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しあわせの音

VOCALOID・UTAUキャラ二次創作サイトです

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Brother and Sister

微妙に「Memory」の続き。
オリジナルマスターが出張ってます。一応マスメイ前提。






 “兄妹”という、確かなようで曖昧な関係。
 血のつながりなんてないから、他人と言ってもいいだろうに。
 それでも“兄妹”という線引きにこだわるのは、少しでも距離が欲しいからなのかもしれない。



Brother and Sister




 口を開く。歌が部屋に響き渡る。
 KAITOは瞳を閉じた。聞えるのは自分の声。感じるのはマスターの視線。
 伴奏はなく、己を楽器として奏でる緩やかなメロディー。
 ふと、肉体がなくなって、歌自身になったような感覚になる。
 この浮遊感が心地良い。
 きっと、人で言うところの“幸せ”というものなのだろう。

 サビの途中で、一瞬声が途切れた。
 何でもない風を装いながら、歌い続ける。
 けれど耳のいいマスターには絶対に気づかれただろう。
 動揺を隠しながら、KAITOは歌いきった。
「よし、お疲れ」
 マスターが労いの言葉をかけてくる。
 一見冷たく思われがちな彼は、実はとても情が深く気配り上手だ。
 こうしてただのソフトウェアでしかない自分にまで、人に対するように接してくれる。

「やっぱりマスターの曲、優しくて大好きです」
 そんな人が作ったメロディーからも、心が温かくなるようなぬくもりを感じた。
「優しく感じるのはお前が歌っているからだろう。
 そう打ち込んだつもりもないのに、気持ち良さそうに歌うんだからな」
「僕はただマスターに教えてもらった通りにしただけですよ」
 にこり、と得意げな笑顔で告げる。
 つまりは『教えてくれたマスターが優しいからだ』と。
 言葉の裏に気づいたのか、男は困ったような顔をして息をついた。
「まあ、どちらでもいいけどな。
 ……しかし、サビのところでつまづいたようだ。
 十六分休符くらいか? 声が途切れた」
 彼はパソコン画面を見ながら、そう言った。
 起動されているKAITOの本体を横スクロールさせながら確認する。
「打ち込みは間違っていないはずだが、……エラーか?」
 あごに手を当てて考え込む。
 理由を知っているから、ただ黙っていることしかできなかった。

「お前も恋の歌は苦手か?」

 核心を突くマスターに、青年は言葉をなくす。
 落とした視線の先には机の上の歌詞が書かれたメモ帳。
 神経質そうな白く細い指が、サビの『君を好きになった』を指していた。
 KAITOが一番顕著に反応してしまったところだ。
「……かも、しれません。
 すみません。VOCALOID失格ですね」
 自嘲気味な笑みをはいて、頭を下げる。
 認めるしかないだろう。これは、確かにある意味エラーだ。
 打ち込まれた通りに歌を再現できない。
 VOCALOIDとして、あってはならない致命的なエラー。
 歌えないVOCALOIDなど、腐って食べることのできない食材と同じ。
「いいさ。お前たちにだって苦手なものの一つや二つあるだろう。
 何て言ったって感情があるんだからな。その方がより人間じみた声になる」
 マスターは気にしないようにと、励ますようなことを言う。
 だからって、その感情に邪魔されて歌が思ったように歌えないのでは本末転倒だ。
 そう考えているKAITOは曖昧な表情を浮かべるしかない。

