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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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Special chocolate

 バレンタインですね。あげる人もいないのに、私もモロゾフでチョコを買ってきました。おいしいです♪
 でもって栄二モモで、バレンタインデーネタ。甘め、だと思う。
 ギリギリってわけじゃないです。わざとです。






 祭事のあとには、小さな灯火が必要だ。
 それを渡すために、すでに寝る者もいる中で、栄二は一人の少女を探す。
 先ほどまで忙しなく動き回っていた彼女は、今はリビングの方にいるようだった。



Special chocolate




 リビングではなく、キッチンに置いてある丸椅子に、彼女は座っていた。
 その姿を見つけた栄二は、自然と笑みを浮かべる。
「栄二さん」
 少年の存在に気づいたモモも、笑顔で手を振ってくれる。
 その表情に疲れは見えない。
 小走りで栄二は距離を詰める。
「モモちゃん、お疲れさま」
 栄二はそう言って、金平糖の入った小袋をモモの頭の上に乗せた。
 モモは軽い衝撃に首をかしげ、うまい具合に小袋は彼女の手の上に落ちる。
「ありがとうございます」
 モモは少し驚いたように目を丸くした後、礼を言った。
 もちろんこれはモモ用に常備してある金平糖で、栄二が用意したものではない。
 それでもお返しの時もやっぱりこれしかないだろうな。と頭の片隅で考えた。
 モモみたいに甘い甘い、砂糖菓子。
 色鮮やかで可愛らしくて、彼女に似合っている。

「それにしてもがんばったよね~、モモちゃん」
 椅子を持ってきて、栄二はモモの隣に座る。
 今日は大所帯だっただろうキッチンは、今は綺麗に片付いていて。
 ほとんどモモが掃除したんだろうな。と予想する。
 きっと、そんなには間違っていないだろう。
「いえ、皆さんに喜んでいただけたようで良かったです」
 控えめな答え。彼女らしい。
 小袋を開け、早速金平糖を口に含んでいる。
 幸せそうな笑みをこぼしたのを見て、栄二も嬉しくなってきた。
「そりゃ~今日はトクベツだからね!
 兄ちゃんも何かそわそわしてたよ~」
 乙女の祭典とも言われるバレンタインデー。
 それはパソコンの中にも花を咲かせた。
 フリー素材を探してきて、普通の女の子のようにチョコレートを作ったりして。
 もらう側である栄二たちにとっても、心浮き立つ日だった。
 好きな人からもらえるかどうか。
 気になるのは結局のところ、そこだ。
 兄の栄一も部屋の中を行ったり来たりしたり、挙動不審だった。
「年に一度ですからね」
 UTAUというプログラムが作られてから、初めてのバレンタインだった。
 今年は初めてづくし。クリスマス。お正月。節分。何もかもが楽しい思い出になっていて。
 そろそろ、皆の誕生日というものを祝えるようになる。
「記念日は楽しまなくっちゃ損、だし。
 おいしいものが食べられる日はもっと大歓迎♪」
 栄一はウキウキと語る。
 クリスマスの時は豪勢な料理の数々。節分の時もモモが豆スープを作ってくれた。
「栄二さん、甘いものお好きですもんね」
 モモが苦笑をこぼす。
 子どもっぽいと思われただろうか。
 これからもたくさんある祝い事を、栄二は心待ちにしている。
 皆と一緒なら、絶対に楽しい日になると分かっているから。

「うん。だから今日、チョー楽しみにしてたんだ!
 モモちゃんから何もらえるんだろうって!」
「私から、だけですか?」
 栄二が瞳を輝かせて言うと、モモは意外そうに尋ねてくる。
「他の人からもらえるのも嬉しいけど、モモちゃんからが一番嬉しいから」
 当たり前のことのように、栄二は答えた。
 正直な気持ちだ。マコやサラなど、他の人にももらったけれど、やっぱり一番はモモだった。
 今日をこんなに楽しみにしていたのも、モモからもらえると知っていたから。
 家事全般を得意とするモモが、手作りの菓子を贈ると喜ばれる記念日に、何もしないはずがない。
 そしてその通り、モモから栄二はチョコカップケーキをもらった。
「……そ、そうですか」
 モモはうつむいて、エプロンのフリルをいじった。
 その顔は少し赤らんでいるようにも見える。
「だからさぁ」
 栄二はキッチン台の上で腕を組んで、その上に頭を乗せる。
 その体勢のまま、モモを見上げ、
「これ、オレのワガママだから聞き流してね」
 先に自己申告しておく。
 いきなり何だろうと、モモが小首をかしげる。
 自分でも、これは身勝手な思いだと分かってはいるのだ。

