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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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Rabbit's song

 ウサギに鳴き声がないと知って、うちの設定で書いてみました。
 ヒビルナ。いつもよりはシリアスだと……思います。切な系なのかも?






 その日の少女は始めからしておかしかった。
 何が、というよりも、全体的に。
 掃除をし終わったヒビキの前に現れたルナは、今にも泣きそうに顔をゆがめていて。
 兎のつけ耳はこれ以上ないくらいに垂れ下がり、青い瞳はわずかにうるんでいる。
 彼女らしい快活さのかけらも感じなかった。



Rabbit's song




「ルナ……どうしたんだ?」
 あまりの様子に、数秒ほど沈黙してしまった後、ヒビキは声をかける。
 まずここからしておかしい。
 いつもであれば、ルナは積極的に話し出す。
 ヒビキが聞き手に回ることが普通で。
 顔を合わせても何も言わないルナなんて、どう考えても変だ。
「ルナ」
 青年はできるかぎり優しく聞こえるように、名前を呼ぶ。
 ピクリと、少女の肩が揺れた。
「何か、あったんだな?」
 慎重に、傷つけてしまわないように。
 ヒビキが問いかければ、ルナは素直に頷いて。
 二人の間にあった距離を、走ってうめたルナは、そのまま彼の胸に飛び込んできた。
 軽い衝撃。小さな重み。
 近づいて気づく。ルナは小刻みに震えていた。
 幼子が親に必死にすがるように、力いっぱいヒビキにしがみついてくる。
 ヒビキは落ち着かせるようと、少女の背中をなでる。
 何度も、何度も。
 繰り返しているうちに、震えが治まってきているのを感じる。
 ルナも自分で分かっているからか、今度はヒビキに安心したように体を預けてきた。

「ウサギには声がないんだって」
 そしてポツリと、元気がなかった理由を話し出す。
「アタシには声がある。
 歌うための声が」
 そう言い募るルナの声は覇気がなく。
 同情しているだとか、そんな生易しいものではないのだと伝わってくる。
 歌えることは本来、幸せにつながるものなのに。
 今はそれが、彼女を苦しめている。
「……でも、ウサギは声が出せないんだって」
 ヒビキの胸にうずめられていて、表情なんて見ることはできない。
 けれど大体分かる。きっと泣くのを我慢している。
 声の震えとかすれ具合が、教えてくれる。
「動画とかも見たことあるのに、気づかなかった。
 ウサギは、ウサギは……」
 このままでは本当に泣かせてしまう。
 それですっきりするなら良いのかもしれないが、ルナは人の前でなんて泣きたくないだろう。
「ウサギの妖怪のルナとしては、放っておけない問題なのかな?」
 分かっていながら、ヒビキは確認する。
 感受性豊かなルナのことだ。きっと自分のことのように捉えたのだろう。
 歌が好きで、歌うことは幸せで。
 歌えなかったら、すごく悲しくつらい。
「だって、知っちゃったんだもん」
 責められたと思ったのか、ルナは拗ねたような口調で言う。

「声が出ないからって歌えないわけじゃないよ。
 心で、歌える。
 息に音階もつけられる」
 ヒビキは微笑んで、ルナの頭をなでてやる。
 歌うことは自由だ。誰にだって、何にだって、やろうと思えばできる。
 実際のウサギは歌うなんて考えもしないだろうけれど。
 ルナが望んでいる答えは、そういったものではないと分かっているから。
「……それじゃあ足りない」
 少しの間の後、ルナはそうこぼす。
 もっと、もっとと望む、恐れを知らない子どものように。
 わがままで無垢な少女は、ウサギのために真剣だ。

