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Specially about him
書きたかったカップリングが、少しずつ消化できていってます。
これもその一つ。轟栄二×桃音モモ。多分に互助会BBSの影響なんですよね。
あ、一度書いたからもう書かないとか、ありえないので。あしからず。
「私も栄二さんが好きです」
モモはニコリと笑って、答える。
「うん、知ってる」
栄二の表情が少し和んだ。
二人にとって、“好き”という言葉は身近すぎた。
兄が好き。お掃除が好き。写真が好き。料理が好き。
いくらでも好きなものは思い浮かぶし、一つにも決められない。
彼の言った言葉にも深い意味はないのだと、モモには分かる。
「今日の栄二さんは何だか面白いです」
モモは思わずクスリと笑みをこぼした。
「面白い? どこが?」
きょとんと、栄二は目を丸くする。
自分ではまったく気づいていないのだろう。いつもと違う言動に。
「なんだか、そわそわしてます」
「そっかな~。いつも通りのつもりなんだけど」
首をひねって、頭をかく。
親しい者でなければ気づけないだろう、かすかな違和感。
モモはそれを正確に捉えていた。
「……レンアイカンジョウって、よく分かんないよね」
ポツリと、いきなり栄二はこぼす。
困ったような、捨てられた子犬のような瞳をして。
それからテーブルに突っ伏した。
「恋愛感情ですか?」
今度はモモがきょとんとする番だった。
まさか栄二の口からそんな言葉が飛び出してくるとは思ってもみなかった。
持っていたハタキを危うく取り落とすところだった。
「兄ちゃんはきっとユフちゃんが好きなんだ。
でもオレだって、彼女のこと好きだし」
栄二はテーブルの上で頭を抱えるようにして腕を組む。
腕と髪の隙間から覗く瞳には、ありありと困惑が浮かんでいて。
はあ、と彼らしくもない思いため息。
どうすればいいのだろう。モモは悩んだ。
「モモちゃんもユフちゃんもサラちゃんもコトちゃんもウタちゃんもマコさんもテトさんも、みんな好き」
思いついた端から名前が挙げられていく。
女性型とも簡単に打ち解けられる栄二は、誰とでも仲が良かった。
「それは友だちとしてですね」
慎重に、モモは確認する。
「うん、そうみたい。トクベツって、まだないのかな?」
モモは何だか分かった気がした。
栄二は今、“特別”を、探している途中なのだ。
みんな、ではなく、誰か、でもなく。ただ一人を。
大切だと、特別だと胸を張って言えるように。
「いつか、できると思いますよ」
複雑な心情を押し隠して、モモはそれだけ言った。
できれば、特別になるのは自分だといい。
他の人を特別に選んでほしくない。
言葉にすることはできない。勝手な、わがままだから。
「そうだといいな」
栄二が少しだけ笑う。
無理はしていないようだったけれど、どこか元気がない。
モモは今さらながら心配になる。
天真爛漫。悩みなんて気力で吹き飛ばしてしまう彼が、ここまでふさぎ込むなんて。
きっと栄二にとって重要な問題なのだろう。
「……でも、さ」
栄二が、顔を上げた。
テーブルに手をついて、隣に立っているモモを見上げる。
澄んだ黒曜石の瞳に、射抜かれる。
「モモちゃんだけ、なんか違う気がするんだ。
こう、言葉にできないんだけど、キラキラしてるってゆーか」
ジェスチャーで伝えたいのか、両手をひらひらと動かす。
よくは分からないけれど、自分は彼の“特別”に少しだけ近いらしい。
「まだちゃんとは分かってないんだけどね」
はは、と栄二は苦笑をもらす。
「オレにとってのトクベツが、モモちゃんだったらいいな」
栄二の笑顔の方が、何倍もキラキラしている。
モモは思わず見惚れた。
「そうだったら、私も嬉しいです。
栄二さんは私の特別ですから」
聞きようによっては告白にも取れる台詞を、モモは簡単に口にする。
栄二がそこまで深読みしないと知っているから。
嘘は言っていない。はっきりとも言ってはいないけれど。
「ホント!? うっわ~、なんかチョー嬉しい!!
みんなに自慢してくる!」
ガタッと椅子から立ち上がって、みんなを探しに行くのかリビングを出て行く。
残されたモモは、ふふっと喜びの笑みを浮かべた。
「早く、ここまで来てくださいね」
いつまでだって、待っているから。
ハタキを抱きしめて、モモは栄二の言葉を反芻した。
案外、彼が“特別”を見つけるのは、そう遠くない未来なのかもしれない。
いつの間にか大きくなっていた想いに途惑い、それでも。
きっと、自分だけの“特別な存在”を、大事にしようと誓うのだろう。
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