VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ UTAUライブラリ キャラソート | | HOME | | 5・君の声は透明で ≫ |
Special chocolate
バレンタインですね。あげる人もいないのに、私もモロゾフでチョコを買ってきました。おいしいです♪
でもって栄二モモで、バレンタインデーネタ。甘め、だと思う。
ギリギリってわけじゃないです。わざとです。
リビングではなく、キッチンに置いてある丸椅子に、彼女は座っていた。
その姿を見つけた栄二は、自然と笑みを浮かべる。
「栄二さん」
少年の存在に気づいたモモも、笑顔で手を振ってくれる。
その表情に疲れは見えない。
小走りで栄二は距離を詰める。
「モモちゃん、お疲れさま」
栄二はそう言って、金平糖の入った小袋をモモの頭の上に乗せた。
モモは軽い衝撃に首をかしげ、うまい具合に小袋は彼女の手の上に落ちる。
「ありがとうございます」
モモは少し驚いたように目を丸くした後、礼を言った。
もちろんこれはモモ用に常備してある金平糖で、栄二が用意したものではない。
それでもお返しの時もやっぱりこれしかないだろうな。と頭の片隅で考えた。
モモみたいに甘い甘い、砂糖菓子。
色鮮やかで可愛らしくて、彼女に似合っている。
「それにしてもがんばったよね~、モモちゃん」
椅子を持ってきて、栄二はモモの隣に座る。
今日は大所帯だっただろうキッチンは、今は綺麗に片付いていて。
ほとんどモモが掃除したんだろうな。と予想する。
きっと、そんなには間違っていないだろう。
「いえ、皆さんに喜んでいただけたようで良かったです」
控えめな答え。彼女らしい。
小袋を開け、早速金平糖を口に含んでいる。
幸せそうな笑みをこぼしたのを見て、栄二も嬉しくなってきた。
「そりゃ~今日はトクベツだからね!
兄ちゃんも何かそわそわしてたよ~」
乙女の祭典とも言われるバレンタインデー。
それはパソコンの中にも花を咲かせた。
フリー素材を探してきて、普通の女の子のようにチョコレートを作ったりして。
もらう側である栄二たちにとっても、心浮き立つ日だった。
好きな人からもらえるかどうか。
気になるのは結局のところ、そこだ。
兄の栄一も部屋の中を行ったり来たりしたり、挙動不審だった。
「年に一度ですからね」
UTAUというプログラムが作られてから、初めてのバレンタインだった。
今年は初めてづくし。クリスマス。お正月。節分。何もかもが楽しい思い出になっていて。
そろそろ、皆の誕生日というものを祝えるようになる。
「記念日は楽しまなくっちゃ損、だし。
おいしいものが食べられる日はもっと大歓迎♪」
栄一はウキウキと語る。
クリスマスの時は豪勢な料理の数々。節分の時もモモが豆スープを作ってくれた。
「栄二さん、甘いものお好きですもんね」
モモが苦笑をこぼす。
子どもっぽいと思われただろうか。
これからもたくさんある祝い事を、栄二は心待ちにしている。
皆と一緒なら、絶対に楽しい日になると分かっているから。
「うん。だから今日、チョー楽しみにしてたんだ!
