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The world of mirror
リンレン鏡設定二作目。やっぱり切な系。KAITO兄さん友情出演。
【鏡音リン・レン】 鏡の世界 【オリジナル】を聞いてから(&聞きながら)だとより理解が深まる? かも。
「レン」
リンは努めて明るく声をかける。
「また来ちゃった。えへへ」
そうして右手を出せば、自然と合わせられる左手。
ぬくもりを感じられたのは、結局あの一瞬だけだった。
体温は、まるで最初から何もなかったみたいに、幻のように消えていってしまった。
それでもこの習慣は変えられない。
『リンに会えて嬉しい』
はにかんだようなレンの笑み。
心から言ってくれているのだと分かる表情だ。
「あたしも、レンに会えて嬉しいよ」
リンも笑顔を返す。
数日置きに会っているけれど、そのたび半身を取り戻したような喜びを感じる。
共鳴しているように、リンにはレンが必要だった。
『でも、大丈夫なの?
皆におかしく思われたりだとか……』
心配そうにレンは口ごもる。
リンは少年のことを軽くだが姉や兄に話してあった。
聞くとレンもそのようで。
本当に、何から何まで一緒なのだと、不思議に思ったものだ。
なぜか彼女がここに来るときはレンも必ずいて。
呼び寄せられるように、いざなわれるように。二人は何度も逢瀬をくり返す。
「それ言っちゃったらレンこそ」
『僕はいいんだ』
同じ立場なのに、とリンが口をとがらせると、少年は開き直っていた。
抜け出してきているのは二人とも変わらない。
「良くないよ。あたしにはレンの方が大事」
きっぱりとリンは言う。自分のことよりも誰よりも優先される。
『僕はリンの方が大事だ』
二人して一歩も譲らない。
どちらともなく、笑みをこぼした。
「じゃあ、一緒だね。
お互いを大切にしないと」
『そうだね』
リンが言えば、少年も素直に頷いた。
「ねえ、歌おうよ」
心地良い空気を楽しむように瞳を細め、リンは囁くように提案する。
『分かった。どれを?』
すぐに同意して、尋ねてくる。
レンも一緒に歌いたい気分だったのかもしれない。
そう思うと嬉しくて、でもこれから歌う曲にはあまり似つかわしくなくて。
複雑で、リンは苦笑する。
「新曲。一人ぼっちの男の子の」
リンは知っている曲は、すべてレンも知っている。
違う世界で、同じマスターの下で、同じ曲を歌わせてもらう。
パラレルワールドのようだ。
並行する二つの世界。同じものばかりの中で、リンとレンだけが異なる。
『了解』
レンが短く答えたのが、合図となった。
わざわざ合わせる必要はない。二人の歌声は自然と重なる。
――僕はここに 君はどこに?
見えない 聞こえない 君がいない
僕は探す 君の居場所
見たくて 聞きたくて 君に会いたくて
君のいない 世界は暗い
君のいない 世界は狭い――
歌いながら、リンは歌詞に深く深く同調する。
どんなに探しても、この世界にレンの居場所はない。
それでもレンが見たい。レンの声を聞きたい。レンに会いたい。
《鏡》が間にある以上、手をつなぐことも抱きしめることもできない。
届きそうで届かない、この距離がもどかしかった。
近くにいるのに。誰よりも傍にいて、誰よりも大切なのに。
あふれる思いをそのままに、歌は終わってしまう。
レンもどこか苦しそうな顔をしている。
こうなると分かっていても、リンはこの曲を二人で歌いたかった。
まるで自分たちのことを言っているようだったから。
と、パチパチと音がして、リンは振り返る。
「カイ兄!」
そこにはKAITOが笑顔で手を叩いていた。
「上手だったよ、リン」
「ありがと」
賞賛を素直に受け取る。
褒められて悪い気はしない。
『リン?』
少年のいぶかしげな声がして、リンはまた《鏡》に向き直る。
もしか、して。
「でも、こんな何もないところにいるなんてね。
一緒に皆のところまで戻ろうか」
何も知らないKAITOは、空気も読まずにそう言う。
いや、読むべき空気が存在しないのだろうか。
予想が現実となって、リンの目の前に突きつけられる。
「カイ兄には……見えない?」
兄の方を見ることなく、リンは問う。
答えは聞かなくても分かっている。
「どうしたんだい?」
『どうしたの?』
ボーイソプラノとテノール。二人の声が重なる。
けれどそれを聞くことができるのは少女だけ。
KAITOは《鏡》の向こう側が見えず、レンはリン以外が見えない。
違う世界にいると、決して交わることはないのだと、その証明のように。
ああ、泣きたい。
泣いて泣いて、気が済むまで泣き叫んで、二人を困らせてやりたい。
けれどリンはそうしなかった。
「何もなくなんて、ない。
あたしは、ここにいたいの」
駄々をこねるように、かたくなにリンは動こうとしない。
うつむいて、それだけを口にする。
ぬくもりは感じられないけれど、絶対に離したくない、手。
ここだけはつながっていると、思っていたかった。
「リン……。もしかして」
KAITOは何かに気づいたようだ。
レンの話はしてあるから、見えない存在があると分かったのかもしれない。
『リン、もしかして誰かいるの?』
少年の方もリンの態度から、何か感じ取ったようだ。
少女はただ頷くことしかできない。
「――邪魔、しちゃったかな? ごめんね」
理解したらしいKAITOが謝る。
見えないけれど、きっと情けない顔をしている。
今度は首を横に振った。
「レンも、カイ兄も、見えないんじゃしょうがないもん」
ぽつりと、リンは二人に向けて言った。
その声が納得していないように聞こえて、自分もわがままだな、と思う。
どうしようもないことだって、あるだろう。
レンがこちらの世界にいないことは、変えられない事実で。
それを今になって思い知らされただけだ。
「僕は、先に行ってるよ。
またね、リン」
「うん」
KAITOはそう言い残して、その場を去っていく。
後姿を一瞥してから、憂いを浮かべた少年の顔を見る。
『リン……』
《鏡》の中の少年は悲しそうな瞳で少女を見つめていた。
何があったのか、大体は分かっているのだろう。
だから、リンを案じている。
不器用な思いやりに、リンは笑みをこぼす。
「ねえ、レン。歌お。
いっぱいいっぱい、歌おう」
きっと自分は今、泣きそうな顔をしているだろう。
それでも涙はこぼさない。
あきらめてなんてやらないから。
たとえ、叶わない願いだとしても。
リンとレンはずっと一緒だ。離しはしない。
いつか絶対に《鏡》の壁を越えてみせる。
『そうだね』
気遣うように、笑いかけてくれた。
リンは優しい少年を今すぐに抱きしめたい衝動に駆られた。
二つの世界は重ならない。交わらない。
それでも、歌声は綺麗に重なる。
暗くて狭い《鏡》の世界から、いつか抜け出せると信じて。
少女と少年は今日も、一緒に歌う。
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