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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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Not lemon

 バカっぽい話が書きたくて、王道ネタをやってみました。
 リンレン。たぶん、甘め。






 爆弾少女は他人の都合なんてこれっぽっちも考えず、今日も特大の爆弾を抱えてやってきた。



Not lemon




「レン、知ってる!?
 ファーストキスはレモンの味なんだって!!」

「――ぅぶっ!! げほっげほげほっ!」
 レンは飲んでいたバナナシェイクを思いっきり吹き出し、咳き込んでしまった。
「あり? だいじょーぶ?」
 当の爆弾少女は自分の持ってきた危険物の大きさに気づいていないらしい。
 きょとん、と目を丸くして、心配そうに少年を覗き込んでくる。
「ん、な……いきっなり、何てこと言いやがんだ!」
 ギロリ、と視線で人が殺せそうな目つきの悪さでリンをにらむ。
 似た顔のパーツをしている彼女には意味がないと分かっていたけれど。

「何って、だからファーストキ」
「だあぁぁっ!! いい! わざわざ繰り返すなっ!!」
 半ば悲鳴を上げるように叫ぶ。
 ありえない。こいつの無神経さには本当に頭を抱えたくなる。むしろ抱えている。
 熱い。熱い熱い熱い。どこが、なんて今さらだ。
 頬に熱が集まる。それどころか顔全体、耳まで。体も何だか火照っている気がしてきた。
「ほへ? レンが訊いてきたんじゃん」
 どーしてそんなあわててんの? とでも問いたそうに首をこてんとかしげる。
 レンはたった一言で色々と削られながらも顔を上げ、口を開く。
「お、オレが訊いてんのは、何でそんなことを言い出したのか、だ!」
 別にファースト……なんちゃらのことを詳しく知りたいわけではないのだ。
「散歩してたら、ぐーぜん見っけたの!」
 よくぞ言ってくれました! とばかりにリンは嬉しそうに語りだす。
 こうなるともう自分にも止められないことは百も承知。
 大人しく話し相手になるしか道はないらしい。……この、微妙な話題の。
 少年は観念して、中身のなくなったコップをテーブルに置いた。

「レンはどーしてバナナなの?」
 その不満そうな声に、レンはむっとする。
「人の好きなモンに文句つけんなよ」
 誰だって自分の好きなものをけなされれば腹も立つ。
 例えそれが、好物と比べるまでもないほど大切な彼女であっても。
 行儀悪くテーブルに片肘をつき、少年は仏頂面を作った。
「別にバナナが悪いわけじゃないけどさ。リンだって嫌いじゃないし」
 ま、ミカンが一番だけど。とはっきり付け加える。
「でもねぇ、レモンなら良かったのに。
 名前だって似てるんだからさ!」
「そういう問題じゃねぇ!!」
 意味分かんねぇから! と少年は思わず叫んだ。
 どうやら話題のせいで沸点が低くなってしまっているらしい。
 元から兄のように穏やかな性格をしていないレンだが、今は余計に短気になっている自覚があった。

「……大体、好物がミカンだって先に決まったの、お前の方じゃんか」
 VOCALOIDは歌うために作られたため、声が主体だ。
 それ以外の好き嫌いはマスターやら別のところにいる自分やら、周りが勝手に決めたイメージやらに影響される。
 だから不本意ながらレンとリンは、黄色や橙色のものは基本的に好きだ。……ロードローラーでさえ。
「そーだけど」
「ならオレが後から何選んだって、勝手だろ?」
 リンだって相談なしに決めたんだからな、ともっともらしく言った。
「むぅ~~」
 少女は頬をふくらませて不満を訴えてくる。
 ひどく分かりやすい反応にこみ上げてきた笑みを、何とか飲み込むことができた。
「拗ねてもむくれても好きなモンは好きなんだからしょーがねぇんだ。
 リンだって、急にレモンを一番好きになれ。なんて言われたって無理なくせに」
 う、と図星だったのか声を詰まらせた。
 反論できないのが悔しいようで、一瞬だけにらんだ後、顔をそらす。
「そ、そうだけどさ」
 組んだ手を前に突き出しながら、彼女は渋々認めた。
 それでもまだ納得できないらしく、ぶーぶーと文句をこぼしている。
 どうしたものか、と思考を巡らせていると、突然リンがこちらを見た。

「レンは、どうしてバナナが好きなの?」
 純粋な疑問なのだろう。
 澄みきったセルリアンブルーの瞳が少年をうかがっている。
 自身と同じ色のはずなのに、その何倍も、綺麗なように思えた。
「好きに理屈なんてねぇよ」
 言いながら、覗き込んできている少女を避けるように背中を向ける。
 食べ物に関する趣向と分かっていても、好きだとか一番だとかは、やはり少し恥ずかしい。
「それもそーだね」
 分かっているのかいないのか、頷いてリンは籠の中のミカンに手を伸ばす。
 それを見て、レンも無意識にバナナを房から一本取る。
 ほぼ同時に皮をむき始め、ほぼ同時に二人は各々の好物を食べ終わった。
 あ! と少女は驚いたような、新発見をしたような声を出す。
 今度は何だと目を向けると、くへへっと嬉しそうな照れくさそうな笑みをこぼしていた。

「リン、やっぱレンがバナナ好きで良かったかも!
 いつも一緒に遊んだり騒いだりできるもん」
 考えてみれば、形状は違うものの量も食べやすさも同じくらいだ。
 どちらも手で皮をむくことができるから、それだけ早く食べることができる。
 若干ミカンの方が時間がかかるところだけれど、リンの大口では問題にならない。
 食べ終わるまでの速度が同じなら、その後一緒に遊ぶのも楽、と言いたいのだろう。
 確かにレモンの厚い皮では、そうは行かない。
 手でむくのは大変だから、果物ナイフを使うことになる。
 半分に切って、スプーンですくって食べるのが、正しい食べ方だろうか。
 完食にはバナナの倍以上は、少なくともかかりそうだ。
「そーかよ」
 きっと、そんな深い意味はない。
 いつも一緒に行動してるから。それだけだ。
 分かっているけれど、暗に片時も離れていたくはないと言われているようで。
 しばらくは顔を上げられそうになかった。
 そんなレンに、少女はさらに追い討ちをかける。


「だから、ファーストキスの味もバナナで我慢するね」

「――っ!!」



 爆弾少女の威力は今日も衰える様子を見せない。
 むしろ、日を重ねることに増しているような気さえした。





 リンとレン、どっちの持ち物が先に決まったのかは、知りません(笑)
 何となくレンなような気もするけど、このお話の世界ではリンの方が先、ということで。
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