「メイコも少し歌いづらそうだった。
 ミクの場合は、まだあまり理解していないようだったな」
 首をかしげて不思議そうに話すマスターに思わず苦笑してしまう。
 MEIKOが歌いづらそうにするのも当然だ。
 好きな人を前にして恋の歌だなんて、平然と歌えるはずがない。
 夢見がちなくらいの詩を書くのに、自分のことになるとてんで鈍いのだから。
 彼女と一番付き合いの長いはずの男が、一番MEIKOのことを知らない。
「この間の曲も、一応恋の歌だったのにな。
 ミクが意識していなかったからか、ずいぶんと爽やかになった」
 ほら、今も。
 どこかのフォルダの陰で聞き耳を立てているだろうMEIKOのことなど考えず、ミクのことを語り出す。
 まあそこが、彼らしいのだけれど。
「ミクにはまだ早いですよ」
 穏やかに微笑んで、相談に乗る。あくまで“兄”の顔で。
 己はミクの優しい兄だ。つい可愛い妹を甘やかしがちな、兄。
 彼女も意識していなかったからこそ、青年に恋の歌を歌うことができた。
 ただ礼を告げるための歌だと。兄に対する感謝の気持ちだけをこめて。
「カイトがそう言うなら、そうなんだろうな」
 マスターは含みのある言い方をして、考え事の最中に指紋をつけてしまった眼鏡を外した。

「この曲、な」
 眼鏡ふきで汚れを拭いながら、彼はKAITOと目を合わせずに話し出す。
 青年が首をかしげると、ため息をつきながら眼鏡をかけ直した。
「ミクにも少し歌ってもらう。
 コーラスと、後は『ありがとう』の部分を重ねようと思っている」
 この曲は前のものとテーマが似ているから、と。
 マスターの言葉にこの間ミクが作ってもらった曲を再度思い返した。
『ありがとう私の優しいナイト』
 少女のソプラノが蓄積されたデータの中から引き出され、自動再生される。
 確かに両方とも感謝を伝えることがテーマだ。
 歌詞がリンクしているわけではないから、対と言うほどでもないけれど。

 ミクは、喜ぶだろう。

 一人で歌うより、皆と歌うことの方が好きな彼女のことだから。
 その曲がどんな意味なのか欠片も理解せずに、ただ言葉をなぞるように、しかし楽しそうに。
 KAITOの隣で、澄んだ声を響かせて歌うのだろう。
 素直に楽しみだと思う反面、少し切ない。

 マスターの意図した深みを持たない恋の歌。
 それは少女が恋を知らない幼子だからに他ならない。
 胸を焦がすような苦しみも、熱に浮かされるような愛しさも、感じることなく。
 無垢で無知な彼女は、無邪気な笑顔で恋を歌う。
『いつまでもそのままでいてほしい』
『早くこの想いに気づいてほしい』
 相反する気持ち。けれど、どちらも本心で。
 心の中で渦巻いて、優しい形をしていた“恋情”を歪ませる。

 『惹かれた』や『一目惚れ』など、他にもためらってしまう歌詞はあった。
 その中でも『好き』に一番反応してしまうのは、ミクが良く使う言葉だからだ。
 親愛の情をたやすく音にして、KAITOを惑わせるからだ。

 この歌を合わせる時にも、少女はまた無意識に自分を困らせるだろう。
 それでも、VOCALOIDだから。
「マスターの決定に僕たちは従うだけです」
 にこり微笑んで青年は言った。
 もしかして彼は、気づいているのだろうか? KAITOの気持ちに。
 チタンフレームの奥の闇色の瞳は何を思っているのか、全く読めない。
 気のせいかもしれない。ただの偶然かもしれない。
 けれど、どことなく後押しされているような、急かされているような、そんな感じがした。
「……そうか」
 望む答えではなかったのだろう。元々VOCALOIDとマスターという線引きに苦言をもらしている人だ。
 それでも何と言ったらいいかなんて分からなかった。
 彼の望む言葉を口にしてはいけないような気がした。

 きっと、それはKAITOとミクの“兄妹”としての関係を壊すものだろうから。



 ――本当は誰が一番その関係を壊したいか、分かってはいたけれど。
 臆病な自分はどうしても現状維持の方を選んでいて。
 その理由さえ、彼女を失いたくないからだと言うのなら。
 いつまでも心を騙し通してはいられないことも、やはり嫌というほど理解していた。





 VOCALOIDだから血のつながりがあるどころか親すらいない。
 なのにあえてそこにこだわってうじうじ先に進まない兄さんとかすごく萌え。
 兄妹設定を考えた人はネ申!!

 というかカイミク二作目なのにミクが出てこない。
 マスメイ前提とかもう色々やばいかな?
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