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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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Same sound source

 ずーと書きたかった話が書けたときって、ひゃっほう!!ってなりますよね。
 このネタもそんな感じです。すっきり~。
 サユとサイ。サイとは揺歌サユのジェンダー換えキャラのことです。
 ちょっぴりシリアス風味……かな? たぶん。
 キャラ捏造度が高いので、注意です。






 “彼”が構成され、初めて姿を見た時、鏡を見ているのかと思った。
 どんな言葉を交わしたのかは、メモリーには残っているのに、覚えがない。
 ただ、その時から無意識に距離を取っていたとは思う。
 “彼”は、危険だ。
 自分の中で信号が明滅していた。



Same sound source




 それから数日、サユは清流の地にでも歌いに行こうとしていた。
「おい」
 こうして話しかけられるのが、嫌だったから。
 聞こえないふりをして、歩みは止めない。
 けれど彼はその後をついてきて、サユの肩をつかんだ。
「……何?」
 思わぬ強い力に、サユは眉を寄せて振り向く。
「オマエ、なんでオレのこと無視すんだよ」
 少年は仏頂面で訊いてきた。
「してないよ」
 これほど嘘くさい言葉もないだろう。
 サユの数日間の行動パターンを見れば、一発だ。
「してる」
「してない」
「してるだろ」
「……してないったら」
 だんだん言い合いが面倒になってくる。
 けれど簡単に認めることなんて、できるはずがない。

「強情っぱり」
「っな!?」
 呟かれた言葉に反応して、サユは怒りの声を上げる。
「そうだよ、オレのことが気にいらねぇなら、そうやって怒れよ。
 嫌いなら嫌いって、はっきり言え。
 無視される方が余計ムカつく」
 彼はサユの肩をつかんでいる手に力を入れ、はっきりと言い放つ。
 清々しい態度は好印象なのに、それを素直には受け入れられない自分がいた。
 始めから、無理だったのだ。
 彼と交流を持つ気なんて、まったく起きない。
「嫌いじゃ……ないよ。たぶん」
 語尾は弱く、自信なさげな答え。
 けれどこれが今の彼女の精一杯だ。
「じゃあ何だよ」
 不機嫌を隠しもしない口調。
 自分も素はこんな風なのだろうか?

「だってキミ、似てるんだもの」
 ポツリと、無意識にこぼしていた。
「は?」
 彼は意味が分からないとばかりにさらに顔をしかめる。
 その間に肩をつかんでいた手がゆるんだので、遠慮なく払った。
「私に、そっくりでしょ。
 髪の色も目の色も」
 くすんだ水色の髪も、青みがかった瞳も。
 サユから写し取ったかのように、同じ色だ。
「まあ、そうだな」
 少年は話の筋が見えていないようだったが、頷いた。
「だから……何だか、私を見てるみたいで」
 サユはうつむく。
 これ以上は話したくなかった。
 自分の内側を、相手に見せることになる。
 それだけの勇気はない。
「オマエとオレは別だぞ。
 もちろん人格の話で、音源は一緒だけど」
「分かってる」
 サユの音源の、ジェンダー換えキャラとして少年は存在している。
 人格付加プログラムは、音源ごとにバージョンが違う。
 彼は比較的新しく作られ、マスターがダウンロードしたのも数日前。
 プログラムは別々に起動しているのだから、同じであるはずはなかった。

「嘘つけ。分かってないから避けてんだろ」
 ズバリと彼は言い当てた。
 その不思議なまでに迷いのない言葉に、サユは不安になる。
「……キミには私の思ってること、だだもれなの?」
 声を低くして訊いてみる。
 彼の言う通り、頭では理解していても、納得はできていなかった。
「んなわけあるか。
 オマエが分かりやすいんだよ」
 バカバカしそうに彼は答える。
「でも、皆よりは伝わりやすいよね」
 付加プログラムは音源ごとに違いがある。
 つまりジェンダー換えキャラとはあまり違いがないということだ。
 その分、感情データの波形が伝わりやすい。
 今、彼の不機嫌さが、直に感じられるように。
「そんなん誤差みたいなもんだろ。
 オレだって同じ環境下なわけだし」
 彼が何を言っても、サユのくもった表情は変わらない。
 相手のことなんてどうでもいい。自分が、それでは困る。

「ああ、つまり猫かぶってたいのか」
 何か気づいたように頷いてから、彼は言った。
 言葉が刃物のように鋭くサユの胸を刺す。
「…………」
 何も、言い返せない。
 図星だったから。
 ただ押し黙ることでしか、意思を表せなかった。
 それが“是”を意味していることも、分かっていたけれど。
「アイツらの前でいい子ちゃんぶって、ある程度の距離を保って一人の世界を作ってたいんだろ」
 少年は言葉を換えてサユを責め立てる。
 うつむいて、唇をかんで、手を強く握り込んで。
 じっと、少女は耐えた。
「確かにその方が楽だよなぁ。
 適当に仲良くして、傷つくこともない。
 オマエだけがオマエの味方で敵なわけだ」
 馬鹿にしたような口調。偉そうな声。
 キミに何が分かる!? と怒鳴りたいのを必死で我慢した。
 彼の言っていることは正しかったから。
「だからオレのことが邪魔なんだろ?
 オマエの中に簡単に入り込める存在だからな」
 彼が身を折って少女を覗き込もうとする。
 自分の素顔を見られたくなくて、サユは体ごと後ろを向いた。
 これ以上はいけない。彼女の中で危険信号が明滅する。
 知られたくないことばかりが、浮き彫りになって。
 彼はサユを丸裸にしていく。
「だって、私は……」
 泣きそうな声で呟く。

