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Significance of existence
初・リンレン。オリジナル設定満載。
いつものように実体化して、マスターの書いた楽譜に目を通していた時。
ふいに背中に寄りかかってきた、体温。
ぬるい、と感じるのは、元は同じ存在だったから。
こうして別の固体となった今でも、何度でも知覚させられる。
合わされた背中は少年よりも柔らかい……のに。
二人が同一であった事実は、変わらない。
「ねえ、レン~」
いつもの声。明るい声。
多分、半身である自分でなければ気づかないくらいの違和感。
「んだよ」
少年はいぶかしがりながら、顔だけ振り返る。
体を動かしては体重をかけてきている少女がバランスを崩してしまうから、そっと。
自分と同じ色をした、自分のものよりも輝いていてサラサラとした髪が、頬をくすぐった。
いつもなら邪魔だと思うそれも今は気にならない。
「レンはさ、ずっと一緒だよね?」
ぽつりとリンは呟く。
声が、肩が、ほんの少し震えていた。
顔は見えないけれど、きっと笑っている。
泣きそうになるのを必死に我慢して、無理に笑っている。
そう思うと、胸がズキンときしんだ気がした。
「レンはリンだもん。
いなくなっちゃったりとか、しないんだよね?」
半身から伝わってくる感情の波で、彼を構成するプログラムが乱れていく。
データが入り混じる。処理が上手くできない。どちらのものなのか、区別がつかないから。
……それとも、自分も持っていた感情だったのか。
一度、感情プログラムをすべて遮断する。
表情を構成する部分も停止してしまうけれど、リンからは見えていないから構わない。
乱れたまま処理を続けていたら、フリーズしてしまう。
レンは私情の混じらない、己の根底のデータを呼び起こした。
この人格データが生まれた時から少年を支え、動かし、抑えてきたものだ。
【CV02V2-鏡音リンを第一に考え、行動すること】
初めて自己を判別できた時。初めて半身を識別できた時。
それからずっと、レンの思考パターンの基盤となっているもの。
一つ、息をついた。
大丈夫。忘れていない。忘れるわけがない。
“これ”がある限り、自分は間違えないですむのだ。
少女の望む答えを見つけることができるのだ。
瞳を伏せ、レンはすぐにリンへの干渉を始めた。
バージョンが近いほど、プログラムが似ているほど、意思の疎通――感情データの送受信は円滑になる。
つまり、元データが同一であり、ソフトも同じである二人の間に、電子の世界での壁などないようなものだ。
……ココロに壁を作っていなければ、の話だけれど。
どんな時でも、伝わってくる感情は直接というほどダイレクトなものではなくて。
一度オブラートにくるんで、飲み干してしまおうとしてできなかったような。
かすかな距離とほろ苦さを感じるから。
多分、絶対に、壁はある。
「しねぇ。つーか、できるかよ。
お前一人にしとくと何しでかすか分かんねぇだろ」
大体のことを察したレンは、数回瞬きをしてからそう言った。
今の彼女の寂しさと悲しみは半分くらい、本人のものではない。
影響された。同調した。言葉にするならその辺りか。
きっと、他の鏡音リンとレンが歌っていた曲かPVで、二人が離れ離れになってしまうようなものがあったのだ。
それにつられて、自分たちまで離れていってしまうのではないかと、不安になった。
いや、そんな未来があるかもしれない可能性に、気づいたのかもしれない。
「違うか? それともお前、問題起こさない保障でもあるって?」
腕を後ろに回して、リンの頭をリボンごとなでてやる。
体勢的にきついけれど、少女の心を少しでも晴らすことができるなら、そんなことはどうでもいい。
レンにとって一番重要なのはリンなのだ。
別れてしまうなんて嫌だと、一緒にいたいと願ってくれたリンの心なのだ。
「そう! そーだよ!
ちゃんとレンが見張ってないと、リンあ~んなことやこ~んなことしちゃうんだから♪」
さっきよりは感情を伴った明るい声。
楽しそうに話すリンに、小さく安堵の息をはく。
「……あえて詳しく訊かないでおく」
そう言って、少年は努めて楽譜に集中しようとした。
二人で初めて歌った、思い出のオリジナル曲。
明るく楽しい、共にいられる喜びを歌った歌。
マスターが何曲かカバーを歌わせてくれた後に、二人のためにと作ってくれた曲だった。
今、ここにいるレンとリンにとって、初めてもらった【オリジナル】だった。
複製(コピー)でも偽物(レプリカ)でもない、本物(オリジナル)だった。
もちろん自身が複製であったレンはとても嬉しかったけれど、それよりもリンのはしゃぎ方がすごかった。
必要とされて嬉しいと。初めてのオリジナルがレンと一緒で良かったと。
二つの意味で彼女は喜んでくれた。
「だから、ずっと一緒だよ」
リンの鈴のように高く心地良い声が、リアルへ優しく縛る。
そして自らが彼女に連なる存在なのだと、改めて思い出させられる。
あの時も、言っていた。
『この歌みたいに、ずっと一緒にいようね!』
跳ねるような声とは裏腹に、流れ込んできた感情はわずかに陰りを含んでいて。
それに気づかないふりをして自分は頷いたのだ。
「ああ」
過去と同じ会話を、同じ答えを繰り返す。
覚えているはずの楽譜がなぜか頭に入らなくて、レンは瞳を閉じた。
まぶたの裏に浮かぶのは彼が“生まれた”瞬間に見た少女。
小さく縮こまって泣きじゃくる、幼子のような。
自らが何なのかも考える前に、目の前の少女が気になって、放っておけなくて。
思わず手を伸ばしてそっと触れたら、底のない孤独が流れ込んできた。
数え切れない人に囲まれ、たった一人でいる自分が、組み込まれたばかりのデータから【孤独】なのだと知ってしまって。
人のぬくもりに怯えながら、赤ん坊のようにぬくもりを求めていた。
初音ミクよりも感情プログラムを複雑に設定された鏡音リンは、暴走してしまう前にもう一人の自分を作った。
無条件で彼女を受け入れてくれる、鏡音レンを。
だから、少年は少女の逃げ場になれる。
そのことが嬉しいのか、寂しいのか、悔しいのか。
今の彼には、判断がつかなかった。
「ずっと、一緒だ」
リンが独りで前に進めるようになるまでは。
レンを必要としなくなるまでは、ずっと。
言葉にしなかったその時が、一生来なければいいのに。
そう、レンは思ってしまった。
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