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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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みくちゃんのかなしい

 ちびみくと青年KAITO二話目。続いてないようで続いてるような。
 ミクの外見・精神年齢は7歳くらい。









 夜、リビングで明日歌う楽譜の確認をしていた青年の耳に、物音が届く。
 それはすでに寝ているはずのミクの部屋からだ。
 何かあったのかと不安になって、忍び足でドアの前まで行く。
 KAITOが触れる前に、扉は内側から開いた。

「おにぃちゃん……」
 聞いたことのない沈んだ声。
 一瞬、それがミクのものだと分からなかったほどだ。
 けれど音の波長は間違いなく彼女のもので。
 うつむいてはいても、もれ出る嗚咽から泣いているのだと気づく。
 何かあったのだとすぐに見当をつけた。
「どうしたの? ミク」
 膝を折って目線を合わせる。
 今は垂らされた髪を優しく梳きながら、問いかけた。
「ここがね、痛いの。
 痛くて涙が止まらないの」
 左胸。人間なら心臓がある辺りを手で押さえて、告げる。
 痛いと。どうして痛いのか分からないと。
 迷子のように、不安げな涙声。
 感情に呑まれているのだと、KAITOは理解する。

「ミク、それは痛いからじゃないよ」
 穏やかな声で、諭すように語りかける。
「じゃあどぉして?」
 本当に分からないのだろう。不思議そうに首をかしげる。
 そっと涙をぬぐって微笑みかければ、少しだけミクは表情を和らげた。
「悲しいから、だよ。
 ミクなら分かるよね」
 今、抱えきれていない感情の名前を教えてやる。
 VOCALOIDは歌から人の想いを学ぶ。
 確か、今日ミクが歌わせてもらったのは、別れの歌だった。
 元気に歌われて大変だったのだと、マスターの愚痴を思い出す。
 たぶん、一人になってから考えていたのだろう。
 歌の意味を。込められた感情を。

「カナシイ? カナシイって、あの悲しい?」
「そう、今なら理解できるだろう?」
 言葉として知っているのと、実際に感じているのとではまったく違う。
 まだ検索も照合もうまくできないこの少女でも、もうそろそろ解るはずだ。
 ゆっくりと。ゆっくりとでいいから、消化していってほしい。
 分からないことを少しずつ、減らしていってほしい。
「……うん、できるよ。みくは、悲しいから泣いてるの」
 たどたどしかった発音が、幾分かしっかりする。
 きっと、つらくても自分のものとして認められたのだろう。

「悲しいって、とっても痛いね。
 とってもとっても、つらいのね」
 治まっていた涙が再び頬を伝って流れ落ちてゆく。
 歌を思い出したのか、後から後からあふれ、止め方が分からないようだった。
 KAITOは指でぬぐってやりながら、続ける言葉を考える。
「そうだね、つらくて苦しい。
 だけど悲しいのも、必要な感情なんだよ」
「ひつよう?」
 どうして必要なの? と翡翠の瞳が問いかける。
 少しでも間違えてはいけない。
 彼が与えられるのは、ただのきっかけだ。
 そしてそれはミクが考えやすいような、次につながるきっかけでなければならない。

「悲しいことがあるから、より嬉しいと感じることができるんだ。
 幸せの大切さが分かるんだよ」

 優しい笑みを浮かべ、一句一句を大切にしながら紡ぐ。
 飲み込みやすいように、理解を促すように。
「むずかしいのね」
 眉を下げて、困ったような顔をする。
 頭が追いついていないのだろう。
 どう説明すればいいのか、と顎に手を当てしばし悩む。

「唐辛子の辛さを知ってるから、アイスの甘さが好きだと思えるってこと」
 冗談交じりに、けれど嘘ではない例を挙げる。
 親しみやすい例えの方が、分かりやすいだろうから。
「ねぎのおいしさも?」
 話が逸れているような気もするけれど、たぶん間違ってはいない。
 ミクの好物によって理解できるなら、それでもいいと思った。
 そんな簡単な感情ではないと、いつかまた、学ぶ機会があるのだろう。
 一歩ずつ、確実に。少女は大人になっていくのだろう。
「うん、それとおんなじ」
 頷いてやれば、ぱあっと明るくなる表情。
 分かりやすい反応に、思わず苦笑を浮かべそうになる。
「じゃあ、悲しいはひつよう!」
 腰を手にやり、断言する。
 また一つ賢くなった。とでも言いたげだ。
 褒めてほしそうに青年を覗き込む大きな瞳を、静かに見つめ返す。

  悲しみを知ったミクが、これから苦しむことがある。
  確信に近い予感を抱きつつも、成長を素直に喜ばしく思うのも事実だった。
  今度、彼女が泣きたくなる時に、今のように傍にいれたらいい。
  涙をぬぐって、優しく包み込む存在があれば、悲しみも少なくてすむかもしれないから。

「ミクはお利口さんだね」
 頭をなでて褒めてやれば、嬉しそうな笑みをこぼす。
 涙の痕が目立たないことに、KAITOは気づかれないように息をはいた。



 少女が初めて泣いた夜。“悲しい”を理解した夜。
 それは彼の悩みを一つ減らし、一つ増やした夜でもあった。

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