VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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Idealistic theory
さーて、ずっと頭にあって書きたかったものがやっと書けました。
図式的には、マスター←マコ←シン。
友情出演でルナさんも出てきます。オリジナルマスター注意。
『よし、これで決まりだな』
歌い終わってすぐにマスターの声がした。
余韻に浸っていたマコは我に返る。
『お疲れ、マコ』
モニター越しに笑いかけられる。
ここはマスターの顔を見て話すことのできる通信回路。
UTAUが起動され、音源を設定されると、ここに来るようになっていた。
「いいえ。マスターこそお疲れさま」
『楽しんでやってるんだから俺はいいんだよ』
マコが同じように返すと、マスターは苦笑する。
「でも、実際にがんばってるのはマスターだもの」
UTAUはVOCALOIDと違い、感情プログラムによる歌唱表現の違いはない。というのが通説だ。
調節されたパラメーター通りに自分たちは歌う。
マスターの実力と努力がなければ、成り立たない。
『お前たちが歌ってくれると思うから、がんばれるんだぞ』
「だから『お疲れさま』くらいは言わせてほしいんじゃない」
マスターに対してだって、マコは一歩も引かない。
特に今の場合は、マスター自身のがんばりを否定してほしくなかったから。
数拍の沈黙ののち、先にマスターが噴き出す。
それにつられてマコも笑みをこぼした。
『……なんか、いっつも似たような会話するよな』
笑いをこらえて、マスターは言う。
微妙に違うところもあるけれど、両手の指に収まらないくらいには同じようなやり取りを繰り返していた。
「マスターが私たちだけをねぎらうからでしょ」
呆れたような笑みを浮かべて、マコは理由を述べる。
付加プログラムを適応されただけの、作られた人格に『お疲れ』と言う。
まるで人と接するように。
そんなところが好きなのだけれど、自分の能力も認めてほしい。
だからマコはマスターのために、引かないのだ。
『マコも頑固だなぁ』
「マスターだって」
互いに言い合って、また笑う。
たぶん、マスターはマコの気持ちを分かっていて、毎回うやむやにしてしまうのだ。
素直に受け取るのは気恥ずかしいから。
褒められ慣れていない。とも言うかもしれない。
偉ぶったり謙虚になったり、マスターは変わっていた。
『自称一般人』という二つ名がUTAUシンガーたちの中で定着するのも、まったくもって一般人ではないからだろう。
『あ~、やっと形になってきたな~』
大きく伸びをして、それから肩をほぐすように腕を回す。
今日は二時間以上パソコンの前から動かなかった。
「動画を公開する日も近い?」
マスターはこれでも忙しい。仕事から帰ってきて、少しずつ作業を進めることが多かった。
それに加え凝り性なところもあるため、動画を投稿するまでに時間がかかる。
マスターは仕事の速いPを羨ましがりながらも、『これが俺のやり方なんだろ』と言っていた。
『まだ微調整はあるけどな。
来週くらいにはできると思うぞ』
微調整とはオケの方のことだろう。
動画は大抵一枚絵に歌詞を載せるだけのシンプルなものだから、慣れているマスターはそんなに時間がかからない。
「どう評価されるか楽しみね」
マコはふふっと笑んで、。
「評価されるの前提か?」
「良い曲だもの」
マコは当然とばかりに言いきる。
「オリジナルはアレンジほど得意じゃないんだけどな」
答えを予想していたのか、マスターは苦笑する。
アレンジは学生時代からやっていたから、コツをつかんでいるそうだ。
動画投稿サイトでも、オリジナルより評価が高い。
けれど。
「どっちもがんばってるでしょ?
評価されて当然よ」
はっきりと断言する。
マスターはどちらにも手を抜いたりはしない。
一生懸命作られた音が、マコは好きだった。
たとえ作詞が素人レベルでも、たとえ音圧が足りないと言われることがあっても。
オリジナルの方が出来が悪いなんて、これっぽっちも思わない。
どちらも努力の結晶だと言うことは変わらないのだから。
「……ありがとな」
マスターは少し照れを含んだ笑みを見せる。
その表情に、胸がざわついた。
『っと、妹から電話だ。
もう戻っていいぞ、お疲れさん』
マスターはそう言って、ヘッドセットを外し携帯を耳に当てる。
『もしもし、何の用だ――』
『――はあ!? 今すぐ来いだぁ?
