VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ Trick and Treat | | HOME | | In the dark -conclusion- ≫ |
Retreat into oneself
かなーり前の、UTAUのSNS内でのあしあとリクのお話です。許可をいただけたので転載をば。
ツキコヨ。×でも&でもいける、かな?
糖分は低め。シリアスになり損なったしんみり具合です。
「ツキくん……詩なら詠まないよ?」
共有ルームで、一人詩を詠んでいたときにツキは姿を現した。
彼の前では、なぜか詩が詠めなくなってしまう。
コヨーテは困って、先にそう言っておいた。
けれど今日のツキはずっと押し黙り、何かを考えているようだった。
詩を聞きにきたようには、見えなかった。
気にせず楽譜でも見ていればいいのかもしれないけれど、目の前の席に座られていたらどうしても気になってしまう。
どうしたらいいのか、困りきっていると。
「これ」
唐突にそれだけ言って、ツキは何かを突きつけてきた。
見ると、文字がずらっと書かれている。
韻を踏んでいる、その詩のようなものは。
「歌詞カード?」
コヨーテは思い当たり、確認する。
「マスターが歌わせてくれる、新曲」
「そう、良かったね」
事実だけを告げるツキに、コヨーテは微笑んで言った。
皆が歌わせてもらえるのを見るのは、すごく嬉しい。
何よりも皆、歌が好きだから。そんな彼らの歌を聴くことはとても気持ちが良かった。
けれど肝心のツキはあまり嬉しそうには見えない。
「どうか、したの?」
コヨーテは心配になって、思わず訊いてしまった。
「……意味分かんねぇんだ、全然」
ポツリと、ツキはこぼし出す。
「言葉は調べればいいけど、そういうんじゃなくて。
感情……っつうのかな。
歌われてる気持ちが、理解できねぇんだ」
ツキは立てている膝に額を当てる。
焦り、苛立ち。そんなものが声から表情から伝わってくる。
「それで、元気ないの?」
コヨーテは重ねて問う。
今日はずっと様子がおかしかった。
歌詞の意味が分からないことが理由なら、意味が分かれば元気は戻る。
「だって、ムカつくじゃんか」
ツキはバッと顔を上げた。
「歌に気持ちがこもってなかったら、それは歌って言えねぇのに。
どんな気持ちを込めたらいいか分かんないなんてよ」
顔をしかめて、悔しそうに言い募る。
理解できない自分への怒りがあるのだろう。
UTAUは歌声合成ソフトで、自分たちは音源だ。
マスターがどう歌わせるのかが重要なのであって、UTAUシンガーが歌詞を理解していなくても、問題はない。
もっともそんな論理的な考えでは、心は納得することはできないだろう。
ツキが欲しがっている言葉は、もっと違うものだと思う。
「歌詞、見せてもらえるかな?」
コヨーテは控えめに尋ねてみる。
突きつけられたときは、見ていいものか分からずに文字を追わなかった。
もう一度、今度はじっくり読ませてもらいたい。
力になれるかもしれないから。
「ああ、見てもらいたくて持ってきたんだし」
「私に分かるとは限らないけど……」
自信のなさが前面に出て、口ごもってしまう。
「お前なら知ってる気がしたんだ。
詩、いつも詠んでるし。
なんとなく、な」
ツキはニカッと明るく笑った。
「あ、ありがとう」
つられてコヨーテもはにかむ。
そう、力になれるかもしれないと思った理由は、まさしく詩だった。
コヨーテが進んで詠む詩は、叙情的なものが多い。
感情の表現方法も多様で、複雑なものもある。
詩と詞は違うけれど、似ている部分もあるのだから、ヒントくらいは分かるかもしれない。
「ほらこれ。頼むな」
そう言ってツキは歌詞カードを手渡してくれた。
がんばろう。
どんな小さな感情でも、読み飛ばさないようにしよう。
真剣なツキに影響を受けて、コヨーテはそう思いながら歌詞を見た。
読み進めていくうちに、言葉にならないつらさが胸をしめつけて。
