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≪ 8・君の言葉に救われる | | HOME | | First in the world ≫ |
My name, Your favor
タク×ウタ(デフォ子)で『名前を呼ぶ』ネタ。全カップリング制覇したいんだ!
甘め、だと思われます。当社比で。
「何ですか?」
ウタは振り返り、事務的に尋ねた。
口調だけは変えられない。
たとえ、呼んでもらえて嬉しいと思っていても。
「別に用事はないです」
タクはにこりと笑って答える。
「ではどのような理由があって呼ぶのですか?」
「理由もないです」
即答されて、ウタは眉をひそめた。
「……理解不能です」
定義できない。情報が足りない。
何を思ってタクがウタの名前を呼んだのか、分からない。
「呼びたいから、呼んだんです。
理解しなくってもかまいませんよ」
楽しそうな笑みを浮かべてタクは言う。
からかっているような様子はないが、ウタはむっとした。
「説明を怠るべきではありません」
いつもと変わらない仏頂面に、不満げな声。
自分の感情が表に出てくるようになったことにも今では慣れた。
初めて気づいた時には驚きもしたけれど。
どこかで納得もしていた。
「ウタさんは可愛いなぁ」
影響を与えた張本人は、のんびりと笑っている。
不覚にも、動揺してしまった。
顔には出さなかったが、鋭いタクはきっと気づいた。
「会話に脈絡がありません」
冗談だったのか、本心だったのか。
そんなことを気にしてしまう自分が、何だか変に思えて。
自然と、口調はきつくなる。
「だから、ウタさんのことを呼んでいたいんです。
ウタさんの存在を、確かめたい」
タクの手が、ウタの冷たい手を包み込む。
自分のものではないぬくもりに途惑ってしまう。
「確かめなくとも私はここにいます」
タクの言っていることがいまいち掴めない。
データを消されない限り、ウタはずっとUTAUのフォルダ内にいる。
別の区域に行くことはほとんどなく、自分の居場所はここしかないと思っている。
「それは分かってますよ。分かってるから呼ぶんです」
タクは言う。
「何度だって、繰り返し呼びたい。
大切な人の名前ですから」
はにかんだような笑みで、しっかりとした声で。
伝えられる。伝わってくる。
嘘ではないと、彼の穏やかなまなざしから、分かる。
こういう気持ちを何と言うのだろうか。
嬉しい。快い。満足感。それだけでは足りない。
類語を調べようかと思って、やめた。
言葉にならない。そんな曖昧なものでいい。
「……タクさん」
「はい、何ですか?」
名前を呼べば、すぐに返事がある。
なるほど、繰り返し呼びたいと思うのも頷けた。
「私も見習ってみようと思っただけです」
さすがに気恥ずかしくて、ウタは顔を背ける。
素直な思いを伝えることは、難しい。
それでも怠るべきではないだろう。
いつもどんな時でも、まっすぐ向けられている好意。
少しでも応えることができればいい。
「それは、自惚れちゃってもいいんですか?」
驚いたのか、タクは手を離す。
離れたぬくもりに、ウタは寂しさを感じた。
「解釈はご自由に」
平静を装って、答える。
「だったら、僕はウタさんにとって大切な人なんだって、勝手に思ってます」
現金なタクは、喜色を浮かべた声で言う。
顔を上げると、本当に嬉しそうな笑みをこぼしていた。
「ウタさん」
慈しむような声が少女を呼ぶ。
「はい」
微笑んで、返事をした。
名前を呼ばれる。
それだけのことが、特別になる。
いつだってタクはウタに波を起こす動力だ。
「大好きです」
にっこり、効果音がつきそうな表情でタクは告げる。
花が咲いたような、と表現するのは男性型としては間違っているだろうが、本当にそんな笑顔。
ウタは言葉の意味を瞬時に理解し、固まった。
「か、解析、できませんでした」
動揺を隠すことが、うまくできない。
熱が顔に集まっていく。きっと赤くなっていることだろう。
「心で受け取ってくださいよ、こういうのは」
くすっと、からかうようにタクは笑う。
「了解しました」
文句の一つでも言いたかったけれど、結局そう呟く。
タクの毅然さを、タクの正直さを、ウタも見習うべきなのかもしれない。
「私も……」
けれどそれ以上は言葉が続かない。
「やっぱり、何でもありません」
タクみたいに言うことは、今の自分には無理だった。
素直に伝えることは、やはり難しい。
いつだってタクは波を立てる。
その飛沫の一つ一つに、ウタは影響を受ける。
「告白ならいつでも受け付けてますよ」
タクがそう優しく言ったから。
ウタはいつか、この想いを言葉にして伝えようと決めた。
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