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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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April Fool

 テト誕生日おめでとー!! というわけでお祝い話。
 一応、栄一視点。でも三人称に近いです。
 少しだけテドテト要素あり。登場キャラは一言でも喋ってるのが、テト・テッド・栄一・モモ・ウタ・ルコ・タク・ソラ・ルブリーズ・マコです。






 何日も前から用意していて。
 誰もが喜ばせようと苦心して、喜ぶだろうと予想していて。
 そんな、大々的な記念日を。
 たった一言で台無しにできるのが、彼女らしいところだった。



April Fool




「ボクの誕生日は今日じゃないぞ」

 ハッピーバースデー! とクラッカーを鳴らした彼らに、返ってきたのはテトの怒ったような声だった。
 皆は驚いたり固まったり、様々な反応をした。
 栄一は予想もしていなかったテトの言葉に、困惑を隠せない。
「えっと、テトさん?」
 栄二を筆頭とする何人かにせっつかれ、微妙な空気の中で発言する。
 こういうときに貧乏くじを引くのは、もう慣れていた。
「なんだ、栄一」
 テトは不機嫌丸出しの顔でこちらを睨む。
 恐い。恐すぎる。鬼軍曹の名は伊達ではない。
「今日じゃないって、どういうことですか?」
 今にもドリルが飛んでくるかもしれない恐怖と戦いながら、栄一は訊いた。
 テトはエイプリルフールのネタの一つとして生まれたはずだ。
 四月一日。それ以外には考えられない。
「君は実にバカだな」
 やはりというか何というか、テトは名文句を口にした。
 言われ慣れてしまっている栄一は、乾いた笑みを浮かべる。

「一年前の今日のボクは、声なんてなかったんだからな。
 架空の設定があっただけだったんだぞ」
 テトの短い説明に、栄一を含む皆はやっと失敗の理由を悟った。
 方々から「ああ」とか「そうか」という声が上がる。
 彼らはUTAUだ。元が歌うために作られた音源。
 テトは、同じようで違う。初めは人をだますために作られたキャラクター。
 今はUTAUとしての誇りを持っている彼女が、今日祝われて嬉しいはずがない。
 だからといって後日改めて誕生会をしたところで、しらけてしまうだろう。
 明らかにすまなそうな顔をする者。喜ばせられなかったことを悔しげにしている者。ユフなんかは今にも泣き出しそうだ。

「当日より先に祝ったって問題はないだろう」
 誰もがあきらめかけていたその時、一歩踏み出したのはテッドだった。
「大ありだ!」
 テトはかみつかんばかりにテッドに詰め寄る。
 自身のジェンダー換えキャラであるテッドには、テトは特に容赦がない。
「そうか? 少なくとも、祝いたいという気持ちは変わらん」
 テッドはそう、皆の胸の内を代弁してくれた。
 喜ばせたかった。
 UTAUをここまで発展させてくれた功労者である彼女を。
 まだ調声の仕方も分からなかった中で、『ズコー』と言われながらも歌い続けた当時のテト。
 姿を持っていたがために矢面に立たされてしまっていた。
 褒めたって、素直に受け取ってはくれないから。
 生まれてきてくれてありがとう。と誕生日を口実にして伝えたかったのだ。
「間違えられたら嫌に決まってる」
 むすっと、仏頂面のまま言い返す。
 本気で怒っているのが、表情からも握ったこぶしからも見て取れた。
「本当に間違いかどうか、自分の目で確かめるんだな」
 自信満々に、テッドは微笑をこぼした。
「?」
 テトは不思議そうに首をかしげる。
 皆も何のことを言っているのか、分からない。
 ――いや、正確には一部を除いて。

「テトさん。はい、どうぞ」
 モモはテトの前まで進み出て、手作りのバースデーケーキを差し出す。
 テトは目を丸くする。
「私たち全員からの、贈り物」
「受け取ってくれよな!」
 ウタとルコの手には、テトへのプレゼントをまとめきれずに二つに分けた、大きな袋。
 ケーキの上に乗ってるチョコレートにも、プレゼントに添えてあるカードにも。

【April 6th Happy birthday dear テト】

 四月六日。テトの歌声が公開された日が書かれていた。
「モモ、ウタ、ルコ……」
 テトは眉を八の字にさせ、目には涙をためていた。
 忘れられてはいなかったのだと、祝ってもらえて嬉しいと、表情は語っている。
 ケーキやプレゼントをつぶしかねない勢いで、テトは三人に抱きついた。


「これで一件落着、だろう」
 テッドは腕を組んで、偉そうに皆に向き直る。
 こういう仕草が一々テトと似ている。と栄一はこっそり思った。
「テッドさんたちはこれを予測していたんですね」
 タクが我が意得たりと何度も頷いている。
 バースデーケーキは任せてくださいと、一人では大変だろうにモモが言ったのは。
 プレゼントは私が集めて渡しますと、珍しく積極的にウタが言い出したのは。
 手伝わせてと言った彼らの中から、ルコだけが選ばれたのは。
 納得のいかない面々に、好きにさせておけとテッドが告げたのは。
 全部、理由があってのことだったのだ。
 ウタとモモはテトががんばる姿を、ただの音源としてずっと見てきていた。
 ルコはテトと同じような境遇の中で生まれたから、少しは気持ちも分かるのかもしれない。

「あいつの考えそうなことくらい、簡単に分かる」
 そしてテッドは、時に暴走しがちなテトをいつも影から支えてきた。
 同じようにテトを思っているはずなのに、配慮に差が出てくる。
 彼らの想いは、きっともっと深いのだろう。
「さすがはテッドさん、ですね」
「……すごい」
「……すごいね」
 ソラは正直に褒め、ルブとリーズは声を合わせる。
 皆、テッドたちの連携プレーに驚きながらも感心していた。
「俺たちには真似できないな」
 栄一も苦笑して、負けを認めた。


「皆、プレゼント、ありがたく受け取らせてもらう」
 テトは人前で泣いたのが恥ずかしいのか、頬を赤らめていた。
「喜んでもらえて良かったわ」
 マコが安堵したように笑って応える。皆も同じ気持ちだ。
 今日という日が、彼女にとってつらいだけの日ではなくなってくれたようで、良かった。
 それからテトは左右にいる三人と、前方にいるテッドの顔を順々に見回す。

「ウタ、モモ、ルコ……それと、テッドも。
 とても嬉しかったぞ!」

 テトはいつもは浮かべない満面の笑顔で言った。
 それは皆が見たかった、最高の表情だった。
 テッドが満足げに笑んだのを、栄一は視界の端で確認した。

 

 何日も前から用意していて。
 誰もが喜ばせようと苦心して、喜ぶだろうと予想していて。
 そんな、大々的な記念日に。
 縁の下の力持ちのおかげで、最高の笑顔が見られた。
 そんな、大切な人の誕生日が、また一つかけがえのない思い出になる。





 栄一視点にしたのは単にヤツが動かしやすかったからです。栄一良いヤツ。うん。
 というか英語表記が間違ってないかがドキドキです。一応アメリカ式。
 なんかいつもよりもUTAU荘よりの話ですね。他の話とちょっと違和感があるかも……。
 喋らせたキャラは音源公開が早かったキャラと、ルコはルコだから。
 テッドの初投稿動画が10月だとか、突っ込んじゃダメです。姿はなくてもきっといたんです、たぶん。
 この五日後もプチ誕生日会をしたりしてそうです。にぎやかだ~。
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