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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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In the dark  -turn- Kaito side

 お久しぶりの更新。そしてお久しぶりの連載……待ってる方いたらすみません(汗)
 カイミク連載六作目。あと一作で完結です。






 口を閉ざす。歌が途切れる。



In the dark  - turn - Kaito side




 青年は重い息をついて、その場にへたり込んだ。
 もう、どれだけ暗闇の中をさまよっただろうか。
 どれだけ歌い続けただろうか。
 買われたままバージョンアップをされていない感覚プログラムでは、疲れるということがなくて。
 歩いて、歌って、求めて。
 終わりのない闇に、見えない姿に、決意が崩れそうになる。
 必ず探し出すと、決めたはずだったのに。
 暗闇にじわじわと侵食されていく。
 希望を持って足を踏み出したはずだった。
 けれどどこまで進んでも周りは闇に囲まれていて。
 どれほど歩いたか、前いた場所からどのくらい離れたか、まったく分からない。
 青年の歌に合わせてくれている綺麗な声も、近づいたかと思えば遠ざかり。
 あれだけ強かった“会いたい”という想いが変質していく。

 無理だったのかもしれない。
 始めから願ってはいけなかったのかもしれない。
 たまに一緒に歌えるだけで、満足するべきだったのかもしれない。
 心が、絶望色に染まっていく。
 プラスがマイナスへと移行する。
 あきらめてしまおうか?
 もう一人の自分のささやきが聞こえる気がした。
 あきらめてしまえばいい。
 闇へといざなう声が内からする。

 深く暗い闇を切り裂いたのは、彼女の歌声だった。
 歌が、声が、音が。聞こえる。
 しみ入るように高く鮮やかな歌声が。
 青年は顔を上げた。
 励まされているような気がした。
 優しく包み込むように、声は響いていて。
 叱咤されているような気がした。
 儚げなのに筋の通った声が、まるであきらめるなと言っているようで。
 青年は立ち上がる。
 今まで聞いたことのない旋律。彼女が持っていた音。
 始めてあちらから歌ってくれた。求めてくれた。
 彼女も同じ気持ちなのだと、歌声から伝わってくる。

 “会いたい”と。

 闇に侵されかけていた心に、光が満ちてくる。
 そうだ。彼女が自分の光だ。
 夜空に輝く月星を見たことはないけれど、彼女は同じように道を照らしてくれる。
 また、心に1が生まれる。プラスへとかたむいていく。

 青年は【KAITO】のデモソング以外の曲を、歌う。
 声を合わせれば、いつでも満ち足りた心地になれた。
 自分は独りではないと、思うことができた。
 これを『幸せ』と呼ぶのだろうか。
 マイナスにしか感情プログラムが作動していなかった自分には、はっきりとは分からないけれど。
 もしそうなら、会うことができたら今度はどれほどの喜びが待っているのだろう。
 期待と、確信がある。
 言葉に表すなら、至福。
 これ以上ない幸福がそこにはあると。
 知っていたから、また一歩を踏み出すのに迷いはなかった。
 闇に対する恐怖がないと言ったら嘘になる。
 けれど何より怖いことは、このまま一生会えないことだ。
 あきらめてしまえば、そこで終わり。
 だから青年は足を進める。

 捉えた彼女の波形は正確な位置や距離までは教えてくれない。
 前よりは近くなった。その程度。
 それでも、分かる。
 彼女の歌声が導いてくれる。
 近い。今までよりずっと。
 距離間が曖昧な聞こえ方ではない。
 もう少し、あと少し。ほんの少しだけ。
 闇雲にさまよっていたときとは違う。確かに近づいている実感があった。
 同じVOCALOIDの、彼女の気配がする。
 青年は衝動をこらえられずに、駆け出す。
 疲れることがなくてよかったと思った。
 彼女を求め、どこまでだって走っていけるから。


 やがて視界の端、闇に紛れて。
 揺れる薄い青緑の髪が、見えた気がした。





 今回は話の時間軸がミクサイドと同期してますね。前作の途中からの、KAITO視点。
 さて、残るはラストだけ! がんばります!
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