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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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舌戦で呆気なく敗れた時

自分のお題でボカロ兄弟やってみます。『敵わないと思い知らされる時で10のお題』の4から。
レン視点でKAITOと。カイミク・リンレン前提。

配布元:原生地






「なあ、兄貴」

 ミクと一緒に電子の世界に戻ってきた少年は、真っ先に兄の元に向かった。
 彼は声をかけると振り返って、微笑みかけてくる。
 ……やっぱり。



Complete defeat
  ~ なく れた




「ん? なんだい?」
 思わず顔をしかめたレンに、KAITOは首をかしげた。
 いつもと何も変わらないように見えて、全く違う表情。
 少年は大げさにため息をつく。

「勝手にやきもち焼くの、やめてくんない?
 オレがミク姉のこと何とも思ってないって知ってんだろ」
 前にマスターがミクに歌わせたオリジナル曲を、レンがカバーすることになった。
 だから今日は一緒にリアルに行っただけで、特に深い意味はない。
 ただのVOCALOID仲間で、姉にしては頼りない兄弟だ。
 それ以上でも以下でもないし、特別な感情なんてリン以外に持つはずがないのに。
 目は口ほどに物を言う。ということわざの意味が、体現されている。
 顔は笑っていても、サファイアブルーの瞳は色の通り、温度のない石のように冷たい。
「…………分かっては、いるんだけどなぁ」
 困ったような表情を隠そうともせず、こればかりはどうしようもないんだ、と呟き。
「謝るのも変かもしれないけど、ごめん」
 そう、続けて力なく笑んで謝った。
 歌うために作られた感情プログラムに、歌とは関係ないところで振り回されている物の苦笑だった。

「男の嫉妬は醜いって聞くけど?」
 気持ちは分かるけれど、それでつらく当たられる方の身にもなってほしい。
 鋭さを含めたレンの言葉に、KAITOは情けない顔をした。
「そんなにあからさまかな?」
 あれで隠していたつもりだったのだろうか。
 確かにリンやミクに比べれば、穏やかな青年の感情は読みにくいとは思う。
 けれど、性別設定が同じなら大体の思考パターンは分かる。
 彼がミクに好意を抱いていることも知っていれば、なおさらのことだ。
「そりゃもう、バリッバリに」
 わざとアクセントをつけて言えば、さらに崩れる表情。
 兄の威厳も年長者の余裕も、どこにも見当たらなかった。
「できるだけ気をつける、ようにするよ」
「それ、できないって言ってるようなもんじゃん」
 きまり悪そうに頭を掻く青年に、追い討ちをかける。 
 “できるだけ”に“ように”をつけるなんて、どれだけ自信がないのだろう。
 初めから無理だとはっきり口にした方が、まだマシだ。
「あはは、そうかもね」
 場に合わない明るい声に、思わず眉をひそめる。
「笑ってごまかすなって」
 彼はいつもそうだ。あまり感情をあらわにしないで、のらりくらりとかわしてしまう。
 ミクが絡むと少し分かりやすくなるから、こうして突っついているのに。
 たまには目標でもあり、ライバルでもある兄を、言い負かしてやりたかった。

「けど、レンも無理だろう?
 僕にやきもち焼かないっていうのは」

 にこっと人好きする笑顔で、KAITOは嫌な話の振り方をする。
 その言葉に一瞬、声を詰まらせた。
「……ばれてたのかよ」
 リンが彼に懐いている時。二人が一緒に歌う時。
 つい、そちらに視線が向いてしまうこと。思わず不機嫌になってしまうこと。
 綺麗に隠せていたつもりだった。
 けれど、イイ性格をしている青年は知っていながら黙っていた。
 気づいていなかったのではなく、気づかないふりをしていただけらしい。
「そりゃもう、バリッバリに」
 アクセントまでレンに似せてKAITOは言う。


 こんなときの兄は憎い、と少年は再認識した。





 レンにとってはMEIKO姉さんが頼りになるけどちょっと怖い姉で、ミクは頼りにならなくて放っておけない姉。
 別にミクが嫌いなわけではないのです。リンが別格なだけ。
 ちなみにKAITO兄さんは、頼りになるときもあるけど頼りたくない兄(笑)


 『敵わないと思い知らされる時で10のお題』 4・舌戦で呆気なく敗れた時   配布元:原生地
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