何時だと思って――』
『はいはい、パソコンの調子がね~。
俺が見たって直るとは――』
小さく聞こえてくるマスターの声をしばらく聞いていたが、やがて無性にむなしくなってくる。
自分は“あちら側”には行けないから。
人格付加プログラムを適応されただけの、ただの音声データ。
距離が、溝が、途方もなく遠く深く。
ため息をついて、マコは身をひるがえし通信回路から出ていこうとする。
一度振り返っても、マスターはこちらを見ておらず、吐息に気づいた様子もない。
分かっていたことだけれど、再認識させられた事実が。
マコの心身にのしかかったかのように、足取りは重かった。
******
通信回路と居住区をつなぐ道なき道。
明るさも暗さもない、薄霧に包まれたような場所で、マコは立ち止まった。
「?」
誰か、こちらに近づいてきている。
通信回路に行くつもりなのか、マコに用があるのか。
自分に用があればまずは通信を使うだろうから、前者の方が確率が高い。
一応確かめようかと思い、波形を捉えようとする。
が、それよりも前に。
「シンちゃん?」
鮮やかな赤褐色の髪が目に飛び込んできた。
「お疲れぃ」
シンは軽く手を上げて、ねぎらいの言葉を投げかけてくる。
彼は聡いところがあるからと、沈んだ気持ちを悟られないようにマコは微笑して頷いた。
「がんばれば評価されて当然ね~。
マコっちがそんな非現実的なことを言うとは」
けれどシンはそんなこちらの思惑も関係なしに話し出す。
「……聞いてたの」
今のは先ほどマスターに言ったこと。
通信回路でのやり取りは、誰でも干渉できるようになっている。
けれど用がない限りは聞かないし会話に参加もしないのが暗黙の了解。マナーだ。
「そう怖い顔しなさんなって。
グーゼンだよ、グーゼン」
彼は簡単に嘘を言う。
偶然に通信がつながることはない。
マコのいるところまで歩いてきて、そこで足を止める。
シンの明るい笑顔は不思議なくらいにいつもと変わりない。
「まあ、いいけど」
どうせ、よくある気まぐれだ。
シンの悪戯好きはダウンロードされた時からで、今に始まったことではない。
いちいち気にしていたらこちらの身が持たないだろう。
「私って、そんなに現実主義者に見えるかしら?」
あきらめたように苦笑いして、マコは訊いてみる。
非現実的なことは言わないと思われていた。
自分自身の性格なんて、考えたこともなかったから。
それなりに付き合いの長いシンからはどう見られているのか、なんとなく気になった。
「ん~、少なくともルナちんや栄二よりは」
「……比べる相手を間違ってるわ」
あまり考えずに出された答えは、納得するには穴がありすぎた。
天真爛漫で楽しいこと好きなルナといつも元気で好奇心いっぱいな栄二。
どちらも本気で理想論を語るタイプだ。
「どっちかってーと、理想を力づくで現実に変えるタイプ?」
人差し指を立て、シンは言う。
「怒ればいいのか喜べばいいのか悩む答えね」
力づくで、というあたりが強調されていたように聞こえた。
自分はそれほど乱暴なのだろうか。
たしかに平気でクナイも手裏剣も出すけれど。
「褒めてんだよ。
マコっちは最強だってさ」
ハハッとシンは朗らかに笑う。
その気楽さに、怒る気もなくなってしまった。
「だからあからさまな理想論は語らないと思ったんだけど。
所変われば人変わる。人が違えば言うことだって変わるよなぁ」
からかうような軽い響きを持った言葉に、マコはピクリと反応する。
あたりの気が急に冷えたような感覚がした。
「……何が言いたいの?」
声のトーンを下げて問う。
マコは何度か思ったことがある。
彼には気づかれているのかもしれない、と。
純粋にマスターとして慕う、以上の感情を抱いていることを。
胸の内に秘めた、熱く強い想い。
誰にも知られないよう、ずっと隠していた。
ウタもテトもモモも、ルナでさえきっと気づいていない。
この大事な気持ちにだけは、容易に触れてほしくなかった。
だから、はっきりさせたくて尋ねたのに。
「いーんや、別に」
シンはニヤリと、何を考えているのか分からない笑みを見せただけだった。
「マコ~! 迎えにきたよ!」
この場にふさわしくない明るい声が沈黙を破った。
高くよく通る声だけで誰だか分かる。
「ルナ」
振り返ると、運動の苦手な彼女らしくなく、全力疾走でこちらに向かってきていた。
……それでもお世辞にも早いとは言えなかったが。
「やっほールナちん」
シンももういつもの調子に戻っていて、ルナに声をかける。
二人の元まで着いたルナはそのままマコに飛びついた。
「なかなか戻ってこないから心配したんだよ!