それでも最後まで、コヨーテは読みきった。
「何泣きそうな顔してんだよ!?」
顔を上げたコヨーテを見て、ツキが驚きの声を発する。
「だって……」
喉が焼けるような感覚。うまく声が出てこない。
「どっか痛いのか? 大丈夫か!?」
「だい、じょうぶです……ただ。
詞が、悲しくて……」
わたわたとあわてるツキに、コヨーテはそう語る。
「大事にしてた卵が割れちまっただけの詞が?」
たしかに、表面上はそんな歌詞だ。
けれど物には裏がある。
「卵はね、たぶん隠喩なの」
泣かないようにまばたきもせずに、コヨーテは言った。
伝えなくては。
言葉の裏に隠されたこの詞の意味を。
「その人が大事にしてたのは、信念とか、きっとそういうもの。
白い卵、って限定されてるのは『白が正しい』ってことを表してるんだと思う。潔白、とか」
ツキは静かに聞き入っている。
コヨーテにできることは、読み取った解釈を話すことだ。
合っているかは分からない。
間違っているかもしれない。
それでも話すことが使命のように思えた。
「卵は固そうに見えてもろいから。
大切に大切にしすぎて、周りのことも考えないで、自分の信念を貫いて。
いつの間にか、何より大切してきた信念を裏切るようなことをしているのに、気づかなくて。
孵化と不可をかけて、卵は孵ることなく割れちゃうの。
韻を残さず、っていうのは印とつなげてて、そこにあったというしるしすら残さずに、ってこと」
何度も泣きそうになりながら、それでもすべて話し終えた。
「すごくすごく、悲しい詞だよ……」
大切にしていた思いが消えてしまうことは、どんなにつらいことだろう。
まるで初めからなかったかのように、形が残ることもなく。
コヨーテは失いたくない。
喜びも悲しみも痛みも。詩も、詩に込められたどんな思いでさえも。
「お前……すげぇな」
ツキは呆然とした様子で呟いた。
「すごくなんて、ない」
ふるふると首を横に振る。
コヨーテの解釈が合っているとは限らない。
ただ、綴られた詞から、隠喩ならどういった意味を示しているのかを予想しただけだ。
「オレ、どんだけ考えても分かんなかったってのに」
ツキは羨ましそうな視線を向けてくる。
それに応えられるだけの自信がなくて、コヨーテはうつむいた。
「……お前さ~、きっと誰より感情が豊かなんじゃね?」
何を思ったか、ツキがそんなことを言い出す。
否定しようと顔を上げると、朗らかな笑顔がすぐ近くにあった。
「音階もリズムもない文字から、それだけ読み取れるのって、カッコイイぜ」
身を乗り出して褒めるツキには、何の作意も見当たらなかった。
そう思ったから口にした。
単純明快な理由だけがそこにはあった。
「お前は違うって言うかもしんねぇけどさ。
自信、持てよ」
肩をぽんっと軽く叩かれ、コヨーテは縮こまる。
励ましてくれているのだと、分かって。
分かったところで、そんなこと自分には、
「無理、だよ……」
としか言えなくて。
自分に自信が持てない。
評価する声すら信じることができずに。
ただ、好きな詩に逃げている。
ツキのまっすぐ見つめてくる瞳が、怖い。
すべて暴かれてしまいそうな気がする。
「あんま頑なだと、お前も卵割るぞ?」
「ふえ?」
ツキの唐突な言葉に、思わず間抜けな声をもらしてしまう。
卵? ……あの歌詞にあった?
「自分の可能性、自分でつぶしちまうなよな」
ツキのまなざしが、あまりに真剣で。
コヨーテは思いきり顔を背けてしまった。
「オレが言いたいのは、それだけ。
意味教えてくれてありがとな」
返事をすることも、頷くことさえできず。
ツキがその場を去るまで、コヨーテは指一本動かすことができなかった。
彼の言葉は大きい。
絶大な影響力と、無視できないほどの引力があって。
感化され始めていることを、まだ認められずにいる自分が、そこにいた。
≪ Trick and Treat | | HOME | | In the dark -conclusion- ≫ |