VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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≪ HATUNE MIKU | | HOME | | 6・君にもきっと分からない ≫ |
Word game
カイミク。いつもと違ってちゃんとくっつきます。甘いかは分かりませんが。
兄さんの誕生日をろくにお祝いできなかったので、カイミクラッシュ(笑)です。
記念日を祝う系って、得意じゃないんだよ! と言い訳。
そう言ったのは、なぜかやる気満々といった様子の、ミクだった。
KAITOは首をかしげる。言葉の意味を取りかねて。
「しりとりって……あの、しりとり?」
ソファーに座りなおして、問いかける。
「そう、そのしりとり」
間髪いれず返ってくる答えに、聞き間違いでも思い間違いでもないことを知る。
まあ、VOCALOIDがそんな間違いをするはずがないのだけれど。
間違っているわけではないと知って、次に頭に浮かぶのは、疑問。
「どうして、しりとり?」
ソフトウェアであるVOCALOIDには、人間との対話が自然にできるよう、検索機能がついている。
そんな自分たちがしりとりをするなんて、意味がない。
例えるなら、チャットでしりとりをするようなもの。
別窓で辞書を開いて、しりとり。
最後に“ん”がつく言葉は、永遠に出てこない。
「やってみたくなったから!」
用意されていたように、はっきりと答える。
頭にあった疑問は、単純な返答によって薄れてきた。
そんなこともあるのだろう。
人の遊びを、真似してみたくなる。
ミクに限らず、感情プログラムを搭載したソフトウェアであれば。
そう納得して少女に声をかける。
「いいよ。最初は何から?」
ミクは、効果音をつけるならぱあっと、笑顔になった。
「ほんと!? しりとり、やってくれる?」
何が嬉しいのか、KAITOの手を取って左右に振る。
よく分からないけれど、少女にとって重要なことなのだろう。
「うん。一緒にやろう、しりとり」
優しく笑いかけてやれば、うん! と元気な返事が返ってきた。
青年の隣に座って、るんるんと足を振っている。
「清音と濁音と半濁音は一緒にするルールね!
最初の音はどうしよっか?」
「じゃあ、ミクのく、からでどうかな?」
「いいよ! 私からね!
えっと、《クリスマス》!」
なぜか力いっぱいに、握りこぶしまで作ってしりとりを始める。
不思議なほどの意気込みに押されながらも、検索をせずに次を考えた。
「《すずめ》」
一般的だろう言葉を口にすれば、ミクは明らかに落胆したような顔になった。
「え……どうかした?」
ありきたりなものではいけなかったのだろうか。
てっきり、普通のしりとりらしいものをしたかったのだと思ったのに。
奇をてらった言葉を望んでいたのだろうか。
「う、ううん! じゃあ次!
め、め、《目方》!」
首を振って、空元気を出して次に進む。
「目方?」
その単語に首をかしげる。
あまり使わない言葉だったから。
少なくともしりとりらしくはなかっただろう。
単語を音にするまでに、考えるような間があったことも気になった。
「間違ってないでしょ」
ミクは拗ねたように唇をとがらす。
確かにしりとりに間違いなどはないのだから気にすることもないだろう。
「まあね、《台風》」
黄色い漬物が一番に頭に思い浮かんだが、んで終わるのですぐに却下する。
やはり情報処理能力の高いソフトにしりとりというのは、おかしい。
こうやって即座に判断できてしまうのだから。
「うぅ、《歌》」
先ほどのように、またミクが沈んだ表情をする。
VOCALOIDの存在意義である単語を、そんな顔で言うなんて。
「本当にどうかしたの? ミク」
心配になって、KAITOは尋ねる。
ずっと様子がおかしいのだ。
しりとりをしようと言い出したのも、その後の表情の変化も。
分からないことだらけだった。
「何でもないよ、大丈夫!」
くいっと顔を上げて、大声を出す。
あまり大丈夫には見えなかったけれど、本人がそう言っているのなら深入りはできない。
「それなら、《滝》」
思いついたままに口にする。
「きき、《木札》」
まただ。検索しなくてもすぐ出てくるような頭文字なのに、少女は悩む。
なぜ、なのだろうか?
