KAITOは少女のひざの裏に腕を通し、肩を支えて抱え上げる。
ミクの部屋まで連れて行こう。
疲れたら、眠くなる。人にとっては当たり前の本能。
VOCALOIDにもそれが適応される日が、今日やってきた。
これもバージョンアップの弊害なんだろうかと、KAITOはため息をついた。
*
知らされたのは、昼間のことだった。
『今度のバージョンアップで、睡眠が人とほぼ変わらなくなるらしい』
不定期にある、プログラムのバージョンアップ。
そのたびにマスターは変更箇所を説明してくれる。
顔を見て話せる直通回路で、KAITOはマスターの言葉に目を瞬かせた。
ミクは不思議そうに首をかしげ、MEIKOは眉をひそめている。
「それって、どーゆーこと?」
何でも知りたがるリンは、興味深々にそう訊いた。
その隣でレンはいつものように聞き役に回っている。
『疲れたら眠くなるし、夢も見る。
今までと全然違うだろうから、初めは途惑うかもしれないな』
マスターが詳細の載っているウェブページを開く。
そこには簡潔に、スリープモードの大幅な改善について書かれていた。
「夢が見られるんだ!」
ミクは声を上げ、リンと一緒になってはしゃぐ。
KAITOは夢に関しての項目だけを、何度も繰り返し読んでいた。
*
「“記憶”と“思い”に優先順位をつけて、それを織り交ぜる、か……」
ミクをベッドに寝かせたKAITOは、無意識に呟いていた。
書かれていた内容を自分なりに解釈したものだ。
言葉の通りだとするなら――。
自分の中での優先順位を嫌と言うほど知っているKAITOは、眉をひそめる。
真っ向から向き合う羽目になる。この、恋情と。
バージョンアップしてから十八回目にもなるため息を、胸に宿る想いを追いやるようにこぼした。
その時、「ん……」とミクの声が耳に届いた。
ベッドの上に目をやると、焦点の合っていない瞳が青年を映していた。
「お兄、ちゃん?
あれれ? 私いつの間に寝ちゃって……」
目尻をこすり、ミクは体を起こす。
強制的にスリープモードに移行したために、記憶が曖昧なのだろう。
メモリーを確認すればたぶん残っているはずだが、そこまでする気力はないようだ。
「運んでくれたの?
ありがと、重かったでしょ」
辺りを見回し、やっと自分の部屋にいることに気づいたらしい。
まだ眠そうな顔で、へにゃりと笑んだ。
「そんなことないよ。
姉さんが泥酔した時はもっとひどいから」
実際にミクは軽かったし、いざとなれば感覚を遮断してしまえば良いだけの話だ。
酔う、という現象はKAITOがこの家に来たときにはすでに実装されていた。
一般的なイメージで酒好きなMEIKOは、たまに浴びるほどの酒を飲む。
その時の後処理と比べれば、このくらいなんてことはない。
「あはは、それフォローになってないよ」
ミクもその時のMEIKOを思い出してか、苦笑いを浮かべた。
「ずっと練習してたんだろう?
もう、ゆっくり休んだ方がいい」
KAITOは少女の頭を優しくなでてやり、そう告げる。
自分はどうなんだと、冷静な頭が冷やかす。まだ、答えは出ない。
「うん。そうする」
ミクは素直に頷いた。
まぶたが重そうで、眠気と戦いながら話しているのが分かる。
可愛らしくて思わず笑みをこぼす。
「じゃあ、僕も部屋に戻るね」
僕も寝るね。とは言えなかった。
眠りたくない。夢を見たくない。そう思っている自分がいる。
寝ないようにしていても、強制的にスリープモードに入ってしまうのに。
「お休みなさい、お兄ちゃん」
扉に手をかけたKAITOに、ミクは手を振って寝る前の挨拶を口にする。
寝ろ。という啓示なのかもしれない。
眠れるかなんて考えて、逃げている彼に。
VOCALOIDに神も何もあったものではないけれど。
ミクの言葉は偉大だ。いつも、どんなときでも影響力は絶大で。
その少女の言葉が、今は恐ろしい。
「……お休み」
KAITOはミクから顔を背けて、挨拶を返す。
たったの一言が、ひどく重く響いた。
眠らなくてはならない。
いくら考えても、どんなに迷っても、結局は睡魔に負けてしまう夜が来る。
一生寝たくなどないと思っても、それは到底無茶な話で。
彼は痛感する。己の想いの深さを。
そしてまた、何度でも彼女に恋をするのだろう。
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