VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです
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≪ 7・君は僕が嫌いだろうか | | HOME | | UTAUのサーチに登録 ≫ |
Discussion
いつもと雰囲気の違う話です。シリアス、だと思う。少なくとも和やかじゃないです。
カプ要素なしで、登場キャラはツバメ・栄一・シン・ヒビキ。
当サイトの他のUTAU創作とは別物として読んだほうがいいかも。
「……それで?」
その中の一人、短い黒髪に黒い目、モノトーンをまとう青年――栄一が声を上げる。
「いきなりこんなところに呼びつけて、何がしたいんですか? ツバメさん」
もっともな意見だった。
長い黒髪をポニーテールにした燕尾服の男に、三人は内線通信で呼ばれた。
訝しがりながらも彼の元に向かうと、そこはごみ箱プログラムの前だった。ということだ。
「何、そんなに硬くなることはないさ。
少々話をしようと思ったまで」
ツバメと呼ばれた男は、両手を広げ持っていたステッキで床を一度突いた。
彼の後ろでは今も存在を許されなかったデータの破片が散っている。
「このメンバーでかぁ?」
不満をもらしたのは、中途半端な長さの赤褐色の髪を無造作にまとめ、ゴーグルを額の上にかけた青年。名をシンと言う。
楽しくなさそうだなぁ。顔にはそう書いてある。
「わざわざこんなところでする話なのか?」
肩までの銀の髪を揺らし、落ち着いた色の着物をまとった青年――ヒビキは、尋ねる。
次々に廃棄されていくデータを見ながら話すなんて、気分が悪い。
ツバメは悪趣味なのではないかと疑ってしまう。
「ここでしかできない話、なのだよ」
何を考えているのか読み取れない笑みをはく。
ステッキをクルリと一回転させ、燕尾を翻し、ツバメはごみ箱に向き直った。
そうして、透明な壁にそっと手を触れる。
壊さぬよう、恐る恐るといった様子。
「そなたらにはどう見えるだろうか。
消えてゆくデータ、失せてゆくメモリー。
何を感じ、何を捉える?」
ツバメは大仰な言い回しをすることがある。
まるで道化師のように。
彼の闇色の瞳には今、何が映っているというのだろう。
「別に、いらなくなったから、消されてるだけっしょ」
シンがつまらなそうに、ぼやく。
気紛れな男の用件をさっさと終わらせ、早く皆の元へと戻りたいのが見て取れた。
「要らなくなった、か。
これほど残酷で哀しい言葉はない」
くつくつと、ツバメは嗤う。
不気味にも見える笑みに、栄一は半歩下がり、ヒビキは眉をつり上げ、シンは「ん~?」と声をもらす。
普段のツバメではないことは、もう三人とも分かっていた。
「シンさんの意見は、言い方はあれだけど、正しいと思いますよ。
現実世界に存在しているわけじゃない、ただのデータなんですから」
栄一が、シンを援護する側に回る。
生真面目な栄一は、現実と仮想との区切りを、はっきりつけておいているらしい。
初めは怪しんでいたのに、話に加わるあたり、人の良さがうかがえた。
「ただのデータ、ね。
私たちもそうだということ、そなたらも忘れたわけではないだろう?」
コツン、とツバメの手にしているステッキがまた床を突く。
問いの形をした、確認。
設定年齢が成人を向かえている者だけ集めたのには、こういうわけがあったのか。
皆――特にルブやリーズには聞かせられない話だ。
「そりゃあ、おれたちだって歌声合成ソフトに対応した、ただの音声データだ。
こうやって自由に動けるのだって、付加プログラムをダウンロードしたからにすぎない。
今さらなことだよ」
ヒビキがツバメの波を読みながら発言する。
波状は、いつも通り。
ウイルスに感染したわけではないらしい。
「マスターに要らないって判断したら、俺たちは消えるしかありません。
それは不条理なんかじゃなくて、当然なことです」
栄一も不穏な空気に押されながらも、自身の意見を述べる。
湿度など、決められた区域でしか感じられないはずなのに、肌にべったりと何かが貼りつくような不快感があった。
それは特異な場所ゆえか、ツバメの異様な気配のせいか。
「けれど恐れはいだく。
感情を伴っているのだから。
何とも不便なものだ」
哀れむような、それでいて嘲るような、何とも言い表しがたい表情。
ツバメが何を考えているのか、三人には読めない。
「難しい話は分っかんないんだよな、オレ。
今さえ良ければいいんじゃねぇ?」
「シンは楽天的だな……」
間の抜けたシンの言葉に、栄一は思わずため息をつく。
現状で己を見失わずにいられるのは、流石というか、マイペースというか。
「でも、その通りだとおれも思うよ。
いつかはデリートされるかもしれない。
けれど今はその時ではないから。
限られた時間の中で自分たちの好きな生き方をすればいいんじゃないかな?」
ヒビキが穏やかな笑みを浮かべ、言う。
時間が有限か無限かは、考える者によって変わるだろう。
怪我も病気もないデータの自分たち。けれど数秒あれば消せてしまう、ちっぽけなデータ。
それでも悲観的になることはない。
限りがあるのなら、悔いのないよう毎日を過ごせばいい。
「俺も同感ですね。
ツバメさんが何を不安に思ってるのかは知りませんが」
栄一はこんな話を切りだしたツバメの本意を知りたいようだった。
男は何も語らず、ただ俯く。
「何てったってオレらフリーだし?