ミクがこれまで言ってきた言葉を統計的に考えてみる。
――次の頭文字を、特定の音にするため?
すべて“す”か“た”が後につく言葉だけだった。
と言ってもまだしりとりを始めたばかりなので、偶然かもしれないけれど。
「《体当たり》」
あくまで検索は使わずに、答える。
人の真似をしたいのであれば、人にはない機能は使わないべきで。
けれどたぶん、ミクは検索しながら、その中で取り捨てしているのだろう。
《リンス》、《スイカ》、《カシス》、と続く内に、やはり推測は正しかったのだと知る。
“す”と“た”。
その頭文字から始まる言葉が少なければ、ハメなのだと思うだけだ。
しかしその二つを頭文字に持つ言葉は多い。
濁音を混ぜて検索すれば優に一万を超えてしまう。
その内で単語として使えるもの、となると多少は減るだろうが、ハメになるような音ではない。
と、なると。考えられることは一つ。
どうやらミクの中で重要な単語の頭文字らしい。
それは、KAITOに言わせたい言葉であるのかもしれない。
「《ススキ》」
すぐに頭を切り替えて、しりとりに戻る。
“す”から始まる言葉なんて多すぎて、特定できるとは思えない。
「き……《キス》!」
ミクが口にした単語に、思わず目を丸くする。
他にもいくらでもあったろうに、なぜわざわざその言葉を選んだのか。
言った本人は自分でも恥ずかしかったのか、俯いている。
今日のミクの言動は、分からないことばかりだ。
「えっと、《スリル》?」
気にせず続けた方がいいのかもしれないと思って、該当する言葉を探す。
相変わらず、“す”から始まっているなと考えながら。
「《ルアー》」
明らかに、声のトーンが変わった。
KAITOに特定の言葉を言わせるのをあきらめたのか、落ち込んだような声だ。
隣を見ると、やはり少し不機嫌そうで。
「ミク……?」
たまらず声をかけると、
「いいから、続けて」
強い口調で、気遣いを拒絶される。
どこか最後の勝負を挑んでいるような、顔でもあった。
「《アイス》」
仕方がなくしりとりを再開する。
“あ”から始まる言葉では、それが一番に浮かんだ。
KAITOの好物として有名で、自分も実際に好きなものだった。
「《好き》」
真剣な、声だった。
高く澄んだ声が、紡いだ音は驚くべきもので。
「え……」
KAITOは言葉を忘れた。
「だから、好き!」
意地になって、ミクは叫ぶように言う。
確かにアイスの後は“す”だけれど。
これでは、まるで……。
「ええと、それは、しりとりで」
「好きって言ったら好きなんだから! 次は!?」
混乱しながらも確認しようとするKAITOにミクはさらに続ける。
それは、つまり。
恋の告白……ということなのだろうか?
「ねえ、お兄ちゃん!」
焦れたミクがすがってくる。
怒鳴るような、けれどどこか泣きそうに震えている声。
まっすぐに青年を射るまなざしは強く、苛烈で。けれど涙をためていて。
誰よりも大切で愛しい妹は、いつの間にか女になっていた。
「《君が好きだ》」
考えるより先に、言葉にしていた。
ずっと言えなかった、言うつもりもなかった言葉だった。
兄として、家族として、見守っていられれば充分だと。
それでは納得しない感情に蓋をして、秘めていた想いだった。
ミクは知っていたのかもしれない。
だから、言わせようとしたのかもしれない。
しりとりという人の遊びを、想いを伝える手段として。
KAITOもその遊びに乗って、もう一つ、“た”から始まる言葉をミクから言わせようとする。
「《大好き》」
少女は悪戯がばれた子どものような笑みで、告げた。
しりとりしよう!
それは、素直な想いを知る手段。
互いに答え合わせした後は、笑顔で自分の言葉で伝え合おう。
今度からは、しりとりなんてしなくてもすむように。
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