「モモちゃんが皆に同じの作ったのが、ちょっとだけショックだった」

 栄二がもらったのも、兄がもらったのも、他の男性型がもらったものも。
 全部、おんなじチョコレート味のカップケーキ。
 そこに違いなんてなくて、皆がおそろいで。
 平等でとてもモモらしいのだけれど。
 栄二はほんの少し期待していた分、裏切られたような気持ちになった。
 もやもやとした、嫌な感覚。これは、記念日にふさわしくない。
 だから言わないつもりだった。
 心の中で、自然と消えていくまで、隠しておくつもりだった。
 なのに、モモを前にすると、口が勝手に動く。
 隠し事ができない。
 栄二がむすっとした顔をしていると、モモははにかんだような笑みを浮かべる。
「ふふ、そういうわがままなら嬉しいです」
 本当に嬉しそうに、笑い声をもらして。
 少年にはその理由が分からない。
 子どもっぽい面を、また彼女に見せてしまった。
 あまり変わらない設定年齢のはずなのに、いつもモモに甘えてしまう。
 兄のように、大人になりたかった。大人だったら良かった。

「栄二さん、一つだけ教えてあげます」
 モモが立ち上がり、人差し指を立ててそう言い出した。
「ん?」
 栄二はキッチン台から頭をもたげて、モモを見る。
 いつもと同じ、可愛らしい微笑み。
 けれど、どこか悪戯が成功した子どものような瞳をしていた。

「見た目が一緒だからって、特別なものがないとは限らないんですよ」

 人差し指を口の前まで持っていき、内緒話のようにささやく。
「モモちゃん?」
 栄二は困ったように彼女の名前を呼ぶ。
 何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
「それでは、私も部屋に戻りますね」
 少年の頭が正常に機能し出す前に、モモはそう言ってキッチンから出て行く。
「あ、うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
 その後ろ姿は、どこか楽しげなように、栄二には見えた。
 結局、モモの部屋の扉が閉まるまで彼は微動だもできずにいたのだった。


「栄二、まだこんなところにいたのか」
 ぼんやりとしていた栄二に、呆れたような声がかけられた。
 栄一の頭の上には雪のデータがわずかに残っていて。
 リラクゼーション区域にいたのだと一目で分かる。
「兄ちゃん、その箱。もらえたんだ」
 ニヤ、と栄二は意地の悪い笑みを浮かべて指摘する。
 水色の包装紙にピンクのリボン。片手に収まってしまう小箱。
 今日一日、栄一の落ち着きがなかった理由が、今は彼の手元にある。
「ま、まあな」
 栄一は照れたように頭をかく。
 素直に祝ってあげたい気持ちと、茶化したい気持ちとが、栄二の中に同居していた。
 か、それよりも先に。

「ねえ兄ちゃん、モモちゃんにもらったのって、チョコカップケーキだよね?」
 栄二は椅子の上で体育座りをしながら、訊いてみる。
 『見た目が一緒』。つまりそれはモモが作ったカップケーキのこと。
 大きさも色も不思議なくらいにそろっていた。
「ああ、そうだな」
 急な話題転換を気にすることなく、栄一は頷く。
「中にもチョコが入ってたよね?」
 栄二は問いを続ける。
 『特別なものがないとは限らない』。つまり違いがあるかもしれないのだ。
 見た目はコピーしたように同じだった、カップケーキの中に。
 モモにとっての“特別”があったかもしれないのだ。
「中に? いや、入ってなかったぞ」
「え……?」
 意外な、いや、心のどこかで望んでいた答えに、栄一は目を瞬かせる。
 ということは。
 栄二のカップケーキだけ、チョコが入っていた?
 栄二のカップケーキだけ、“特別なもの”だった?

「良かったな、栄二」
 意味を悟ったらしい兄は、そう栄二の頭をなでてから、部屋へと戻っていった。
 残された栄二は、ひざに顔をうずめさせる。
 そういえばモモは、わざわざ皆に配り歩いていた。
 呼び出して一斉に渡せば早いのに、そうはしないで自分から足を運んでいて。
 それは、もらったらすぐに食べるだろう栄二に、気づかせないためだったのではないか。
 一人だけ、中身が入っていることに――。

「モモちゃ~ん、こんな不意打ちは反則だよ~!」
 栄一は大声で泣きたいような笑いたいような、奇妙な感覚に囚われる。
 落胆から一転、この喜びはどうすればいいのだろう?
 処理できないプラスの感情たちに途惑いながら、栄二はそれでも、良かった、と思う。
 自分が特別で良かった。彼女の特別でいられて良かった。



 とりあえず。
 ホワイトデーには、金平糖だけじゃなく、色んなものでモモを喜ばせよう。
 そう、心に誓った栄二だった。





 虹色グラデフォントは多用しない方が(目に)いいと思うのですが、楽しくてつい。
 モモちゃんは男どもだけじゃなく女の子たちの分も作りました。すんごく大変だったと思われます。
 同じに見えて、特別が混じってる。ってネタは結構好きです。
 ちなみに栄二はリビングにて金平糖を拝借し、まだ皆にチョコを配ってたモモを探しに行き、その間にモモがリビングの方まで戻ってったので、探し損でした(文章じゃうまく表せなかった)
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