VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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Oxygen is song
ソラサラ。やっぱり姉弟もの大好きです。
音源とかって設定じゃないとできない話が続いたなぁ。
「ね、ね。酸素って知ってる?」
サラはソラの部屋に入ってきて開口一番に、そんなことを訊いてきた。
椅子に座っていた少年は、唐突な質問にも驚くことなく、
「現実世界に存在する元素のことでしょう。
空気中の約20%を占めているという」
そうスラスラと答えた。
登録されている一般常識には詳しく載っていないが、それくらいは知っていた。
検索をかければもっと細かいことも分かるだろう。
「なーんだ、やっぱソラは知ってるかぁ」
「これくらいは普通ですよ」
すましてそう言ったけれど、実は一時期、個人的に調べたことがあったからだった。
現実世界について、皆少なからず興味があるだろうとソラは推測している。
マスターがいて、音源主のいる、自分たちが作られた世界。
気にならないはずがない。
「せっかくお姉ちゃんが懇切丁寧に説明してあげようと思ったのに~」
心から残念そうな顔をして、クッションの上に座る。
近くに転がっていたくまのぬいぐるみを手に取り、ぎゅーっとつぶす勢いで抱え込む。
「変なところで姉さんぶらないでください」
子どもみたいに物に当たる姉の姿に、少年はため息をつく。
作られたのは自分より後でも、付属設定としては“姉”のはずだ。……これでも。
「ま、いっか」
気まぐれなところまで、本当に子どものようだった。
「人間はさ、酸素がないと生きてけないんだって」
ポツリ、と何でもないことのように言った。
実感がないからだろう。
人間の生態をどれだけ調べても、所詮はプログラムで動いているだけの自分たちには理解できない。
それでも調べてしまうのは、なぜなのか。
「酸素を吸って、二酸化炭素をはく、ですか?
身体を構成する70%程度が水素と酸素でできている水だということもありますね」
「水が、水素と酸素?」
ソラが補足すると、不思議そうにサラは首をかしげる。
その様子からすると、この世界のすべてが原子からできているということまでは調べていないかもしれない。
「そこまでは知らなかったんですね」
説明すると長いから、ソラは苦笑を浮かべてその場を濁した。
「うん。でも、それならなおさらだね!」
サラはなぜか笑顔だった。
酸素がないと生きていけない理由が増えたことに、どうして嬉しそうなのかが分からない。
「当たり前のことですよ。
人は酸素を吸って、水を飲んで、食物から栄養をもらわなくては生きてはいけない。
人間以外の動物だってそうでしょう」
「そうだね~、当たり前のことなんだよね」
うんうんとサラは何度も頷く。
「何が言いたいんですか?」
素直にソラは訊いた。
サラは少年に向けてニッコリ笑ってから、口を開く。
「ちょっとね、思ったんだ。
私たちも一緒かなって」
その言葉を聞いて、思わずサラを凝視してしまう。
無邪気な微笑みは。自分と同じ色の瞳は。
何を考えているのか、分からない。
「僕たちはただの、音声データに付加されたプログラムですよ?」
事実は事実のまま変わらない。
一部のユーザーが望んで、それに応えたプログラマーがいたから、自分たちはこうやって生活しているけれど。
すべてがすべて、作りもの。仮初めの存在だ。
「ソラは頭が堅いなぁ」
楽しそうに、まるでそう返ってくるのが分かっていたかのように、サラは笑う。
「……姉さん」
からかわれていると気づき、ソラは顔をしかめる。
今は真面目に答えてほしかった。
「私たちにもさ、あるでしょ?
それがなくちゃ生きてけないもの」
サラはそんなソラの思考すらも読んでいたかのように、包み込むような優しい瞳を向けてくる。
何を指しているのか分からずに、ソラは口元に手をやって考え込む。
なくては生きていけないもの。
そんなことを言われても、自分たちは始めから生きてはいないというのに。
必要とされて作られて、必要とされるままにダウンロードされて。
逆にそこまで固執するものを持っていたら、耐えられないのではないか。
理想と現実との間で。
どんなに感情があっても、どんなに人に近くなっても、所詮はまがい物だ。
プログラムがどう作られているかは知らないが、計算して、分別して、判断する。
実際のところ、ただそれだけのこと。
好きなものがあったとして、執着するものができたとして。
複雑かつ膨大な計算式ののちの結論でしかないのだから。
パンッと、目の前で音がした。
意識を戻せば、そこではサラが手を合わせていた。
ソラが瞳を瞬かせていると、彼女はやわらかく笑った。
……暗い思考を、振り払ってくれたのだろう。
そういったことには、サラは鋭いから。
いつも、いつも。
ソラが穴に落ちないように、引きずり込まれないように、教えてくれる。
今みたいに、ほんの些細な行動で。
「頭が堅~いソラには分かんないみたいだから、お姉ちゃんが教えてあげましょう♪」
先ほどのように、姉さんぶるなとは言えなかった。
やはり、サラは姉だった。
子どもらしいことの方が多いけれど。自分たちに年齢の観念がどれだけ適応されるのか分からないけれど。
ソラなんかよりも、よっぽど大人だった。
「う・た」
楽しげに二音が跳ねる。
単語として捉えるまでに一拍、理解するまでに数拍。
その後には、妙に納得している自分がいた。
「みーんな歌が大好きだもん。
人が呼吸をするみたいに、歌を歌う。
歌がなかったら生きてけないよ、きっと」
真面目な話のはずなのに、声のトーンが裏切っていた。
太陽よりも明るい笑顔で、夕焼けよりも優しい瞳で。
サラは朗らかに語った。
「姉さんらしい考えですね」
ソラは微笑んで、素直な感想を告げた。
ひねくれたところが一切なく、どこまでもまっすぐな少女らしい。
サラの単純明快さが、ソラの支えになり、救いになる。
自分に必要な存在なのだと、悟らされる。
まるで人間にとっての酸素のように、あって当たり前で、けれどとても重要な。
「それは褒めてるって取るからね」
「どうぞご自由に」
元々褒めたつもりだったけれど、それを認めるのも少し気恥ずかしい。
だからソラはそうとだけ返した。
「ってことで、これから一緒に歌わない?」
くまのぬいぐるみの腕を手で持って振り、サラは話を変える。
「誘い文句だったんですか?」
だとしたらずいぶん長い前振りだ。
意図なんてなく、よく考えずに話していたのだろうとは思うが。
サラはそこまで思慮深くはなかったから。
「そうじゃないけど、話してたら歌いたくなった!」
にっこりと、心から歌が好きだと分かる笑顔でサラは言った。
酸素=歌だという説を証明するような表情。
「本当に、姉さんらしい」
ソラは思わず苦笑して、何を歌いましょうか? と訊いた。
自分たちが日常的に歌うことに、本当は意味なんかない。
練習と称して歌うのは、ただの趣味で。
必要ないと分かっていて、それでもなお歌い続ける。
だから皆、なくては生きてはいけないほど、歌が大切なのだろう。
そして自分も、結局は彼女のように笑うのだろう。
大切な歌を、大切な存在と共に歌うのだろう。
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