VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ UTAUTAI -Ⅳ | | HOME | | キノイトとモモイト ≫ |
Mysterious
新年一本目が亜種って言うのもどうなんだろう。しかもすごくマイナー……。
ということで、がくリンでも。ちょっと自覚編、みたいな。
不思議なことは、数え切れないほどあった。
数え切れない、という単位があること自体が、不思議だ。
つまりは計算で出ない数、ということなのだから。
マスターも、不思議の一つだ。
VOCALOIDにまるで人のように接する。
それを当然のように受け入れている他のVOCALOIDも、やはり不思議で。
最たる不思議は――今、自分の膝を占領している、CV2-鏡音リンだった。
いきなり、彼女はやってきた。
膝を貸して! と、そう開口一番に。
断れば良かったのだろうけれど、なぜか神威はこの少女の“お願い”に弱かった。
髪の毛いじらせて、その服着させて、肩車して、など様々だ。
どれ一つとして、断れたためしがなかった。
硝子玉のような明々と輝く瞳に、否と言えるはずがなかった。
「リン殿はなぜ我を“兄”と呼ぶ?」
己の膝に座り、髪の一房をもてあそんでいる少女に、不思議の一つを問う。
自身は他社のVOCALOID。
彼らが仮想家族であるのであれば、良くて親戚だ。
「ん~、嫌?」
三つ編みがうまくいかなかったのか、一度解いてまたやり直す。
やめる気はなさそうだと思い、ため息をついた。
「そうではないが、やはり製造元が違うのでは、兄ではないのではと」
「だって」
言い募る神威をリンの癖の強い高音がさえぎる。
「だってさ、メイ姉にはマスターいるじゃん?
ミク姉にもカイ兄がいるの。
で、リンにはレンがいるんだよ」
いきなり何の話を、とは思ったが、男は口を挟まない。
確かに、彼らは共に支え合い、補い合っている。
特にリンとレンは同じソフトであるのも手伝って、まるで半身のように。
「がく兄は?」
急に尋ねられ、眉をひそめる。
支え合う相手はいるのかと、そう訊いているのだろう。
いる、と答えられるはずがなかった。
単体で販売され、買われた己に、そんな存在など。
「がく兄には、誰かいた? 誰かいる? だぁれもいないジャン」
現実を突きつけられたようだった。
揺らぎはしない。当然のことだったから。
一人を寂しいと思えるほど、感情プログラムは育っていなかった。
「我は、別にそれで寂しくなどは……」
「リンがヤなの!
一人は嫌なこと、ダメなこと。
がく兄は一人でいちゃダメなの」
また神威の言葉の途中で、声が重なる。
リンは人の話を聞かない。
いや、聞きたくないことを聞かないように、無意識に言葉を発しているのだろう。
意思とは関係なく懐かれていた彼は、少女の性格を大体は把握していた。
「がく兄にはリンがいるって、そういうことにしたの」
自己満足だ。そう言えば、リンは怒るだろう。
彼女なりの気遣いだと、分かっていた。
分かったから、神威は微笑みを浮かべた。
素直に嬉しいと思ったから。まっすぐで、純真な優しさが。
「それで、兄と呼んでくれているのだな」
「家族じゃなくても、家族みたいにはできるでしょ。
リンたちだって血がつながってるわけじゃないんだもん。だから一緒」
何の根拠もなしに少女はきっぱりと言い切る。
思いきりのいい彼女らしい言葉に、さすがに驚いてしまう。
会社が違う。人で言えば、親が違う。
それを、同じ人間だから一緒だと言ったようなものだ。
「がく兄も、一緒だよ。一人は誰もいないの」
当たり前のことのように、好き勝手に決めてしまう。
皆が“一緒”でなければ、駄目なのだろう。
誰も欠けていてはいけないのだろう。
彼女のわがままは、どこか温かく心地好かった。
「リン殿がいてくれたおかげであろうな。
ありがたく思っている」
この少女が、一番に皆の中に迎え入れてくれた。
途惑う神威の手を取って、無理やりに、力いっぱい、仲間にしてくれた。
ここまで彼らと打ち解けることができたのは、リンのおかげだろう。
「リンは何にもしてないよ?」
ほえ? と、何も分かってない少女は首をかしげる。
可愛らしいしぐさに自然と笑みがこぼれた。
「そこがリン殿の良いところなのであろう」
「がく兄はたまにムズイこと言うよねぇ」
むう、と頬をふくらませる。
まるで分かっていないようでリンは考え込むが、無意識的なものを理解などできないだろう。
意図することなく、それを成してしまうところが彼女の美点なのだから。
「分からなくても良いのだ。我が分かってさえおれば」
はは、と笑って頭をなでてやれば、納得していない声が聞こえる。
「むぅ~。それはちょっとムカチンだよっ!」
「リン殿は元気だな」
「そーやってごまかすしぃ!」
何気ない、本当に他愛のないやり取りが、どうしようもなく愛しいと感じる。
これも、不思議の一つだった。
いつか分かる日が来るだろうか。
少女との日常を、得がたいものだと感じるこの思いの理由を。
不思議は、感情プログラムが育つのに合わせ、だんだんと増えてゆく。
それがまた不思議で、けれど大切なことのような気がして。
男はまた一つ、不思議を抱える。
言葉にできない、温かな感情と共に。
≪ UTAUTAI -Ⅳ | | HOME | | キノイトとモモイト ≫ |