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Unclear mind
ずいぶん前から書いてた話。拍手で読んでみたいって言われて、挑戦してみよっかなぁと考えてた白鐘家です。
ヒナタ×ヒヨリ。&に変換は……できるようなできないような(笑) ヒサギさん友情出演。
ほのぼのとは言いがたいけど甘いわけでもなく、切なくもそこまでシリアスでもないので、ジャンル分けに困ります……。
まず一番幼いヒカリが一抜けし、ヒメカとヒスイがそろそろ寝ると言い出す。
残るのはいつもヒナタだった。
「じゃ、ヒヨリ、ちゃんと夜更かししないで寝るんだぞ」
ヒヨリの部屋を出てから振り返り、ヒナタは思い出したように付け足す。
時刻は一時をとうに過ぎていた。
意識すればスリープモードにならず、起きていることも可能なのだ。しかもヒヨリは前科持ちだった。
「ヒナタも卑猥なこと考えて寝られないなんてことがないようにね」
ヒヨリはむっと眉をひそめ、嫌味返しをしてくる。
「お前なぁ! おれのこと何だと思ってんだよっ!?」
卑猥だと、事実無根の単語を言われ慣れてしまっている現状が嫌で仕方がない。
遊ばれてるのだと分かってても、思わず反論してしまう。
「思春期の男の子でしょ」
男の子、と言われて不意に胸が高鳴った。
気のせいだ。これはただ、怒っていたからというだけで。
男として見られているのかと、期待したわけではなく。
何度も自分に言い聞かせる。
そうでもしないと、平静を保てなさそうで。
「……もういい。誤解だって言うのも疲れた……」
ヒナタはがくりとうなだれる。
プログラムである自分たちにも“思春期”というものが当てはまるのか。
そんなことを考える余裕すらなかった。
「あと、ヒサギ兄さんに襲われないように気をつけてね」
ヒヨリは本気で心配しているようで、真剣に注意を促してきた。
「さすがにあいつでもそこまではしないって」
馬鹿兄貴には、たしかに困った性癖がある。平気で人の尻を触ったり、胸をもんだり。
それでも限度というものは知っているはずだ。……たぶん。
「ヒナタはガードが甘いところがあるから、不安」
ふう、とヒヨリはため息をつく。
少しくらい自分を信用してくれてもいいのにと思う。
頼りないことは、自覚してるけれど。
「一応気をつけるさ。
ありがと」
ヒナタは苦笑して、ヒヨリの頭をなでてやる。
心配してくれるのは、純粋に嬉しい。
それだけヒヨリに気に留めてもらえてるということだから。
「じゃあ、おやすみ。また明日ね」
「ああ、おやすみ。また明日」
毎日くり返すやり取り。
これをしないと、今日が終わった気がしない。
きっと自分の一日はヒヨリで始まりヒヨリで終わるのだろう。
それでいいのかもしれない。これからもずっと続けばいい。
******
ヒヨリの隣の隣の部屋。
戻ってきたヒナタが部屋を見回すと、ベッドで横になっているヒサギと目が合った。
「お前、ヒヨリの事が好きなんだな」
おかえりも言わず、まずヒサギが言葉にしたのはそれだった。
疑問系でも確認でもなく、断定形。
驚いて、仕切りに盛大に頭をぶつけてしまった。
「いきなり何だよ!?」
額をさすりながら、ヒナタは怒鳴った。
胸はどっくんどっくんと、うるさいくらいに鳴っている。
「ドアが開いてた。丸聞こえだ」
たしかに入ってきたときドアは開いていた。
自分が出たときはきちんと閉めて行った。ということはヒサギが一度部屋を出て、開けっ放しにしておいたのだ。
……たぶん、少しでもヒスイの声を聞こうとしてだろう。とヒナタは見当をつけた。
「聞き耳立ててたんじゃなくって?」
「どうして俺がそこまでしなきゃいけないんだ」
ヒナタがむっとしてつっかかると、ヒサギは呆れたように息をついた。
たしかに、面倒くさがりのヒサギがそんなことをするとも思えない。
相手がヒスイなら、別かもしれなかったが。
「っつーか、普通に話してただけじゃん。
むしろ襲われるって思われてるとこつっこめよ」
話していた内容は変わったものではなかったはずだ。
夜寝る前の、挨拶。
ヒサギの思考は飛躍しすぎている。
「じゃあ好きじゃないとでも?」
逸れそうになった話をヒサギは元に戻す。
直球の問いに、ヒナタはうっと声を詰まらせる。
ごまかしは、通用しなさそうだった。
「……好きだけど」
渋々、ヒナタは認める。
好きか好きじゃないかと訊かれたら、好きだとしか答えようがない。
ヒヨリは大切な存在だ。誰よりも、何よりも。
「でも、そういうのじゃない。
普通に、妹としてってだけで!」
俗に言うシスコンというやつなんだろうと思う。
兄弟愛。それ以外の何物でもない。
「俺たちに、ただの設定が関係あるのか?」
ヒサギは馬鹿にしたような目でヒナタを見てくる。
人格付加プログラムに組み込まれた、基本設定。
「設定でも、妹は妹だ」
自分の言葉に傷ついて、仕切りをぎっと握った。
どうしてこんなに苦しいのだろうか。
間違ったことは言っていないのに。正しいはずなのに。
「お前の場合、一般常識ってやつが邪魔するんだな。
そのうち誰かに取られても知らないぞ」
周りに興味のないヒサギらしくもない忠告。
いつものように、放っておけばいいのに。
自分には関係ないことだと、捨て置いてくれれば。
そうすればヒナタは悩む必要も、ないのに。
「……おれは別に……ヒヨリが幸せなら、それで」
チクリ、と針が刺さったように胸が痛んだ。
自分の気持ちが分からない。
ヒヨリは大人の男性が好きだと、知っている。
歌鈴に憧れていることも、知っている。
だったら、想いが成就するように願ってやればいいじゃないか。
“兄”ならそれができるはずだ。
そうでなくてはならない。
「本気で言っているんだとしたら、相当の間抜けだな」
話にもならない。そう言うかのように、ヒサギはごろんと寝返りをうった。
かっと、怒りで頭に血が上る。
ヒサギに言われる筋合いはないはずだ。
「あ、兄貴だって! そんなこと言ってヒスイ姉のことどう思ってんだよ!?」
八つ当たりのように無理やり話を変えた。
自分だけが責められるのはおかしい。
ヒサギがヒスイのことを特別に想っているのは、見ていれば分かる。
その感情は“恋”じゃないのか。
「好きだが? 何か悪いか」
ヒサギは後ろ暗いこのなんてないとばかりに、堂々と認めた。
声には甘さなんてどこにもなかったけれど、なぜか嘘ではないと感じた。
「っ!! もう寝る!」
ヒナタは逃げるように自分のベッドにもぐりこんだ。
開き直られてしまっては、もやもやしているヒナタが馬鹿みたいだ。
……馬鹿、なのかもしれないけれど。
素直になれない。どこに自分の本当の気持ちがあるのか、分からない。
ヒヨリのことは好きだ。大好きだ。
それは妹として大切だというだけで。そのはずで。
なのに、それでは説明のつかない胸の痛みに、悩まされる。
「早々に認めてしまった方が楽だぞ」
聞こえてきたヒサギの声も、無視して。
「……知るかよ」
そう呟くことしか、今のヒナタにはできなかった。
この想いが、ただの兄弟愛ではないかもしれないと、ずっと前から思っていた。
けれどそれなら何なのかと、自分に尋ねてみても答えは返ってこなくて。
はっきりしない悶々とした思いを、今日も抱えながら寝るのだ。
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