VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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嘘をつき通せなかった時
こっちのお題はか~な~り、お久しぶりですね。約一年ぶりとか……(汗)
お題小話。『敵わないと思い知らされる時で10のお題』の7から。
リン視点でKAITOと。リンレン前提っぽいです。お題創作にしては長い方かな?
配布元:原生地
「ねえ、リン。
レンと仲直りしなくていいの?」
人好きのする笑顔って、こういうのを言うんだろう。
ついそんなことを考えちゃうような表情に、少女は仏頂面を向ける。
「いいの、もうレンのこと嫌いになっちゃったもん」
すぐにプイッと顔を背けて、足元の草を乱暴にむしった。
数時間もすれば自動修復プログラムが作動して、今むき出しになった土だってすぐ隠される。
それでも自分のこの苛立ちは解消されないんだと思うと、また腹が立ってきた。
「リンがレンのことを?」
少し驚いたような、まるで信じてなさそうな声音。
ムカついて勢いよく立ち上がり、サファイアブルーを見上げる。
「本当だよ。
レンなんて大っ嫌いっ!!」
音が刃のようにリンの髪の色の花弁を散らす。
波は風になってリンより背の高い花を揺らす。
声が、歌が。VOCALOIDにとっての武器で。存在そのもので。
それ以外に周りに影響を及ぼせるものなんて、少女には分からない。
この苛立ちを治める方法が、分からないのと同じに。
「嫌いなレンのために、どうして悲しくなっているんだろうね」
晴天の色の瞳は、細めると夜が来たみたいに深くなる。
すべてを静かに飲み込んでいく色。
分かっているよ。と、言われているようで。
自分でも分からないことを見据えられているようで。
イライラはうなぎのぼり。
「レンがいけないからだよ!!」
一番星を探すみたいに、小さな空を覗き込む。
目をそらしたら、負けのような気がした。
「いつも一緒じゃなきゃいけないのに。レンはリンなのに。
別々じゃ意味がないんだから!」
一人で歌って、一人で評価されて、一人で過ごして。
それなら“鏡音”である必要なんてない。
少女の隣にいないと、左にいないと、一緒にいないとダメなのだから。
「つまりリンは、寂しいんだ」
「そんなんじゃないっ!!」
嬉しそうなKAITOの言葉をすぐに否定する。
違う。寂しくなんて、ない。
ただ一緒にいないといけないだけ。そう始めから決まっているのだ。
リンがレンを呼び、この世界に確立したのだから。
リンの隣にはレンがいて、それが当然で。
これからもずっと一緒だと、疑ったことは一度もなくて。
……寂しいとか、そんなありきたりな感情では表しきれない。
虚無感。喪失感。いっそ絶望に近い深い闇。
半身が現れて消えていったものたちが、再び首をもたげる。
太陽のような花にまで、影が差しているように見えて、激情に任せて手折った。
「レンとずっと一緒がいいなら、余計に仲直りした方がいいんじゃないかな?」
兄のもっともな意見に少女は声を詰まらせた。
嫌い、と散々言っておきながらも、離れ離れになることは考えられない。
喧嘩したままでギスギスした関係を続けるのにも、限界がある。
レンは、いつでも何からでもリンを守ってくれる、スーパーマンで。
嬉しい時も悲しい時も共鳴してくれる、ココロの万能薬だ。
言われなくても分かってる。
だから、どうしていいか分からないのに。
「しつこいとカイ兄も嫌いになるよ」
目一杯にらみつけてみるけど、効果はないみたいで、穏やかに微笑み返してくる。
どんな時も感情をセーブしている兄は、今は喜びを前面に出して。
「なれないよ、リンは。いい子だからね」
そう言って大きな手のひらが、頭の上に降ってきた。
ポンポンと何度か優しく触れるぬくもり。
頭に上っていた血が、膨らんでいた怒りが、急速に冷めていく。
彼は少女のなだめ方も、弱い言葉も知っている。
悔しいような、くすぐったいような、変な感じだ。
いい子になりたい、いい子でいたい。
誰からも好かれるような、可愛くて優しくて、完璧な子になりたい。
いっつもそう思ってるのに、やってることはその逆で。
嫌なことは全部レンのせいにして、兄にまで八つ当たりなんて。
「リンはいい子なんかじゃ、ないよ」
ボソッと、うつむいたまま呟く。
VOCALOIDだから聞こえないはずないけど、独り言にしたかったような気もする。
分からない。分からないことだらけで頭がパンパン。
レンが一人で練習してたのは、リンと一緒に歌うものじゃなかったからで。
一緒に歌う曲じゃないのは、たまにはとマスターが作ったからだ。
誰も、何も悪くない。当たり前のことで、間違いなんてどこにもない。
勝手に怒り出した自分が、悪い子。
「いい子だよ。リンは優しくてとってもいい子だ。
レンが好きだから寂しくて、レンを傷つけたことを悲しんでる」
重みで下を向く花を握った少女の手を包む、大きな手。
それが自分と同じ体温じゃないことに、何だか胸の辺りが苦しくなった。
兄や姉が一人で歌っていても嫌だとは思わない。
ただ上手だと、リンもがんばらないとと思うだけ。
レンは、ダメだった。すごく痛くてつらくて、悲しかった。
ずっと一緒だと思ってた自分の半身は、一人でも大丈夫なのだと、理解してしまったから。
リンにはレンしかいない。レンの代わりなんていない。
憶測じゃなく絶対、一人でなんかいられない。
そう思ったら無性に腹が立って、気がついたら少年に向かって怒鳴ってた。
「寂しいなら、素直にそう言ってみるといいよ。
レンもどうして怒らせたのか分からなくて、困ってるだろうから。
きっと甘えてもらうのは願ったりだ」
本当に、兄には嘘がつけない。
隠しているつもりでも、ごまかせているつもりでも、気づかれてしまってる。
頼りにならなさそうなのに、とても頼れる兄。
喧嘩と呼べないほど一方的な仲違いだった。
その原因をすぐに見抜いて、迷わずリンを追いかけてきた。
少女の心の問題だと、分かったからなんだろう。
「敵わないなぁ」
心からそう感じてリンが表情を和らげると、
「それはまあ、お兄ちゃんだからね」
にこりと、青年は笑みをこぼす。
少女の隣に立って、そっと背中をたたく。
行ってきなよ。と言われているようで。
握りこぶしを作って、リンは一つ力強く頷いた。
自らの非を認めることは、苦手だ。
上手に謝ることはできないかもしれないけど、レンとちゃんと話したい。
『傷つけてちゃって、ごめん。
レンがリンを置いてっちゃうような気がして寂しかったの』
何度も頭の中で繰り返し言って、覚悟を決める。
震える足を踏み出そうとしたその時に、肩をつつかれた。
「お兄ちゃんから、いい子のリンへのご褒美に」
とっても嬉しそうに、少女にとって願ってもない提案をしてきた。
「仲直りのきっかけをあげようか?」
その言葉にすぐ頷いたのは言うまでもなくて。
数分後に楽譜を手に持って、もう一人の自分の元に駆けていくのも、いつもの喧嘩の終わり方だった。
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