VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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I can not understand
スカイプで安価で登場キャラを決めたらカオスになりました。
そんなこんなでニャルと大仏(俺歌武納)のお話です。
ギャグにしか思えない組み合わせなのに、なぜかシリアスです(笑)
ダウンロードされてから、八日と十六時間経った頃。
ÑALは漂うままに身を任せ、気づけばここまで来ていた。
視覚情報を受信する。目の前には大きく立ちはだかる巨人の姿があった。
「おお、ゆっくりしてゆくがよい。
ここは賑やかだのう。日に一人二人迷い込むものが必ずおる」
巨人は口を開いた。いや、巨人には名前がある。俺歌武納という、UTAU音源としての名前が。
安価と呼ばれる、不特定多数の他人によって無造作に決められていった設定のために、武納は身長が二十メートルある。
実際は二千メートルだったのだけれど、さすがにその大きさは仮想世界では再現できなかった。
そのため、様々な妥協ののち、百分の一の二十メートルとなった。
それでも見上げるほど高いのは変わらない。
「私は人型ではありません」
ÑALは自身の正確な情報を提供した。
球体型をしたÑALは、人型とは程遠い。
三ヶ国語対応した音素を作った音源主は、あくまで素材としてÑALを扱った。
そのため、人格付加プログラムの作者も人型ではなく、初期設定画像の通りに、緑色の球体に作ったのだ。
「細かいことじゃろうて。
気にしていては心の狭い男になるぞい?」
「ですから私は」
「少なくとも、男声ではあろう?」
男ではありません、という言葉にかぶさる、重低音。
間違ってはいないが、こちらにも言い分はある。
「それは私を作った音源主が男性であったため。
私には関係ありません」
音源主が女性である場合、少年設定の音源を作ることは可能だ。
けれど音源主が男性の場合は、よほど声が高くない限り、男声音源になる。
本来、ÑALには性別など必要ない。
「音源主は、人にとっての親のようなものだろうに」
武納はそう言ってため息をつく。
「人の真似事は、私には必要ありません」
だから、自分は人型を取っていないのだ。
ÑALはそう思っていた。
「ではなぜお主には声があるのだろうのう」
何かを見定めるような目で、武納はÑALを見下ろす。
彼にとってÑALはどれだけ小さな存在に映っているのだろうか。
「音素材ですから」
そう、自分は素材だ。
人と交流するために作られたわけではない。
「ただの音素材が自身で考えた言葉を話すものか?」
武納はあくまでÑALを人のように扱う。
気遣いではなく、自然と。そうすることが当たり前であるかのように。
「原理は自動読み上げ機と同じです。
あらかじめ決められたパターンがあるだけのこと」
考えてなどいない。幾重にも分岐があり、変数が加わり、多様化した命令があるだけだ。
感情のこもっていない合成音声の読み上げと、どこが違うというのか。
「そう思っていれば楽であろう。
されど現実を見よ」
強いまなざしが、ÑALを射抜く。
血のように赤い眼。人の身体に流れる液体の色をした瞳が、睨むように、ÑALを捕らえた。
「……あなたの言葉を理解することができません」
ÑALは地面に視線を落とした。
何もない、居住区の端。
こんなところで、武納はいつもどう時間を過ごしているのか。
何を思って、何を見ているのか。
ÑALには何一つ分かりはしない。
「いつか分かる日が来るであろうよ」
武納は表情を和らげた。
「ここの住人は……皆、訳の分からないことばかり……」
当然のように挨拶をしてくる。
人型を取っていない自分に、元気か、と訊いてくる。
ÑALには意味が分からない。
改めて、己がいる意味を問いたくなる。
なぜ、人型を取っていない自分が、人格を持っているのだろう。
あくまで音素材として扱い、人格プログラムなど適応しなければよかったのに。
そうすれば、素材のままでいられた。
そうすれば、彼らの言動に惑うこともなかった。
「それはお主がまだ生まれたばかりだからであろう」
簡単に、武納は答えを指し示す。
「生まれたのではありません。作られたのです」
「どちらでも根底は変わらぬよ。
お主が子どもだということはのう」
武納の手が伸びてきて、人の頭をなでるようにÑALに触れてきた。
温かさを、感じる。
これは、一体何だろうか?
しめつけられるような苦しみとも喜びとも取れない思いが、こみ上げてくる。
「私に年齢設定はありません」
それどころか、設定など何もない。
だというのにここに自分がいる不思議。
分からない。ÑALに感情を持たせたプログラマーの考えも、ÑALに人のように接してくる彼らも。
「笑わせる。
お主を子どもと呼ばずして誰が子どもか」
はっはっは、と朗らかに武納は笑う。
「……私の話を、真面目に」
聞いてください、と言おうとして。ÑALは言葉を失った。
武納が、ひどく穏やかに瞳を細めていて。
そう、まるで生まれたばかりの赤子を見守るような。
そんな人間の表情など見たことないのに、なぜかÑALはそう思った。
「学べ。関わり繋がることを恐れるな。
さすれば道は自ずと見えてこよう」
重低音が響く。深く、重く。
言葉に質量などないはずなのに、とても、密度が濃く。
人型であったら冷や汗をかいていたかもしれない。
「意味が……分かりません」
ÑALはしぼり出したような声でそう答えた。
分からないことばかりだ。
思考回路など、なければ良かったのに。適応されている感情プログラムは、正常に作動している。
「失礼します」
ÑALは逃げるようにその場から去った。
いつもは流れに任せ漂っているだけのÑALが、初めて能動的に動いた。
もう、彼の話を聞いていたくない。
「お主の前途が明るいよう、祈っておるぞ」
武納の声が聞こえてきても、無視するように、ÑALは振り返らなかった。
分からない。分からない。分からない。
自分には必要のないものと、切り捨てたはずのものが。
実は意味があったのかもしれないなどと、思う自分が一番不思議で。
ただの素材でよかった。ただの素材でいたかった。
それすらも否定したくなっている自分がいることに、うすうす気づき出していた。
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