シンちゃん、マコを独り占めするなんてひどい!」
前半はマコに、後半はシンに向けての言葉。
むうっと子どものように頬をむくれさせている。
「私を食べ物か何かみたいに言わないでくれる?
しかもあんたも聞いてたの?」
なかなか帰ってこないから、とルナは言った。
つまり調声がすでに終わっていたことを知っていたのだ。
ここにも問題児がいたことをマコは失念していた。
「も、って……盗聴は犯罪だよ、シンちゃん」
シンの方を見て、ルナは自分のことを棚に上げて真顔で告げた。
まだマコに抱きついたままだ。離れる気はないのだろうか。
「常犯者のルナちんだけには言われたくねーなぁ」
「アタシは愛があるからいいの!」
「愛ならオレ様だってあるぞ~?」
「残念でした~、愛で許されるのはアタシ限定」
不毛な言い合いが続く。
盗み聞きはしない。という選択肢は二人とも初めからないようだ。
「もうどこからつっこめばいいのか分かんないわ……」
ふう、と呆れてため息をつく。
マコは今さら言っても仕方がないと知っていたので、違う言葉を探す。
「とりあえず二人とも、黙んなさい」
まずは放っておくと白熱する可能性のある言い争いを止めることから。
「へいへいっと」
「うぅ……」
シンは仕方なさそうに、ルナは不満そうにそれぞれ口をつぐむ。
それを見届けてから、マコは貼りついていたルナの肩を押し、引き剥がす。
「ルナは私を迎えにきたんでしょ? 早く戻らなくていいの?」
まっすぐ目を見て、問いかけた。
当初の目的を忘れてはいけないと。
「ダメ、かも」
ルナは子どものように素直に首を横に振る。
「じゃあさっさと行くわよ」
「うん!」
ルナはマコの手を引いて駆け出そうとした。
何もないところで転ぶルナだから、マコは自然とブレーキ役になる。
ふと横を確かめるとシンがいない。
振り返って見てみれば、彼はその場から一歩も動いていなかった。
「シンちゃん? 何してるの」
いぶかしげにマコは呼ぶ。
通信回路に用がないのなら、一緒に居住区まで戻るものだと思っていた。
それともマスターに用事があるのだろうか?
「や~、マコっちらしいなぁと思ってさ~」
シンはにこやかにわけの分からないことを言った。
「主語の欠如は誤解の元よ?」
なぜだか普通に訊くことができずに、文法の乱れを指摘する。
ルナを簡単に言い含められたところか、走らせないように気を配っているところか。
それだけではないような気が、した。
「分かんなくていいさ。
オレはマコのそーゆーとこ、好きだぜ」
いつもの軽い調子ではなく、どこか寂しげにさえ感じさせられる声音。
顔は、笑っている。けれど目が、まっすぐ、マコを捉えていて。
緑青色の瞳が深みを増す。
呑み込まれてしまうのではないかと思うほど。
この男は、誰だろう?
冗談ばかりを口にして、道化のように振る舞って。
それが普段のシンだ。
では、目の前にいる彼は?
急にシンが知らない人になってしまったようで、マコは内心激しく動揺した。
「……そう」
結局、短い返事をすることしかできない自分が、情けなかった。
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