「自分が嫌い、ってか」

 続かなかったはずの言葉に、サユは目を丸くした。
 思わず少年を凝視してしまう。
「……何で」
 やっと出てきた声は震えていた。
 驚きと緊張と不快感とがない交ぜになっていて、もう自分でも何が何だか分からなくなってきていた。
「自分に似たオレを避ける理由なんて、そんなたくさんはねぇだろ」
 だから分かりやすいって言ったんだ。
 声が近くて、遠い。
 聞いてはいけないのに、耳は音データを拾う。

「皆の中にいても独りな自分が嫌い。
 それでも猫をかぶらないと皆と接せられない自分が嫌い。
 だからそんな自分に似たオレが嫌い」
 淡々と語られる言葉は、サユを毒のようにむしばむ。
「やめて!」
 思わずサユは叫んでいた。
 身ぐるみをはがされて残るのは、醜い己だ。
 向き合いたくなんてなかった。向き合えるほど強くはなかった。
「本当のことだろ。逃げんなよ」
 後ろからサユの腕をつかむ手があった。
 どうやら無意識の内に、足がその場から立ち去ろうとしていたらしい。
 サユは我に返って、低下している情報処理速度を元に戻そうと、深く呼吸をする。
「私のことは……私が一番、分かってるから」
 変わらず震えた声。それでも言いたいことは最低限伝えられた。
 自分が一番、自分の欠点を理解していると。
 少年にあれこれ言われる筋合いはないのだと。

「オマエがどうこうじゃなくて、こっちが被害をこうむってるんだ。
 何で人格を得た途端、同音源に嫌われなきゃなんねぇんだよ」
「キミも私のことなんて無視すればいいじゃない」
 同じ音源だから、部屋も同室だけれど。
 この数日サユがしてきたように、いない者としてふるまえばいい。
 意識的にそうしていれば、いつか自分の世界からも消えてくれると信じて。
「できねぇからこうして話してんだろ」
 彼の論理はむちゃくちゃだ。
「何よ。結局そっちの都合じゃない」
 サユは感じたまま不満をこぼす。
 だったらこちらの都合だって考慮してくれてもよかったのに、と。
「オレはわがままだからな」
 堂々と彼は言った。
 冗談じゃない。サユは彼の気を治めるための玩具ではないのだ。
 怒りで、逆に千々に乱れていた思考が安定してくる。
「私は、キミのこと好きになんてなれないよ」
 振り返って、はっきりと告げる。
 嘘偽りのない、本音だ。
 ここまで言えばさすがにあきらめるだろう。と思った。
 返ってきたのは、予想外の言葉と表情だった。

「けど、オレはオマエのことが嫌いじゃないんだ。
 オマエが嫌でも、かまい続けるからな」

 ニィっと、少年は笑う。綺麗な笑みだった。
 サユは瞳を瞬かせる。
「オマエの弱音だって愚痴だって、何だって聞いてやる。
 オレくらいには、本当のオマエを見せてみろよ」
 優しい声がサユを包み込む。
 彼はサイだ。サユの片割れで、もう一人のサユ。
 少女は初めてちゃんとサイを見た気がした。
 同じ色の髪と瞳で。髪は中途半端に長くて。背は自分とあまり変わらないくらいに低くて。
 個体として、今さらながらに認識した。
「なんでキミは……」
 ポロリと、何かが頬を伝った。
 触れると冷たいそれは、涙だった。
 そう知覚した途端、関を切ったように涙があふれ出した。
「な、泣くなよ!」
 さすがに驚いたのか、サイがおろおろと言う。
 涙でにじんで彼の顔が見えない。
 もっと、ずっと見ていなかった分を、補いたいのに。

「私、キミに何もしてないのに……なんでそんな、優しく……」
 嗚咽が邪魔をして、うまく話せない。
 棘のある言葉を投げかけるのは、避けてきたのだから分かる。
 けれど優しくしてもらえるようなこと、サユは何一つしていないのに。
「理由なんて些細なことだよ。
 オマエの本当の笑顔が見てみたいって、思ったんだ」
 サイはそう言って、少女の頭を不器用になでる。
 いつ、見ていたのだろう。
 サユの張りつけたような笑顔を。
 この数日で、彼はどこまで気づいたのだろう。
「……すぐには、無理かもしれないけど」
 いつまでも泣いてなんていられない。
 誠意を向けられたなら、誠意で答えなければ。
 サユは涙を拭った。

「私、がんばってみる」
 今の精一杯の笑顔で、言った。
 引きつっていたかもしれない。ゆがんでいたかもしれない。
 それでも、心からの笑みだった。

「おう。応援してるぜ!」
 彼も明るく笑い返してくれた。
 サイの笑顔の方が何倍も綺麗だな。とサユは思った。





 全力で謝ります。すごく捏造しすぎでごめんなさい m(_ _)m
 自分の中でのサユさん像が、なんかこう、ちょっとゆがんでる感じで、そこがすごく素敵だなぁなんて思っちゃったんです。
 あくまで樹神的な二人の話ですから! 好き勝手に妄想した結果ですから!
 たぶんこれから悪ふざけとかできるように二人の関係も変わってくんだと。
 そうそうこの話、二人しか出てないのに今までのUTAUキャラ創作で最長です。長い話書けるようになってきたのかな? なら嬉しいです。
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