モモちゃんから何もらえるんだろうって!」
「私から、だけですか?」
栄二が瞳を輝かせて言うと、モモは意外そうに尋ねてくる。
「他の人からもらえるのも嬉しいけど、モモちゃんからが一番嬉しいから」
当たり前のことのように、栄二は答えた。
正直な気持ちだ。マコやサラなど、他の人にももらったけれど、やっぱり一番はモモだった。
今日をこんなに楽しみにしていたのも、モモからもらえると知っていたから。
家事全般を得意とするモモが、手作りの菓子を贈ると喜ばれる記念日に、何もしないはずがない。
そしてその通り、モモから栄二はチョコカップケーキをもらった。
「……そ、そうですか」
モモはうつむいて、エプロンのフリルをいじった。
その顔は少し赤らんでいるようにも見える。
「だからさぁ」
栄二はキッチン台の上で腕を組んで、その上に頭を乗せる。
その体勢のまま、モモを見上げ、
「これ、オレのワガママだから聞き流してね」
先に自己申告しておく。
いきなり何だろうと、モモが小首をかしげる。
自分でも、これは身勝手な思いだと分かってはいるのだ。
「モモちゃんが皆に同じの作ったのが、ちょっとだけショックだった」
栄二がもらったのも、兄がもらったのも、他の男性型がもらったものも。
全部、おんなじチョコレート味のカップケーキ。
そこに違いなんてなくて、皆がおそろいで。
平等でとてもモモらしいのだけれど。
栄二はほんの少し期待していた分、裏切られたような気持ちになった。
もやもやとした、嫌な感覚。これは、記念日にふさわしくない。
だから言わないつもりだった。
心の中で、自然と消えていくまで、隠しておくつもりだった。
なのに、モモを前にすると、口が勝手に動く。
隠し事ができない。
栄二がむすっとした顔をしていると、モモははにかんだような笑みを浮かべる。
「ふふ、そういうわがままなら嬉しいです」
本当に嬉しそうに、笑い声をもらして。
少年にはその理由が分からない。
子どもっぽい面を、また彼女に見せてしまった。
あまり変わらない設定年齢のはずなのに、いつもモモに甘えてしまう。
兄のように、大人になりたかった。大人だったら良かった。
「栄二さん、一つだけ教えてあげます」
モモが立ち上がり、人差し指を立ててそう言い出した。
「ん?」
栄二はキッチン台から頭をもたげて、モモを見る。
いつもと同じ、可愛らしい微笑み。
けれど、どこか悪戯が成功した子どものような瞳をしていた。
「見た目が一緒だからって、特別なものがないとは限らないんですよ」
人差し指を口の前まで持っていき、内緒話のようにささやく。
「モモちゃん?」
栄二は困ったように彼女の名前を呼ぶ。
何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
「それでは、私も部屋に戻りますね」
少年の頭が正常に機能し出す前に、モモはそう言ってキッチンから出て行く。
「あ、うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
その後ろ姿は、どこか楽しげなように、栄二には見えた。
結局、モモの部屋の扉が閉まるまで彼は微動だもできずにいたのだった。
「栄二、まだこんなところにいたのか」
ぼんやりとしていた栄二に、呆れたような声がかけられた。
栄一の頭の上には雪のデータがわずかに残っていて。
リラクゼーション区域にいたのだと一目で分かる。
「兄ちゃん、その箱。もらえたんだ」
ニヤ、と栄二は意地の悪い笑みを浮かべて指摘する。
水色の包装紙にピンクのリボン。片手に収まってしまう小箱。
今日一日、栄一の落ち着きがなかった理由が、今は彼の手元にある。
「ま、まあな」
栄一は照れたように頭をかく。
素直に祝ってあげたい気持ちと、茶化したい気持ちとが、栄二の中に同居していた。
か、それよりも先に。
「ねえ兄ちゃん、モモちゃんにもらったのって、チョコカップケーキだよね?」
栄二は椅子の上で体育座りをしながら、訊いてみる。
『見た目が一緒』。つまりそれはモモが作ったカップケーキのこと。
大きさも色も不思議なくらいにそろっていた。
「ああ、そうだな」
急な話題転換を気にすることなく、栄一は頷く。
「中にもチョコが入ってたよね?」
栄二は問いを続ける。
『特別なものがないとは限らない』。つまり違いがあるかもしれないのだ。
見た目はコピーしたように同じだった、カップケーキの中に。
モモにとっての“特別”があったかもしれないのだ。
「中に? いや、入ってなかったぞ」
「え……?」
意外な、いや、心のどこかで望んでいた答えに、栄一は目を瞬かせる。
ということは。
栄二のカップケーキだけ、チョコが入っていた?
栄二のカップケーキだけ、“特別なもの”だった?
「良かったな、栄二」
意味を悟ったらしい兄は、そう栄二の頭をなでてから、部屋へと戻っていった。
残された栄二は、ひざに顔をうずめさせる。
そういえばモモは、わざわざ皆に配り歩いていた。
呼び出して一斉に渡せば早いのに、そうはしないで自分から足を運んでいて。
それは、もらったらすぐに食べるだろう栄二に、気づかせないためだったのではないか。
一人だけ、中身が入っていることに――。
「モモちゃ~ん、こんな不意打ちは反則だよ~!」
栄一は大声で泣きたいような笑いたいような、奇妙な感覚に囚われる。
落胆から一転、この喜びはどうすればいいのだろう?
処理できないプラスの感情たちに途惑いながら、栄二はそれでも、良かった、と思う。
自分が特別で良かった。彼女の特別でいられて良かった。
とりあえず。
ホワイトデーには、金平糖だけじゃなく、色んなものでモモを喜ばせよう。
そう、心に誓った栄二だった。
≪ UTAUライブラリ キャラソート | | HOME | | 5・君の声は透明で ≫ |