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みくちゃんとごほん
幼児ミクと青年KAITOのアナザーストーリー。3.5話って感じ?
ミクはあんまり出てきません。MEIKO姉さんが出張ってます。
前作で複線って書いたけど、それはこの次の話でした。
珍しく、ミクが一人で歌のレッスンを受けている時のことだった。
「ミクがいないと静かねぇ」
MEIKOはそう、ミクの部屋の扉を見ながら呟いた。
誰に聞かせるためのものでもないようだったけれど、ここに自分がいる以上は、話をするべきだろう。
「まあ、そうだね」
当たり障りのない返答だが、実際その通りだとも思った。
賑やかなミクが一人いないだけで、ここは嘘のように静寂を保っている。
寂しいと感じるのも、彼女のいる生活に慣れてしまった証拠だ。
「これが当たり前だったなんて、信じられないわ」
MEIKOも同じ気持ちだったのだろう。持っていた楽譜を横に追いやった。
集中できない、ということだ。
かん高い子どもの声が聞こえないだけで、落ち着かない。
マスターの言うことをきちんと守っているだろうか?
癇癪を起こしてマスターを困らせたりはしていないだろうか?
しなくていい心配を、当然のようにしてしまう。
それが自然で、普通で。
ミクが来る前の過ごし方なんて、できなくなってしまっていた。
「確かに。姉さんも面倒見良いしね」
KAITOがそう笑うと、MEIKOはむすっとした顔を作る。
妹が可愛いのは言われるまでもないけれど、改めて指摘されると面白くないのだろう。
ましてそれが可愛くない弟にであれば。
「アンタには負けるわよ」
わざとらしいため息をつきながら、こぼされる。
「はは、言い返せないなぁ」
事実でしかないから、青年は笑ってごまかすしかなかった。
可愛い可愛い妹だ。
大事に、真綿で包むように慈しんでも、まだ足りない。
何からも傷つけられないように。
いつも変わらぬ笑顔でいられるように。
大切に大切にしていた。
過保護どころか、過干渉だと言われてしまっても否定はできない。
「あ、姉さんそこのご本取っ……」
MEIKOの近くの棚の上、目当ての楽譜の載った本を取ってもらおうと思って口を開く。
が、言葉を中途半端なところで飲み込んだ。
はっとして口元を手で覆って、姉の様子を伺う。
初めは驚いたように目を見開いていた彼女は、すぐに楽しそうな表情を作った。
「ご本、ね~。
すっかり子煩悩じゃないの」
ニヤニヤと、弟をからかういいネタを見つけたとばかりに笑みを深くする。
言い訳のできないKAITOは、仏頂面になる。
つい、ミクと話すときの癖が出てしまったのだ。
幼児語とも言われる、聞いてて可愛らしいと思えるような言葉。
普段は落ち着き払っている彼の口からこぼれ出たそれは、さぞ面白かっただろう。
いつもマスターとの仲を揶揄される側であるMEIKOにとっては、特に。
「その内『パパ、だ~い好き♪』とか言われたりして。
アンタも緩みきった顔で『父さんもミクのこと好きだよ』って、やりそうよね。
あ~、楽しみだわ」
MEIKOは本当に愉快そうに話を広げてゆく。
反論は、できなかった。
すればさらに話題を提供するだけだと、分かっていたから。
今まで気づかなかっただけで、実はかなりストレスを溜めていたのだろうか。
これからはからかうのも少し控えた方がいいのかもしれない。
げんなりとしながら、KAITOは密かに心に決めた。
「おにーちゃん、おねーちゃん、ただいま!!」
それから少しして、ミクの部屋の戸が勢いよく開いた。
笑顔で駆けてくる様子を見る限り、特に問題なくレッスンを終えられたようだ。
一番にそんな確認をしてしまうあたりが、子煩悩だとからかわれる所以なのだろう。
分かっていても、こればかりは仕方がなかった。
「おかえり、ミク」
飛びついてくる少女を抱き止めて、迎える。
ミクが嬉しそうにすり寄ってくるのを微笑ましく見ていると、不意に視線を感じた。
「……何?」
MEIKOに目を向けて問えば、彼女は大げさに首を振る。
「その内じゃなくて、とっくのとうに手遅れだったって思い出しただけよ」
とどめとばかりの姉の言葉に、KAITOはミクの前だというのに思いきり顔をしかめてしまった。
そこまで言われるほど酷いつもりは……ないと言うと嘘になる。
ミクに甘すぎる自覚は、足りていないかもしれないけれど、それなりにはあった。
改めて指摘されると面白くない。それを今、青年も理解した。
「何のお話ー?」
自分だけのけ者にされて、つまらないのだろう。
ミクはぶーっと頬をふくらませて、KAITOの裾を引く。
MEIKOは甘えるように見上げてくる少女の頭を優しくなでてあげてから、
「お兄ちゃんがね、どうしようもないくらいミクが好きってお話」
悪戯をする子どもの目をして、ミクに言った。
「みくもおにーちゃんだ~い好き♪」
何も分かっていない幼いミクの言葉に、緩む顔をどうしようもできないのも、やはり事実で。
姉の含みのある笑みは、とりあえず見ていないことにしておいた。
子どもなんて作れるわけがないVOCALOIDであるというのに。
子煩悩のKAITOの、悩みはつきそうになかった。
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