「なら」
 ヒビキは明るい声を出す。
 とっておきの解決策を教えてあげよう。

「ウサギが歌えない分、ルナが歌ってあげればいい」

 青年の胸に顔をうずめている彼女には見えないだろうが、にっこりと笑って言った。
「ウサギが足りないと思う分を、ルナが補ってあげればいい。
 ルナの声なら充分だと、おれは確信してるんだけど」
 足りないなら、足していけばいい。
 ウサギの代わりにルナが歌ってあげればいい。
 どこまでも澄んだ綺麗な歌声。きっとウサギだって満足してくれる。
 ルナの声には、ルナには、それだけの魅力がある。
「どっからその自信は来るの?」
 不思議そうに言って、ルナは顔を上げた。
 うるんだ瞳からは、まだ涙はこぼれ落ちてはいなかった。
「ルナの声が好きだから」
 ヒビキはルナの髪を優しく梳きながら、告げる。
 嘘ではない、誇張もない、本心。
 ルナには自分でも驚くほど、ありのままをさらけ出せるのだ。
「へへへ、ヒビキに好きって言ってもらっちゃった~。
 ヒビキに慰められちゃった~」
 へら、とルナは無防備な笑みを見せる。
 泣き笑い。それでも笑顔が戻ったことに、ヒビキは安堵した。
 もう、平気そうだ。
 浮き沈みの激しいルナを、無事に浮上させられた。
 情けないくらいそれにほっとしている自分に、心の内で自嘲する。

「で、小ウサギさんはいつまで貼りついてるのかな?」
 冗談めかしてヒビキは訊く。
 傍目から見たら抱き合っているようにしか見えないこの構図は、少し問題がある。
「傷心が癒えるまで~」
 ルナはそう言ってぐりぐりと頭をすり寄せてくる。
 それのどこに傷心があるというのか。
 飼い主にじゃれる小動物のような行為に、ヒビキはため息をついた。
「じゃあもう平気だな。
 ほら、離れなって」
 ルナの額を小突いて、自分から距離を取る。
 彼女は無防備すぎるのだ。
 今回の場合は仕方ないけれど、誰彼かまわず抱きついたりする癖は、直した方がいいと思う。
 ルナのことを大切にしたいと思っているからこそ。

「ヒビキ、ありがとね」
 花がほころぶように笑って、ルナは言った。
 ウサギに対しての解決案のことだろうか。
 それだけではないような気もして、けれど他に思い当たらなくて。
「別に、おれは何もしてないよ」
 きっと気のせいだろうと思うことにした。



 ウサギの歌。ウサギに贈るウサギの歌。
 歌えないはずのウサギの歌を歌う彼女は、とても幸せそうだろう。
 彼女のウサギの歌を、自分はいつまでも聞いていたいと、思うのだろう。





 ルナが元気ないときは、ヒビキが包み込んであげればいい。
 逆にヒビキが悩んでるときとかは……想像つかないや。
 ヒビキはルナのちょっとした一言とかに救われてるんだと思います。ユズ君と同じく。
 ルナはそういうの全部、素で(というかノリで)できちゃう稀有な存在なんだと。
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comment

…!!

  • 三日月(みこぜ) URL
  • 2009/03/27(金) 21:07
  • edit

しまった、今回は奇声が出なかった…

ヒビキさんかっこよすぎです…!何だか惚れてしまいそうです←
…そして今度はヒビキが悩んでるお話が見てみたいと思った自分がいます(ヲイ


あ、あと、ウサギには声帯はないけど鳴き声のような音は出せるんですよ…!

ついに奇声が(笑)

  • 樹神 〔管理人〕
  • 2009/03/27(金) 21:29

 声が出なかったというのは、喜んでいいのか……でも楽しみの一つだったので残念でもありますw

 ヒビキさんかっこよく書けてましたか!
 「ありがとう。でも、惚れるのはルナ限定ってことで」とかは言いませんよ、たぶんw
 ヒビキさんが悩んでるのですか……脳みそかっぽじってひねり出してみます!
 実は過去一度、お題の「君の言葉に救われる」で考えたことあって、途中で投げ出してユズルナに変更しちゃったんですよね(^_^;)
 今度はがんばってやり遂げてみせます!!

 ですよね~。小学生のときに学校で飼ってたウサギが「きゅーきゅー」鳴いてましたもん。
 だから余計に声帯がないってのに驚きました!

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