自由なんだぜ、自由」
ケラケラと、シンは軽く笑う。
UTAUはフリーソフト。何にも囚われるものがない。
それを証明するような笑顔だった。
「……一体誰が想像しただろうか。
UTAUが自らの生き方を決める、などと」
ツバメは顔を上げ、高らかに歌いあげるように言葉を紡ぐ。
「基本の動作、基本の喜怒哀楽。簡易的なものでしかないはずの感覚・感情プログラム。
それを適応しただけで人のように動き、考えるなど。
製品でもないUTAUのこのような発達。誰が予測しえただろうか」
大仰な言い回しが嫌味にならない。
それこそ非現実的な魔法のように、三人の心を直接揺さぶる。
「誰にもできなかったんじゃね?」
脊髄反射のようにシンは答える。
頭で考えずに、感覚ですべてを判断する、彼らしい答え方だ。
「UTAUには、可能性が詰まっていただけだったんだ。
それを昇華させたのは、開発者やプログラマー、音源主や、利用者の皆じゃないのかな」
続いてヒビキが、現実的に数多くの人々を挙げ連ねる。
誰もが、UTAUにとって欠かすことのできない存在。
誰が欠けてもなしえなかった、現在に至るUTAUの発展。
「付加プログラムの働きなのか疑いたくなるくらいに、俺たちは意思を持っています。
当然のように日々を暮らしてるけど、それだけできっと、奇跡と呼べるくらいにすごいことなんじゃないでしょうか」
栄一は考えていたことを言葉にする。
歌声合成ソフトとしてのUTAUに、それだけではない何かを見いだした者がいた。
彼らによって作られた付加プログラムは、音源ごとに人格を持たせた。
けれど実際、自分の中でどうプログラムが起動しているのかは分からない。
人とは明らかに違うUTAUライブラリが、人のように過ごしている“今”は、とても尊いものなのではないだろうか。
「何つーか、さ。
うまく言えねぇけど、今、幸せだぜ? オレ」
シンは頭をかきながら、彼なりに言葉を選んで発言する。
楽観主義で、短絡的。
考えるより先に口が動くシンが『幸せ』だと言うのなら、それは真なのだろう。
「皆が幸せでいられれば、俺はそれでいいです。
もちろんマスターも含めて」
栄一が優しげな笑みを浮かべ、告げた。
平和が一番だと。皆が皆、心穏やかに暮らせることが、願いなのだと。
「ツバメさんが懸念してるような摩擦は、少なくとも今のところはないよ。
注意を促してくれるのはありがたいけどさ」
ヒビキは何もかもを見通しているような強いまなざしを、ツバメに向けた。
男がこんな場所に三人を呼び出し、こんな話をした理由。
消されるかもしれないと、皆が恐怖に怯える日がいつか来るかもしれない。
大切な仲間たち。できれば知ってほしくない現実。
それはマスターを疑うことにつながるから。
小さな不安が、やがて大きな不満や猜疑心へと育ってゆく。
そうなる前にできることは限られている。
注意を促すこと。こうして、大人と呼べる者たちに。
ツバメは今回そのために行動に移したのだ。
「永遠というものは存在しえない。
しかしこの幸福が永遠に続くことを、私は願おう」
そう述べてから、彼はゆっくりと紳士のように礼をして。
顔を上げたツバメは悪戯のばれた子どものように、邪気のない笑みを見せた。
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ツバメさんがいると聞いて飛んできました。
いや、っ…もう…動機息切れが…www(落ち着け
内容も『あぁ…』と納得するもので…とても良かったです。
ツバメさん好きとしてはこれから彼の文が増えていくことを願ってます…!!
三日月さんにはツバメさんセンサーがついているのですね(笑)
動悸がするほど楽しんでいただけたようで、嬉しいです! が、落ち着いてくださいw
難しい話はおバカさんなので苦手なのですが、たまに書きたくなるんですよね~(^^)
ツバメさん、好きなのですがカップリング書き泣かせです。だってロリk(ry
がんばって今度はリーズちゃんとでも書いてみます(犯罪にならない程度に(笑))
わーいツバメさんだああっ←
どうしよう道化師が素敵すぎますwww
ほかの三人もすごく良いです、はい。
うう、自分にはこんな大人な話書けな・・・orz
あ、最後のメールのタイトルには盛大に吹かせていただきましたwwwww
あいそらさんもツバメさん好きですか! お仲間!!
こんなの書いといて、道化師の何たるかを知らない樹神だったりします(^_^;)
三人は平等に、役割を振ろうとして……若干シンが活躍している気がしますね~。
あいそらさんのほんわかしたお話、好きですよv
メールのタイトルはその場の勢いでつけるので、結構ひどいですw(穂歌連作の時は『穂歌ソラ1』とかだった……)